別窓で開いています
こちらのお話は、他のおはなしと毛色が違っておりますです。
どうにもこうにもR-18指定とさせていただきますので、18歳未満の方はぺろっと窓を閉じてください。
ちなみに多分、後味がよろしくないと思われます。
そんなおはなしでもよろしければどうぞ、読んでやってみてください、です。
→こちらから
赤ゴト懸けゴト
ざっくりと切り裂いた感触は、初めて真麻(まあ)とヤったときの感触によく似てた。
肉だ。と思う。
肉の感触。柔らかくて、やわらかくて。
ざっくり、突っ込んだら、どろどろ出てきた。
熱いものが出てきた。
「……ひぁっ!」
声も、同じだ。
あはは、とヒロは、声に出して笑ってた。
「なんだ、同じじゃん」
それから、
「簡単じゃん」
簡単だ、と思った。
「やっちゃうのなんて、なんだ、簡単じゃん」
なあ? と同意を求めたら、
「だから、さっさとやっちゃってって言ってたじゃん」
真麻が、面倒くさそうに言った。面倒くさそうに、どうでもよさそうに、勉強机にもたれてべったり座り込んで、投げ出した足で、真子(まこ)の肩口を蹴飛ばした。
「っ……ぅあっ!」
ざっくりと、それが刺さったまま。刺したそれをヒロが握り締めたまま。
蹴飛ばされて、体が、横向いた分、それがまた深く刺さった。
ヒロはくつくつと肩を揺らして笑った。
「すっげ、おんなじ声。真麻がイクときと」
「あたし、そんな声?」
「おんなじおんなじ。さすが、きょーだい」
「ばか、ふざけんな」
真子に馬乗りになったヒロを、真麻は、真子にしたのと同じように蹴飛ばした。
真子の傷口がまた深くなる。
そんなこと、真麻にもヒロにもどうでもよかった。むしろ都合がよかった。
「ばかヒロ。おんなじとかゆーな」
「なんで、おんなじじゃん。うちのオヤ、いまだに真麻と真子姉の声の区別つかねーくらいじゃん」
「やーだ、やめて。そんなオンナと一緒にすんな。オトコいないくせに、あたし、すごい目で見るんだよ。コドモできちゃって、堕ろしたからってなんだってゆーの。チューガクセーでも、ヤればできちゃうんだっつーの」
「なに、真子姉、オトコいないの?」
「ぜったい処女」
「コーコーセイじゃん?」
「そいつがオトコといんの、見た事ある?」
「ない、なあ」
ふーん、とヒロは真子を見下ろした。
まだ、生きてる。
両手、背中で縛って、足の上に座り込んで、柔らかそうな腹を刺した。
カッターの歯をいっぱいいっぱいに出して、ひとなんか刺したら歯が折れちゃうかと思ったけれど、意外に、折れないまま。でも、真子が刺激に痙攣するたびに、突き刺した内臓の奥で折れて、そのまま、埋もれてなくなってしまいそうで。それならそれで、また別のものを刺してみればいいだけで。
「真子姉、処女なんだ」
ふうん。
カッターの歯、角度、変えたら。
「ぅあ……!」
悲鳴。とか。
声。とか。
「やべ、おれ勃ってきた」
「真子姉に?」
ヒロはゆっくりと真麻を見た。
それがやけに鈍い動きだったことに真麻は気付かない。ヒロも、気付かなかった。
「ばーか」
ばーかばーか、と繰り返して。
真子の腹を押した。真子の、痛みとか状況とかすべてに喘いだ声に、思わず背筋を伸ばした。
やばい。やばいやばい。
どくどくと流れてくるものが。
初めて、真麻とヤったときにも見た。
さらさらしてなくて。どろどろしてて。ぬるぬるしてて。
初めてのあのときだって、一回ヤって。でも。もう痛いからイヤだって言った真麻と、無理矢理、またヤった。
ぬるぬるしてて。それに混じった色を、してて。
イヤってなんだよ。真麻じゃん。真麻が誘ってんだろ。
ばか、うそ、誘ってない。痛い、イヤ。今日はもうイヤ。
痛くない。ぬるぬるしてる。入る。入れたら、さっき真麻だって気持ちいいって言った。
だ、けどっ。
ほら、見ろよ。入る。入るじゃん。
……っあ、んっ。ぃやあっ……あ。
あはは、すげ、締まってる。なに、もっとイヤがったら、もっと締まんの?
