「助かったね、おねーさん。あの人こなかったら、僕、あんまりよくって中で出しちゃうとこだったよ」
やばいやばい、って本気じゃないみたいに呟きながら、和之、私から離れた。
「いいもの見せてあげるよ」
私のこと奥の台所の影に隠しながら、
「ちゃんと見えるところでやってあげるからさ、見てなよ」
ドアのほうから、「ちょっと、和之くん?」早くドア、開けなさいって、声。
和之はその場で着ていたものを全部脱いだ。足首に引っかかっていたズボンも、しわになってしまったシャツも。
私、慌てて目をそらした。和之のあれ、まだ、固いままで。
母さん、をその格好で迎える。玄関のほうで、裸の和之見て息を飲む女の人の声、聞こえた。それから、衣擦れの音。
和之、女の人の服を脱がせながら部屋に戻ってきた。パサリと落ちたスカートを見てから、見上げた。女の人の顔。
ずいぶん若い人だった。「母さん」というイメージ、頭の中でぐにゃぐにゃになった。
和之、部屋の隅のテレビと対角に置いたベッドに掛けると、女の人を引き寄せた。
「イキそうなんだ。……母さん」
母、さん……。
せいぜい25〜6の、きれいな人だった。母親には、見えない。
もう、すっかり和之に脱がされて、自分で和之の手をそこに導いていた。……セックス、する場所。和之の指を伝って透明なもの、流れた。
「ああっ、はあっ、はあっ……」
彼女の声に私、我に返ったみたいに目を見張った。
その声、同じだった。あのときの夕太……。なにかが性急に込み上げてくる感じ。
理性を手放したあの声。
なにも見たくなんかないのに、見てた。
「来て」
呟いた和之の唇にキスをした。絡む舌が見えた。
和之に手を引かれて和之に彼女は腰を下ろした。和之にまたがって、十分にぬめったそこに和之を埋めていく。
密着する部分、ずくずくと入り込んでいくそこを、和之、ちゃんと私に見せる。和之、私を見て笑う。
全部入って、彼女、吐息吐き出した。
「わたし、来るって言っておいたのに」
「我慢できなかったんだ」
「ひとりでするところだったの?」
「そうだよ」
和之、彼女の胸に顔、寄せた。
「は……あん」
彼女の声を聞きながら、
「あなたが来るのを考えたら、それだけでイキそうだったんだ」
和之は掛けたまま、動き出したのは彼女の腰。
「あなたのは、お父様よりすてきだわ」
「そう? それは、よかったね」
和之、彼女の腰を引き寄せた。
「あぁん……っ」
彼女の、声。甘い声。
耳を塞いで聞き流せない。どこか、神経に障るような声。
私、慌てて自分のセーラーの裾、直した。スカートの裾で、膝、隠した。スカート短くしているの、こんなに嫌に思ったことない。
スカートの裾引っ張ってる私、和之に笑われた。
『おねーさんも、したくなった?』
口が動いただけの言葉、はっきりわかって、首、振った。
やだ。やだ。やだ!
和之、私を、見る。
私を見たまま、腰、突き上げた。
「あ、っはあ、ん……っ。ああっっ!」
堰を切ったみたいに、甘い声。
私、耳、塞いだ。
でも、和之、私のこと見てて。
見てるから……見てる和之を、見てた。
瞬きもできないで、彼女を抱きながら私を見る和之を、見てた。
私、いつの間にか声も上げずに泣いてた。
和之はもっと笑って、笑いながら何度も彼女を抱いてた。
悪い、夢みたいだった。
「おねーさん」
耳を塞いでいた手、掴まれて我に返った。
和之、何度も私を呼んでた顔で覗き込んできた。
和之、裸のままで、私の目線に合わせて、ちょこんと座り込んでた。
部屋の中、私と和之だけで。
悪い夢を見たんだと思って、でも、香水の香りがしてて。いつの間にか効いてたクーラー、風起こすたびにふわんて、香水の香り、して。
「……あの、ひと……は?」
和之、私の焦点合ってなくて、合ってないようなの確かめるみたいに私の目の前でひらひら手を振りながら、
「帰った」
「……あ、そう」
頭の中、ぼやっとしてた。泣いたせいかもしれない。あの女の人がいつ帰ったのか覚えてない。
「おねーさん?」
ひらひら、手、振りながら、
「なに? 見てただけでイっちゃった?」
