学校の帰り道で、いきなり手、掴まれた。
「おねーさん」
かけられた声にもびっくりして、からだ、びくっとして、あのときみたいにくすくす笑われた。
「相変わらず、初々しくっていーよね」
「……和、之」
「あ、そうだよね、ちゃんと覚えてるよね。忘れないよね。それは、もちろんさ」
なにか確認するみたいに私、じっと見て、なにか確認し終わったみたいに笑った。和之、私の手、掴んだまま、
「今度は僕としよーねって言ったのも、ちゃんと、覚えてる?」
「……い、や」
「いや、じゃないでしょ。バラしちゃうよ。おねーさんの初体験の相手が弟だって、大きな声で言っちゃうよ?」
普通に、なんでもないこと喋ってるみたいに、
「もしかしてその後、夕太とやりまくり?」
「違……っ」
「じゃあ、小川くんともうヤった?」
私、慌てて首、横に振った。振ってすぐに、なんでこんなこと正直に答えてるのかと思って唇、噛んだ。
あの日のこと思い出すだけで指先、冷たくなった。あの後も夕太と普通に生活してることも、普通に学校行ってることも、普通なのに、普通じゃなくて。
和之に掴まれてるとこざわざわする。
同級生の子達が、バイバイって言って私たちの横、通り過ぎてく。和之、私が逃げ出そうとするの見透かしてるみたいに、手、強く掴んでる。
「僕にもさ、小川くんの前にヤらせてよ」
中学校の制服着たままの和之、私と同じくらいの目線で、唇だけで笑った。
和之の親指の爪、手首に食い込んで、痛い。
「ああ、痕ついてる。痛かった?」
ただそう言ってみただけみたいだった。
和之、自分のつけた爪の痕、舐めながら私を見て笑った。でも……。黙ったままの私、気に入らないみたいに手首に噛み付いた。
「相変わらずおとなしい人だよね。この間だって、だから黙ってやられちゃってさ。今日も黙ってやられんの?」
噛んだ痕、舐めて、
「ま、黙ってても黙ってなくてもやっちゃうけどさ」
和之、手、離した。
学校の近くのアパートに連れ込まれて、玄関入ったところでカチャカチャ鍵、かけたところで、
「逃げてみる?」
和之、うっとうしそうにカバン、玄関の奥に放り投げた。玄関先に座り込んだその目、前みたいになにか心から楽しんでるみたいじゃなくて、やる気、なくて。逃げていいよって言うならもちろん逃げたくて、ドアノブに飛びついた。回しても開かない。そういえば鍵、かけてたの思い出してノブのすぐ下の鍵、回した。カチャって音して、またドアノブ回した。
「……え……?」
鍵、開けたのにドア開かなくて、私、突然追い詰められたみたいにあせってガタガタ乱暴にドアノブ回した。でも、どうしても開かない。うそ、どうして?
「コツいるんだよね、そのドア」
振り返ったら、和之、私の顔見て、さっきまでとはぜんぜん違う顔をした。おもしろそうに声、あげて笑い出した。
「ほら、その顔」
私の顔、指差して、
「その顔じゃないとね」
おかしそうにお腹抱えて笑って立ち上がって、私のウエスト、絡みつくみたいに抱き締めた。
「や、だ……」
「そーだよね。もっと嫌がりなよ。じゃないとやる気でないから」
首筋に舌、押し付けて、
「ドア、開けられたら逃げていいよ」
和之の手、セーラーの裾から入ってきてキャミソールをたくし上げる。ブラジャーの上から胸を鷲掴みにされた。
「痛……っ」
先っぽ強くつままれて悲鳴上げた。思わず座り込んで、一瞬和之の手、離れて、ドアに飛びついた。でも、開かない。
「ざぁあんねん」
ぜんぜん残念じゃなさそうに言った。私に手、伸ばしてくる。その手、振り払って、逃げ場ないことわかってて逃げ出した。でも、1LDKのアパートの中、本当に逃げ場なくて、呆然とした。
「ここ三階だけど、ベランダから飛び降りてみる?」
でもそんなことしたら目立っちゃうよ、って和之、近付いてくる。
「おねーさんが僕の部屋になんの用だったのかな? とか、色々詮索されたら困るよね?」
「いや……おねがい……」
「おねがい? なんの? 追い詰められてドキドキして、もう濡れてんじゃないの?」
フローリングに無造作に置かれてたクッションに滑って転んだ私に、和之、乗りかかってきた。
「ま、濡れてなくても……」
言いながら、スカートの中の下着引き下ろして、途端につまらなさそうに眉根、寄せた。
「生理、終わってんだ? この間、夕太さ、おねーさんの血ぃ見て興奮してんの。僕もあやかろーと思ったのに、計算違いだったね」
それでもま、いいかって。ズボンのベルト緩めてチャック下ろした。
「悪いけど、今日は優しくできないんだよね」
私、両手、頭の上で押さえつけられて動けない。キャミソールからはみ出たままのお腹……肌に、和之、顔、埋めた。