ばかばか。痛いっ。動いたら痛いっ。や……あっっ!
痛がってる真麻見てるだけでイキそー。はー、気持ちいー。おれ明日自慢しちゃお。真麻は? 誰かにヤったって自慢する? おれらかなり早くね?
……ひゃ……っんっっ! 早……って、もっと早いコだって……。
いんの? まじ? ……っぅっ。まーいいや。なあ、もっとする? 明日もする?
っう……や、ヒロ、も、ちょっと、ゆっくり。
なんだよ、痛い? 痛い?
あ! ……あ、はぁ、ん、ん、んんっ。や、やん! ヒロ……ヒロ……っ!
気持ち、よさそーじゃん。おれも。なあ、もう出る。……出すっ。なあ、さっきおれ、出したのわかった? わかるもん?
ワカルモン?
わかるのかどうなのか、そんなことヒロにはいまだにわからない。
真麻にはそんなこと感じてる余裕がなくて。
出す前はヒロも気になるけど、出したあとは出したことに満足してどうでもよくなるから聞かない。
ただ、どろどろ、どろどろ混じって。中でも外でもぐちゃぐちゃと混じって。それで中で出来たものもがあって。真麻の腹の中で出来たものがあって。でも別に欲しいものじゃなかったから真麻も出した。
出した。
おんなじ。
字にしたら、おんなじ、出した、だけ。
出しただけ。出してヒロが別になにも変わらないように、別に真麻も変わらなかった。なんにも変わらない。
ふたりは変わらない。ふたりは変わってないと、オヤ以外は思ってる。カゾク以外は思ってる。
内緒。
内緒なのに。
オヤは見て見ぬ振りするのに。
真子だけがうるさい。なにかを言うわけじゃない。説教するわけでもない。なにも言わない。でも見る。
その、目、で、見る。
やだやだ。うっとーしー。うざい。
なに、文句あんの? なにいい子ぶってんの? やだやだ。そんな目で見るな。ほんとうざい。もういらない。
いらないものはいらない。
じゃあ、出しちゃえ。
出しちゃえば?
おれが真麻ん中出すみたいに? コシがしがし振って気持ちよく? さっくり、やっちゃう? なにで?
カッター、あるよ?
ふーん、じゃあそれで。
シャツをめくりあげた肌を。
ざっくり、切り裂いた。
その感触が。
「まじ、勃ってきた」
「だから、真子姉に?」
「だからっ、声、真麻とそっくりって言ってんじゃん」
そっくりで。
なにもかもがそっくりで。
最初から、興奮してた。
最初から……。
「う、わ、ほんとやばっ」
ヒロにいいようにされたままの真子を見下ろしたまま、
「真麻、真麻っ」
真子から離れて真麻の服を剥ぎ取った。
そうする様を、真子が、途切れそうな息で見ていた。
見ているのを知っていた。
見られているのを知っていた。
「ゴムないけど」
「えー、まあ、いいけど」
ごそごそと、投げ出していた真麻の足を引っ張ってヒロは自分に引き寄せた。
「またできたら、またおろせばいいや」
「ふーん」
大人みたいなキスをして、大人みたいな事をする。
せわしなくまさぐった真麻のその場所は、ヒロの手を染めていた真子のどろどろで、どろどろになった。
どろどろになったから、入れやすくなった。指は簡単に滑り込んだ。
でも、入れたいのは指じゃない。
「っは……ん、あ……っ」
触っただけで、喘ぐ声とか。
「どろどろんとこ、入れていい? てか入れる。入れただけでイっちゃってもいい? ……てか、イっちゃう」
「あ、あ……っ、っっぁふっ! や、すご……」
「ちょー、コーフンしてて……く……ぁ。ホント、イく……っっ! ……いい、よな。一回イく」
「……ん、あ。やだっ、まだ……っっ」
「いー、じゃん。おれ、なんか、何回もデキそー。すっげ」
繋がった腰だけ、激しく動いた。
「真麻も、何回も……っは、イかせてやるよ」
混じってる、真子の色に。
ぐるぐるぐるぐる、中と外でかき混ぜて。
「……っく、はっ。真麻、真麻、出た。真麻は?」