変な笑顔作る。私のこと軽蔑したみたいな、それがおかしいみたいな。
でも私、相変わらずぼやっとしまま、
「なんか、……恐かった……」
お化け屋敷から出てきて、やっと出れて、安心したみたいに言った。ほって息ついたら、和之、私の頬、触った。
涙の跡、触ったみたいだった。
ほんの一瞬、触る。汗でべたついたままの和之の手、あ、触った、って、思うより早く引っ込んでた。
和之、私のこと触って、後悔、したみたいな顔。
クーラーの風、強くなって、香水の香りがして、和之、また表情変えた。
後悔、よりももっとなんか、苛付くこと思い出したみたいに立ち上がった。
「あの女、親父の後妻さん。親父じゃ物足りないって、家出た僕のところに入り浸りなんだ」
お母さん、ではなくて、お継母さん。
「女って、ケダモノじゃん?」
私の手、乱暴に取って、
「服、脱ぎなよ」
「……え?」
「いいから、全部脱ぎなよ。あの女とヤったあと、僕、機嫌悪いんだよ。言うこと聞いた方がいいよ」
本当に、不機嫌だった。
私、珍しいもの見た気分で、
「和之でも、怒るんだね」
いつでも、笑ってるんだと思ったからつい言ったら、
「はあ?」
苛々するみたいに、声、いきなり低くなった。
「だから僕、おねーさんのこと嫌いなんだよね」
いいからさっさと全部脱げよ、って、怒鳴られた。
セーラーの首元鷲掴みにされて、殴られそうな勢いに身を竦めた。慌てて、服、脱いだ。なんだか、変な気持ちで服、脱いだ。学校で、身体検査するから脱ぎなさいって、言われたみたいな気分だった。みんな脱ぐから、私も、脱ぐ。
「おいでよ」
手、掴まれて、ユニットバスに押し込まれた。蛇口ひねると冷たい水が勢いよく出てきて、私も和之も頭から濡れた。すぐに熱いお湯に変わった。
和之、嫌なもの洗い流すみたいに、はじめひとりでシャワーを浴びてた。がしがし自分の腕とかこすってた。私、いったい何事かと思って和之、見てた。しばらくして、ポツンて立ってる私に、和之、気が付く。……本当に今、気付いた、って感じだった。
「……おねーさんさあ」
「え?」
私の返事に、がくーって気が抜けたみたいに和之、肩、落として。
「いいから、そこ座って、足、開いて」
肩、押されて、浴槽に座らされた。
「あ……いや……」
和之、私の足、無理矢理膝に手をかけて開いて、顔、埋めてきた。
「和之……っ」
さっき、和之がムリに入れたところ、嫌な感触した。ぬるん、て感触。舌の、感触。
舌が、予告もなくそんなところに割って入ってきて、ぞくってした。
背中、なにかが駆け上った。
「和之……」
いや、やめて、って、足、閉じようとして、閉じられなくて。舌、奥に入ってくる。そしたら急に、
「や、痛いっ」
傷口、触られたみたいな感じした。
和之が顔を上げた。私の中に入れた舌で、唇、舐めながら。
「さっき、おかしーと思ったんだ。おねーさんぜんぜん感じてないのにけっこー入っちゃってさ。やっぱり血だったんだ。ごめん、傷になってる。爪、切らなくちゃと思ってたんだ」
また、顔、埋める。
「い、やあ。……ねえ、和……之」
和之、やめない。ずっと奥の傷、舐める。
犬が、ほっぺた舐めてるみたいに。なんでもないことみたいに。
ンっ、って和之の息する音。なにか待ってるみたいに舐め続ける。吐き出した息、暖かくて。そのうちに、
「……ん……っ」
熱い息、漏れて、私、慌てて自分の口押さえた。
「気持ちいい?」
和之の声。待ってたものを、見つけた声。
「いや……あ」
いや、なのに、なにが嫌なのかはっきり言えない。
和之が舐めるそこ、びくんて震えて、私、顔、両手で覆った。
「あ……」
やだ、声、出る。
「気持ちいいんだ?」
首、横に振ったけど、
「おねーさんも、ケダモノ?」
和之の声、すぐ近くでして、目を開けると、すぐそこに和之の顔があった。あの女の人をケダモノだと蔑んだ目、私にもしてるんだと思った。
でも、和之、そんな目、してなかった。
近付いてきた唇で、キス、した。
「僕としようよ」
いたずらっ子みたいに耳元で囁いた。
「優しくするから、しよう?」