〜 6 〜



「サカエ、くん……」
 泣いてるの? と聞かれて、ますます泣いた。
 神サマにこんなからだを頂いても、手に入らないものは手に入らない。
 いつもいつもいつもユイを抱く妄想の中で考えていたことはたったひとつだったのに。
 泣かせたくなかったのに。
 ユイはリュウを呼んで泣くのだ。
 リュウを呼ぶ唇に触れて、リュウを感じるからだに触れて、リュウを思う心に触れて、それでなにが満足するのか。
 まだ幼いサカエの心は、ユイを無理矢理自分のものにすることもできずに泣くだけだ。いっそ、もっと、他人の心など構いもしないほど心が幼ければよかったのに。
「サカエく……」
「兄さんに、無理やり抱かれてるんだと思った。それでいつもユイちゃんは泣いてるんだと思った」
 違う。ユイはいつもリュウを見つける。リュウに駆け寄る。サカエの手を振りほどく。ユイはいつも、リュウの隣にいる。リュウの名前を呼ぶ。
(神サマ……)
 望むものを間違えた。
 ユイをください。
 ユイをください。ユイをください!
 でも。
 それはユイの望みじゃない。
 だから、泣くことしかできない。
「ごめん……なさい」
 泣きながら謝るなんて子供だ。泣けば許してもらえると思っている子供みたいだ。こんなふうにからだだけが大きくなっても。
「ごめん、ね」
 サカエはユイにコートをかけた。寒そうなユイの肌にはだについたうっ血の痕から目をそらす。サカエがつけた。キスマーク。
「もうしない」
「サカエくん」
「もうしないから。……嫉妬してただけなんだ。兄さんだけがユイちゃんに触る。兄さんだけが……」
 ユイを抱く。リュウだけに、ユイは足を開く。
 想像するだけで、こんなときでもからだは素直に反応した。いや、さっきからずっと反応したままなのだ。今すぐにでもユイを抱きたいのに。抱けないから……。自分を抱き締めて、気分が静まるのを待つしかない。
 そんなサカエに、ユイが触れた。ためらいもなく、張り詰めたサカエのそれに、ズボンの上から触った。
「ユイちゃ……」
「リュウくんと、同じ?」
 きょとんとした顔で聞いて、なんでもないことのように下着を脱いだ。短いスカートの中の下着だけ脱いで、サカエの前で足を開いた。
「ユイちゃん?」
「リュウくんと、同じでしょ?」
 ぺたんと座って、足だけを開く。
「入れていいよ?」
 露になった内ももは白くて……。
「なに、言ってんの……?」
「あのね、はじめはね痛かったの。リュウくんもね、他のみんなもね、ぎしぎししたの。でも最近はなんかすぐにぬるぬるするの。痛くないからいいよ? からだがね慣れてきたんだって。やりやすくていいやって、リュウくんも言ってたよ」
 サカエは愕然としてユイを見た。
「他の、みんな……?」
 ユイはやっぱりきょとんとしたまま。
「リュウくんのお友達もみんなするよ? わたしなんて、バカだからほかに使い道がないって」
 えへへ、と笑う。
「だからサカエくんもいいよ? 入れたら気持ちいいんだって。わたしも気持ちいいはずなんだって。よくわかんないけど、前みたいに痛くはないし、サカエくんも気持ちよくなるならいいよ? 硬くなるのは、入れたいからでしょ?」
 ユイはスカートをめくる。サカエはユイがめくったスカートを元に戻した。
「なに、言ってんの!? なに言ってるのかわかってんの!?」
「あのね、わたし、知能指数ね、中学三年生じゃないんだって。もっとずっと小さい子なんだよ。バカだから、わかんないことのほうが多いよ? だけどね、リュウくんとか他の人とかより、サカエくんならぜんぜんいいよ」
 息を、飲んだ。
「いいよ、入れて」
 鳥肌が立った。
 なにに? こんなの、おかしい。なにかどこか、おかしい。
「……ユイちゃん、さっきはあんなに嫌がってたよね……? ぼくが……しようとしたときには、嫌がったよね!? 同じことだって、わかってる?」
 サカエがしようとしたことを思い出して、ユイは怯えた。
「……同じ?」
「同じだよ」
「リュウくんと、サカエくんが?」
「そうだよ」
「うそ……」
 足を閉じて、慌ててコートで体を隠した。
「……うそ」
「うそじゃない」
「……だって」
 ユイは手のひらで自分の唇を拭った。額を拭った。頬を拭った。耳元を、首筋を拭った。恐る恐るコートを開いて、サカエが触れたところを全部拭った。
「うそ……、やだ……。いや……」
 サカエは声を上げて泣きたくなる。その声を飲み込んで、別の声に変えた。
「やらせてくれるんなら……早くやらせてよ」
 ユイが閉じたひざの間に入り込む。
 なにもする気なんてなかった。……なかったけど、
「いやあ!」
 ユイが、頑なに拒絶したから。
「誰でもいいんなら、ぼくにもやらせてよ。やらせてくれる気、あったんでしょ」
「やだ……。リュウくんでも誰でももういやじゃないけど、サカエくんは、いやあ」
「なんだよ、それ」
「サカエくんはいや。恐いからいや」
「なんでだよ。なんでぼくだけ」
「いや。リュウくん……」
「いつもそうやって兄さんだけ呼ぶんだ!」
「だって、リュウくんが……っ」
 キスを、した。舌を絡めるとユイの言葉が止まった。静かになって、サカエはユイから離れた。
 ユイはまた、手のひらで唇を拭う。
「同じじゃないよ? リュウくんは、こんなことしないよ?」
「こんなこと?」
「サカエくんは同じって言うけど、同じじゃない。サカエくんがすること、リュウくんはしない。入れるだけで、恐いことは、しない。サカエくんが触ったとこ、びくんてするの。リュウくんと違う。だから、サカエくんは、恐い」
 恐いのに、ユイはサカエの服の裾を掴んでいた。サカエはそれ以上ユイから離れられない。
「ぼくが、恐いの?」
 ユイは、サカエだけ感じた。反応して、声を漏らした。
「あのね、わたしね、ずっと、サカエくんがいいよ。でもリュウくんが、サカエくんに迷惑かけるなって言うの。わたしが一緒にいると、つり合い取れてなくてサカエくんが迷惑なんだって。わたしと手を繋いだりね、恥ずかしくて、嫌に決まってるんだって。だからわたしは、リュウくんの隣にいればいいんだって」
「兄さんが……?」
「リュウくんはサカエくんが好きだよ。だからわたしね、リュウくんがいないと、サカエくんがのがよくてダメなんだよ。リュウくんがいないと、リュウくんがサカエくんのこと好きなの忘れちゃって、ずっとサカエくんとずっといたくなるよ。リュウくんがいないと、サカエくんと手を繋いじゃいけないこと、思い出せないよ」
 サカエはユイに服の裾を掴まれたまま、その場にぺったりと座り込んだ。


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