「ばかっ。ずるいっ。いやだ、ダメ、離れちゃだめ」
「は? 入れたまんま? なに、かわいーこと言ってんの。もっと言ってよ。そしたら、も一回、すぐ……って、なに真麻、笑ってんの」
「センセー、婦人科のセンセー、ゴムは一回ずつ変えなさい、だってー」
「なにそれ、一回ずつ抜けって? まじ?」
「まじ」
「ヤだね。すぐ勃ってんのに。もったいねー。てか、ゴムしてませんー」
「あっ……、ちょ、急に、動かない、でよっ」
「やだ、動く。何回でもって言ったじゃん。言っただろ?」
「言……た、けど。っは……ぁん……っ。ね、ヒロ、ヒロ」
「なに」
「あ、たしも、イく。イかせて、よぅっ」
「……おれ、好き?」
床に押さえ込んでいた真麻を繋がったまま抱き上げた。抜けないように起こして、座り込んで抱き合った。ヒロはまだまだ成長途中の真麻の胸元に顔を埋めて、背中を抱き締めた。真麻もヒロを抱き閉めた。大きく足を開いて、ヒロの上に座り込む。ごそ、と腰を動かして。ヒロを求めて誘って。
「好き……すごい好き」
ふーん、とヒロは思った。おれも好き、だと言う気はなかった。言うのは簡単だけど、言う気はなかった。言ってもよかったけど言う気はなかった。
だって。
「…………っん」
抱き締めた耳元でした声が。
真麻の声。
しばらく抱きあってたら、はやく、と急かして繋がった場所を揺らした。
「っう、は……真麻、さいこー気持ちいー」
気持ちいい。ぞくぞくする。繋げた場所だけあればいいみたいな感覚に陥りそうになる。入れてる場所が、真麻、という名前だったような気がしてくる。
「……真麻、真麻。……真麻」
呟くたびに突き上げた。
愛しいと思うのは。抱いてる肌とか。目の前にある柔らかい胸とか。開いた足とか、ヒロを受け入れてる場所とか。
「真麻っ」
「……んんっ! ヒロ、ヒロ。もっとして。すごい、気持ちいいっ」
真麻とヤるヒロが、真麻とヤるヒロを見てたら、きっと。ヒロは真麻とヤっていてるように見えたに違いない。違いない。違ってるばずがない。
ヒロは真麻とヤっている。
一番初めから、ヒロは真麻とセックスして、真麻の初めての色を見た。真麻に入れるその場所の感触を思い出して、思い出しただけで自分でヤれるくらいで、でも別になにも自分でやる必要はないから、真麻とヤった。生のままいつでもずるずる突っ込んで、出したいときに出したいだけ出した。
「……真麻」
「……ヒロが、あたしのこと、真麻って言うの、好き」
「真麻は真麻じゃん」
「う……あんっ……っ。も、と。もっと……は、あ、あっ! そ、やって。がんがん、突いて。もっと、真麻って言って」
「真麻」
「……う、んっ」
「……真麻」
真麻、真麻、真麻、真麻。真麻。
「ヒロが、いれば、いーや」
ぐらぐら、繋がってる気持ちのよさでぐらぐらする頭の中で真麻はちょっと笑った。ヒロを抱き締めて。ヒロと繋がって。ぐちゃぐちゃ、水っぽい音を聞いて。
ぐちゃぐちゃと、すべりがよくて気持ちいい。
ヒロ、好き。大好き。
ずっとこうしてたい。ずっとずっと。
薄いゴムなんかの隔たりさえヤダ。あたし、ヒロ、好きなだけじゃん。なのになんで、それ、ダメみたいな顔するの。
やだ。やだやだ。ムカツク。
ねえヒロ。あたし、そんな目いらない。そんな目されるの我慢できない。ムカツク。邪魔。うざいっ。
殺しちゃってよ。簡単だよ。なんか知らないけど、育ったらヒロとあたしのコドモになったモンだって、簡単に死んだよ。殺したよ。
簡単だよ。殺すのなんて簡単だよ。
オヤはさ、あたしのコドモ、いらないって言った。別に、あたしもどーでもよかったけど、でも、ひとにいらないって言われるとなんかムカつく。まあ、いいけど。ムカつくけど、いなくなったのはどーでもいい。
ほら、どーでもいいんだよ。でしょ?