「だっておねーさん、かわいいまんまじゃん?」
やんなっちゃうよね、って言って、顔上げてからだをずらすと、ズボンの中から出した自分のもの、私のお腹に押し付けた。私の顔には、和之の顔、近付いた。
「夕太さあ、おねーさん見てるだけで勃ってしょーがないんだって言ってた。ヤりたくてヤりたくてしょーがないんだ、って」
その気持ちわかった。って目のそばに和之の声、落ちてきた。
「ぞくぞくする」
和之のあごの先から汗、落ちてきた。私の頬に流れて、クーラーも付いてない、窓も開いてない暑い中にいることを思い出した。夏の、和之の白のシャツだけが目には涼しくて。
背中、フローリングの床がかたい。……痛い。
「おねーさんとヤれんのかと思うと、ぞくぞくする。なんでだろーね?」
和之、自分の足に私の足ひっかけて、力ずくで足、開いた。
「いや。いや! 和之……!」
「いや?」
和之、私がそう言うの、まったくわからない顔で、
「なんで? されてるおねーさん、感じてたじゃん。嫌な人は、感じないよね」
私の目の前から、和之の顔、すって下がった。
私の入れようとするところにそれ、押し付けて、
「ふーん、ほんとに濡れてないね」
なんでもないみたいに言って、でもいいや、って。
「あうっ!」
あのときの経験からいくと、ぜんぜん、それを受け入れる準備してないところに無理矢理押し込んできた。
「あ、あ……っ」
力ずくでねじ込んでくる。和之のそれと、私の中、引き攣れて、息、止まるかと思った。
「ふ……ん。ずいぶん、キツいよね」
乾いた土地に杭、無理矢理打ち込むみたいな感触。
「あ……あっ」
その痛みに声、上擦る。
「痛い……和、之……」
「痛いのヤだったら、早く僕のこと感じなよ」
「……和……っ」
からだのなかの和之、熱い。ギシギシめり込む音、聞こえてきそうな気がする。
突然、
「うわ、やっぱキツ……っ」
和之がそれを抜いた。
私、必死で這うみたいに逃げる。でもすぐに掴まった。背中に覆い被さって、
「逃がさないよ」
舐めた指を乱暴に突っ込んできた。ぬるんとした感触が滑るように内壁を押し分けて入ってくる。ぎちぎちでない感触はゆっくりと動いて、中をなぞる。
私、目を閉じた。
……やだ……。嫌だ……。
肩を掴む和之の手が熱い。一瞬、その熱さに気を取られた。
背中に体重がかかって、抜いた指の代わりにねじ込まれたものは、和之。
「い、やああっ、あ……!」
全部、一気に入ってきた。
私、自分を支えてた腕、力が抜けて床に突っ伏した。腰だけが、和之と繋がったまま高い位置で支えられた格好。捲くれたスカートが、ざわざわと肌に触る。
「おねーさんの中、気持ちいいよ」
ガッ、って、後ろから突き上げられる振動。
ガッ、って、突き上げられるたびに眩暈がした。
「ん……っ」
ただ、酷いことをされているのだけ、わかる。
あとはなにも感じない。
なにも感じないのに、こんなことをしている意味。
されている意味。
感じたのは和之の熱さだけ。
「な、んで……」
私、突き上げられて息、詰まりながら、
「……意味……」
「意味?」
和之、繰り返して、
「おねーさんも気持ちよくなりなよ」
ブラジャーのホック外される。両手が両胸を弄ぶ。やわやわと、それぞれの胸に和之の五本の指の感触。
なにも感じない。感じない私に、和之、苛立って胸に爪を立てた。
「や……っ」
痛みに背中のけぞって、反動で座り込んだ。和之の上に座ってるみたいな格好になる。あれ、入ったままで。自分の体重でもっと、和之が奥に食い込んだ。
喉まで貫かれたみたいな、あの感じ。
夕太のときと同じ。
気持ち、悪い。
「和……」
「ヤりたいだけだよ」
耳元で、はあ、って和之の息。
夕太も和之も同じ、雄の、息。
「意味なんてあるわけないじゃん。ヤリたい以外に、なにがあると思ってんの?」
首筋、髪の毛の生え際の辺り、和之が舐めた。
私、背中にある和之にゆっくり、振り向いた。急いでできない。和之の入ってるとこ、意識が集中してる。
もう、動かないで……。
和之、見た。和之と、目が合った。
「和之……」
ドクンって、私の中で和之、質量増した。
「……っ」
私、抵抗するみたいに掴んでた和之の腕に、力込めた。
なにが起こったのかわからない。私の中の和之が苦しい。
「ん……っ」
声、漏らしたら、ち、と和之が舌打ちしたのが聞こえた。
なにも思い通りにならないみたいな、こんなはずじゃなかったのにって言いたそうな、舌打ち。
舌打ちに気を取られた耳が、ドアのほうでした物音、聞いた。
トントン、って、ノック。
和之、壁に掛かった時計見上げて、
「母さんだ」
あせったふうでもなく言った。