1―2



「もう一本ね、我慢がまん」
「かず、ゆき……?」
 もう一本。そう言ったの確認するみたいに和之に聞き返してた。
 そーそーって、和之、なんでもないことみたいに返事した。
「いや……」
 私の声、聞く気、ない。和之のペースで、指、増やされる。奥まで入ってない。入り口のところ、二本分の異物感。
 足、閉じようとするの、
「おい、ちゃんと持ってろよ」
 指示されて、夕太、また、開く。
 和之の指、少しずつ、奥に入ってくる。
「ん……」
 怖い。
 怖かった。嫌な、感じ。まだ、痛くないけど、痛いこと無理矢理させられそうで、なにされるかわからなくて、神経、そこに集中する。
 和之の指に、集中する。
 私、動けなくなった。
 和之の指はもうそこに入ってて、だから、ほんの少しでも動くのが、怖かった。
 私、怖いのに、和之の指は簡単にそこを押し開いた。
「へー」
 いいもの見ちゃった、と和之、呟く。
「おねーさん、処女だね。膜、見えるよ」
 くすくす笑う和之に、
「あたりまえだろ」
 夕太が言う。
「じゃなきゃ、オレが今日ヤる意味ないじゃん」
「『小川クン』の前に?」
「だから、あたりまえだろ。いつまでおまえだけさわってんの」
 文句言う夕太無視して、和之、さらに指、入れてきた。
 唾で、ぬるんて、ためらいのない指に、
「………っ」
「なに? おねーさん、感じんの?」
「い、やあ……」
 ヘンな感じ、した。ヘンな感じ、した途端に、胸のほうに、なにか込み上げてきた。
「気持ち……悪……」
 そこに初めて入り込んでくる異物に、気持ち悪くて、口、押さえたかった。手、縛られてて押さえられない。
「違うよおねーさん、気持ちいい、んだよ」
「……違……っ」
 まだほんの少ししか入っていないはずの指が、喉のほうまで入ってる気がした。
「っ……」
 だめ……。
 動く指、気持ち、悪い。
 自分でさえさわったことない場所、いじられて、粘膜の場所、直にさわられる。まるで口の中、蛇が動いてるみたいだった。
「おい、夕太」
「あ?」
「おまえも入れろよ」
 和之は自分の指を一本、抜いた。
 代わりに、おずおずと、誘われた夕太の指、入ってきた。
「……やっ……」
 二本の指、それぞれに動いた。
 内側をなぞるように、入り口を滑る。知らない生き物に這いずり回られてるみたいだった。知らない生き物が、そこに見つけた穴に、入り込む。
 気持ち、悪い。
「んん……」
 体、震えた。
「……ねーちゃん」
 固くつむった私の目、夕太、撫でた。
「怖がんないで」
「夕太……」
「ひどいことしてんのわかってんだ。でも、したいんだ」
 指、入れたまま、動かし続けながら、
「……したいんだ」
 まぶたに、キスされた。
「ねーちゃん、いつも優しいじゃん。オレの言うこと、聞いてくれるじゃん」
「……だって」
 だって、それは。
 宿題見たり、テレビのチャンネル権、譲ったり。
「欲しいものだって、オレにくれるじゃん」
 ……だって。
 だって、それは。
 夕飯のおかずとか、おやつとか、いつも食べ物ばっかりで。
「今日も、ちょーだい」
 お願い。
「ねーちゃんを、ちょーだい」
 夕太の、お願い。
「……させてよ」
 懇願。
 泣きそうな声で。
「オレに、抱かれてよ」
 ドクンって、私の胸跳ね上がったの、夕太が指、動かしたのと同時だった。
 ……あ。
 気持ち悪いの、なにかに、ひっくり返った。
 こんなの、おかしい。おかしいのに……。
 涙、溢れた。
「おねーさん、僕達もね、最悪殴りつけてでもやろーと思ってるけど、できればそんなことしたくないから、おとなしくしててよ」
「おとな、しく……?」
「そう」
「いや……」
「そう? でももう、おとなしーけどね。諦めた?」
「……いや……」
 涙流れるの、和之、笑う。
 全部知ってるみたいに、笑う。
   『……させてよ』
 夕太の声。
 夕太のお願い。
 ついこの間まできかん坊のくせに甘えん坊だった、弟。
   『オレに、抱かれてよ』
「……いやあ」
 和之は、ただ、笑った。
「いやって言ってもさ、もうおねーさんさあ」
 耳元で、囁いた。
「感じてるじゃん」
 優しく動いた和之の指、わかった。
 わかるくらい、感じてた。
「ん……っ」
 のどが、上擦ったみたいな声、出した。
 自分の声、びっくりした私、和之も夕太も、おもしろそうだった。
 ヘンにおもしろがってるわけじゃなくて、こんな声、笑われると、思ったのに、そういうふうには笑わなかった。かわりに、もっと、って、言われた。
 もっと、って……。


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