オヤが、あたしのコドモいらないって言った。殺した。
あたしが、オヤのコドモいらないって言ってる。殺して。
真子姉なんて、いらない。
いたら、すっごいフツゴーなんだよ。
だって。
だって。だってそーでしょ。だってヒロはさ……っ。ほんとうはあたしよりさ……っ。
「真麻、おれまたイくけど……っ」
「ん……っ。イ、く?」
「イく。出るっ」
ヒロは真麻の背中を抱いていた手で腰を抱えた。
「あ、あ! ヒロっ。……っふ、あっ、あ、……っきゃ、ぁ、ぁ、ああっ!」
何度目か、真麻は絶頂を迎えて、
「イった? 真麻、だからそんな、締め……て……っ」
「やだ、もっと。ヒロ……もっと、して」
「って、そんな、真麻の中、どーなってると、思ってんの」
「……ど、なってる?」
「……ぞくぞく、動いてる。おれ、搾り取る? おれ真麻にイかされるっ」
「あ、たしに……?」
「うん、真麻に。ホント、イく……っぅ」
真麻の体が跳ねるくらい突き上げた。下から、真上に。ヒロから真麻に。奥のずっと奥まで突かれて真麻は大きく首を振った。
「ぃやっ……! ヒロ、や……なんか、あぅっ……んっ! なんか、来る。大きいいの……っっ!」
「大きいの、おれ? おれ、でかい?」
「んっ! あ……ヒロ、もっと、違……っ。は、んっ。波、みたいな……や、やだやだ、こんな、の。ああ……っ! 怖……っっ!」
「……す、げ。なに……怖い、くらい、感じてんの?」
「う……は、あ」
うん、と真麻は小さく頷いた。大きく頷いたら、その衝撃でイきそうだった。
ヒロの手が真麻の頬をなぞった。
ヒロの手はどろどろ。
真麻と、ヒロと、それから真子のどろどろで、どろどろ。
どろどろの、その色に。
鮮やかな色に、ヒロはぞっとした。
初めて、真麻とヤったときの色だ。
初めて、真子を刺した、色だ。
ぞっとする。
体中をなにかが駆け巡って押えられなくなる。それは不快ではなかった。笑い出したくなるほど気持ちよかった。だから実際、笑った。笑いながら真麻の顔を引き寄せて深くキスした。腰を突き上げてるのと同じように真麻の口の中をもてあそんだ。ぐるぐるぐちゃぐちゃ。真麻とヒロと繋がる事の出来る場所で繋がって、ぐるぐるぐちゃぐちゃかき混ぜた。
「ヒロ…………」
声、に。
再び真麻を床に押し付けて、力の限り自分を真麻にねじ込んだ。奥に、奥に、吐き出した。真麻は最後の悲鳴を上げるより先に、気を失った。
「……真麻?」
繋がったままの腰を、一度、二度、揺らした。真麻はぴくりとも反応を返さない。
「真麻」
真麻はいつも、イった後、余韻みたいに、何度もヒロを締め付けた。わざと? と聞いたら、体が勝手にそうなってる、と言っていた。
どくん、どくんと。
名残り惜しそうに。
引きつってるみたいなその動きが、好きなのに。
「真麻」
真麻の返事はない。
ヒロは真麻から、ずるりと、引き抜いた。
真麻を見下ろして、でも、それだけで。どうしようか迷って、髪を撫でた。額にキス、した。
「……ヒロ……?」
ヒロを呼ぶのは。真麻の声。真麻の声。真麻の、声。
ここに真麻しかいなかったら、それは真麻の声。
でも、真麻じゃない。
さっきからヒロを呼ぶのは、真麻じゃない。
ヒロは裸のまま、真子を、見下ろした。
「……真子姉?」
真子だ、と漠然と認識する。
「……なんだ」
なあんだ。
「まだ、死んでないの?」
どろどろの手で、真子の白い腹に触った。自分でつけた傷口を直に触った。真麻とよく似た肌の感触だった。真麻ならかわいい悲鳴をあげるはずだった。
真子の悲鳴は、痛みを、ダイレクトに訴えた。だから、痛いのだと、わかった。
「痛い?」
深く、刺したままのカッターはそのままで。
気のせいかどろどろは止りかけているように見えた。
「……カッター、抜いたら、また出てくるかな」
カッターに手を伸ばしたら、真子が怯えた顔をした。かろうじてしている息で、また、ヒロ、と呼んだ。
「……なに、呼んでんの」
真麻の頬を触ったように、真子の頬に触った。
「生きてるうちに、恨み言でも言っときたいの? 言えば? だって、真麻が真子姉いらないっていたんだ。じゃあ、いらない。いらない。いない方がすっきりするかなと思ったし」
真子は小さく小さく首を振って、さっき、イきそうだった真麻がそうしたように、よく似た仕草で、限界を耐えるように、そうして。助けて、と呟いた。
真麻と同じような顔をして。真麻と同じ声で。
ヒロは真麻を見返って、当分目を覚まさないような真麻を見下ろして、ふと、自分を見下ろした。
「……真麻、おれ、何回でもヤれそーって言ったじゃん。なに、真麻だけさっさと満足してんの?」
真麻? と、ヒロは真子の存在を無視して、真麻の足を開いた。もっと、したい。でも、突っ込んでみても、反応がない。おもしろくない。
真麻。と、真子が呼んだ。
ヒロは真子がいるのを思い出した。
「真子姉……」
真子の手を取って、その手に、勃起したままの自分を握らせた。真子の手に力はない。痛みや、どろどろ流れ出た貧血で力が入らない、というわけではなかった。触りたくないから、力を入れない。
「あのさ真子姉。おれ、真麻とヤりたいんだけど。なんか、できないから、真子姉のこと、真麻って呼んでいい? そんでヤっていい?」
真子はただ、細く、息を吐き出した。
「ヒロって、呼んでよ。さっきみたいに。おれ、真麻って呼ぶから。ねえ。おれさ、真麻となら好きなだけヤっていいんだよ」
ヒロを握らない真子の手が、力なく床に落ちた。
「どーせおんなじ声じゃん。いいじゃん。呼んでよ。おれとしてよ。真麻」
真子を、真麻と呼んだら、真子は目を閉じた。閉じて、もう、呼んでも返事をしない。もともと、喋る事の出来る様態じゃないから、もともと、返事なんかしなかったけど。もともと。
……もともと。
真麻をニンシンさせてから、真子は一度も、口をきいてくれなかったけれど。
「真……」
ヒロは、言いかけて、やめた。
真子の腹に刺さったままのカッターを、刺したときにそうだったように、ためらいなく引き抜いた。
「あぁあっっ!」
真子の、悲鳴。
悲鳴……。
引き抜いた場所から流れ出てきたどろどろに、ヒロは息を飲んだ。オンナのからだは、初めて、入れて、引き抜くと、その色が出る。ぞくりと、するのが、おさまらない。
「真……」
ヒロが、呼んだ名前は。
「……っあ、んんっ!」
ヒロはどろどろのそこに口を付けた。そうやって触るから、真子は悲鳴を上げる。中途半端に、気を失う事も出来なくて。今まで、ほんの少しも流さなかった涙を流した。
助けて。と言う声はヒロには届かない。
でも悲鳴は、届いていた。同じ。おんなじ。真麻とおんなじ悲鳴。声。喘ぎ声。
「……ねえ。ねえ、真……」
名前を、呼ぶ。
「真……」
名前を呼んで。
「ねえ、真……。おれ我慢できないんだけど。ヤっていい? 入れていい?」
抵抗できない真子の下着を引き下ろして、ヒロは自分を押し付けた。そうして、あれ? と小首を傾げる。
「なに? なんでいつもみたいに濡れてないの? おれ好きって言ったじゃん。いっつも、べたべたに濡れてんじゃん。ずるずる、おれのこと飲み込むじゃん」
真子のそこは、ヒロを受け入れない。
「……なんだよ」
無理矢理入れれば、いつもの、ぬるぬると引き込まれるような感触とずいぶん違っていて失望する。こんなんじゃない。
逃げるように腰を引いて、真子を跨いだ。
呼んだ、名前は。
「真子、姉」
真子、と。
もうさっきからずっと、ヒロは真子を、真麻ではなくて、真子と、呼んでいた。
ほんとうは。
さっきからずっと。
ずっと。
ほんとうは。
前から。
ずっと、前から、ずっと。
「真子姉……」
真子を覗き込んで、真子のどろどろにキスをして、どろどろになった唇で真子にキスをした。
思い出したように立ち上がって、勉強机の上に置きっぱなしにしてあった真子の携帯を取り上げた。また、真子にキスをして。携帯を差し出した。
「真子姉、死なないの? これくらいじゃ死なないの?」
ばかみたいに、触るだけのキスを繰り返した。
「救急車、呼ぶ? 死ぬのと、どっちがいい?」
どっちが、いい?
この状況で、この部屋に、救急車を呼ぶのと。死ぬのと。
妹はハダカで、どろどろで。真麻の愛液とヒロの精液と真子の血で、どろどろで。
真子は、そのどろどろでどろどろになったヒロに触られて。
そんな姿で。
助けられるのと、死ぬのと、どっちがいい?
「選ばせてあげる。ボタン、押せる?」
携帯を差し出す。
「おれは死んでくれたほうがいいんだけど。だって、そのほうが。ほんと、どうにもすっきりする気がするし」
……そのほうが。
「なんか、まあ、しょーがないかって思うし」
だって。
「だって」
真子が、かろうじて携帯に手を伸ばす。ヒロは真子の手を、見た。
だって。
「おれ、間違えたんだよ」
だって。
「真麻、真子姉と、おんなじ声じゃん」
だって。
「でも、気持ちよかったんだよ」
だって。
「真子姉と、したかったのに。真麻でも、すげ、気持ちよくって」
だったら。
「したいだけなら、真麻でもいいかと、思ってさ」
だから。
「真麻も、真子姉に似て、かわいーから、それはそれでいーんだけど」
……でも。
「真子姉。おれ、好き?」
真子は答えない。携帯に手が届くまで、あと、もう少し。
おれ、好き? と聞いたら。真麻はすぐに、好き、だと言ってくれる。ヒロは言わない。ヒロは、真麻が好きだと、言わない。かわいいけど。気持ちいいけど。別に、言うくらいは言ってもいいんだけど。言ってみても、いいんだけど。
でも。
「おれ、真子姉が好き」
だから。
「間違えなかったら、真子姉、おれとヤってた?」
だから。
「おれとヤって、おれにいい声出した? 真麻とおんなじに真麻みたいに、真子姉が、おれに喘いだ?」
真子の手が携帯を掴んだ。
「やっぱ、死んじゃうよりは生きてたほーがいい?」
その、携帯を、乱暴に、取り上げた。それまで以上に失望の表情を浮かべた真子を、ヒロが笑った。
「おれ、真子姉がおれのコドモ、ニンシンしたらどうしたかなあ。どうすると思う? 真麻のはどーでもよかったんだけど」
携帯を、床に、落とした。真子がそれを、どうにか、拾い上げるのを見ながら。
「ねえ、どーすると思う? おれ、真子姉だったら、あんな乱暴にシないよ? 優しくするから、だったらいい? 真子姉、処女じゃん? 真麻もそーだったから、おれ慣れてるよ。ほんと、優しくするから。それならヤらせてくれる? 試してみる価値くらいある? 試してみてさ、それでよかったらさあ。そしたら」
ヒロが、携帯のボタンを押した。1と1と9を押す。電話が繋がる。誰かが、電話の向こうでこちらに問いかける。その携帯を真子に渡すと、真子は、助けて、と一つ覚えのように呟いた。でもそれ以上、喋ることができない。声が、出ない。助けを呼べない。
ヒロは、真子に寄り添うように床に横になった。真麻にしたように真子の髪を撫でて、額に、キス、した。
「そしたら今度は、真麻を殺してみる? 真子姉が生きてるなら、真麻はいらない。真子姉殺すのは、さすがにちょっとためらっちゃって上手くいかなかったけど、でも、けっこう簡単だったから。そうすること自体は簡単だったから、真麻にはためらったりしないからさ。ほんと。まじ。なに、ほんとだって」
だから。
「だから、信じてよ」
これだけは信じてよ。
「ねえ、どうする?」
ヒロは、携帯ちょうだい、と手を、差し出した。
「信じてくれるなら、おれが助け、呼んであげてもいいよ」
おわり
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