1.7(水曜日) こうも激しく時期外れになるとは思ってませんでした。
ほんの二週間前のことじゃん? な感じで……。
クリスマスに乗せようと思ってたんですが、なんだか暗くなったのでまあそのうち、と思っていたら正月早々も暗めなんだけどどうなの、というあまりハッピーではないお話です(長い)
クリスマスのお話。
前の年のクリスマス。(立野さん)
あれ?
と、思って給湯室に入ると、なっちゃんが携帯電話、眺めて、ため息つきたそうな顔、してた。
「どうしたの?」
聞くと、
「『りょーかい』って返ってきました」
見ますか? と差し出された携帯の画面には、確かに「りょーかい」の文字があって、
「メール、彼氏から?」
「違います、まだ彼氏じゃないです」
なっちゃん、はっきり言う。
「あれ、まだ、彼氏じゃない、の?」
「まだまだです。ぜんぜんです。知り合って二週間です。その間、食事に一回言っただけです」
なっちゃん、こぶしを握り締める。
わたし、やかんにお湯を沸かしながら、
「なっちゃん、コーヒーとお茶とどっちがいい?」
「あ、さっき銀行さんにココアもらいました。ココア飲みません?」
粗品のココア、戸棚から出して、嬉しそうに、可愛く笑う。
わたしは、で? となっちゃんが握り締めてる携帯、目線でしめしながら、
「『りょーかい』って、デート? クリスマス、どこかお店の予約取れたよーって?」
「違いますー」
携帯、ポケットにしまって、ココアの袋をかしゃかしゃ振り回す。
なんだか不機嫌、というのとも違うみたい、だけど、機嫌がよくも見えなくて、なんだろう? と小首を傾げてたら、
「立野さんは、24日とか25日とかデートですよね?」
「まあ、一応」
「ですよねっ。立野さんは、ちゃんと彼氏、ですもんね」
いいなー、たのしそうで、と呟く、から。
「なっちゃんも楽しんで来ればいいんじゃないの? 素敵お店で素敵ディナーの予約も取れないようじゃダメ?」
「……違いますー」
かしゃかしゃ、ココアの小袋、振り回したまま、
「好きな人となら別に、素敵ディナーとかじゃなくてもいいです。ファーストフードでも、吉野家でも、コンビニ弁当公園で食べても」
「うん、なんか楽しそう、かな?」
それはそれで、気軽で、お手軽で。
「はい、楽しいと思います」
なっちゃん、
「好きな人と一緒、なら、ですけど」
なにか、難しいことを考えてるみたいな顔で、やかんをじっと見る。お湯が沸いて慌てて火を止めて、それぞれのマグカップにココア入れて、お湯を入れる。スプーンで、ぐるぐるぐるぐる、ぐるぐるぐるぐる、かきまわす。
「わたし、ちょっと思ったんですけど、クリスマスは恋人と、って、それはいいと思うんです。うん、いいと思います。でもわざわざ、彼氏でもない男の人と食事に行くってどう思います?」
どう、と言われても。
「せっかくなんだから、おいしいものご馳走してもらえばいいんじゃないかなあ?」
思ったことを言ったら、なっちゃん、想像通り! という顔をした。
「うわあ、立野さんはそう言うとなんとなく思ってました」
え、あの、それはどういう意味……。
「いえ、違いますよ? 立野さんが軽そうだからとか、そうじゃなくて、ええと、そうじゃなくて、ですね、わたし、たまに、いろいろぐるぐる考えだすことがあって、ですね」
「……たまに」
なっちゃんは、わりと、いつも、けっこう、ぐるぐる考える、と、思う、けど。
「彼氏でもない、ってところは、他から見たらわかんないからいいんじゃないかな?」
「でも、だって、彼氏でもないんですよ。なのに、クリスマス、なのに、おごられちゃったりしたら、もう、逃げられないじゃないですか」
なにから? と心の中でこっそり突っ込みながら、
「えーと? つまり、なっちゃんはその彼……というか、ええと、そのひとを、好きじゃない、てこと?」
「だってまだ、会ったばかりですよ?」
「この先も、好きにならないかも?」
「……なるかもしれないし、ならないかもしれないじゃないですか」
「そのときはそのときでいいなじゃないかなあ」
「と、思うんですけど、うん、でも、それにクリスマスを賭けるのは、ちょっと……」
「そんなにクリスマスを特別に考えなくてもいいと思うけど」
「でも考えちゃうのがクリスマスなんです。クリスマスマジックです」
熱いココア、ふーふー、ふたりとも冷ましながら飲む。なんとなく、給湯室にこもったまま。
「だから、クリスマスは周りも慌しいし、年が明けてからまたゆっくり会おう、ってメールしたんです」
そうしたら、返ってきた「りょーかい」の返事。
そ、っか。
「ゆっくり、会えるほうがいいよねえ」
「はい、好きな人だったら、別にクリスマスでもそうじゃなくても、いつでも楽しいと、思います」
「……うん」
「でも立野さんはクリスマスも楽しそうでいいですね。豪華ディナーとか行っちゃう予定ですか?」
やっぱりそれはそれでうらやましいですーて、また可愛く笑って、なっちゃん、仕事に戻る。
わたし、は。
なっちゃんが言った「好きな人」を、思い浮かべる。
すきな、ひと。クリスマスに一緒にいる人。
でも、
きっと、
あの人とも、次のバレンタインまで持たないんだろうな、と、思う。
バレンタインまで、続いたことが、ない。好きでも、どんなに好きだと、思っても、不意に、何年か前に、あのひと、に、送ったチョコレートを思い出す。あのひとが、今、どうしてるのか、考える。
思い出して、考えて。思う。
クリスマスを過ごしても、お正月を過ごしても、なにを一緒に過ごしても、今、隣にいるこの人は、あのひとじゃ、ない。
そう思った瞬間に、全部、ダメになる。
ダメに、なった。
だから、今年のクリスマスを過ごす人は、去年の人とは違う。
きっと、来年も、違う。
事務所から、なっちゃんに呼ばれて、戻る。部長に言われた書類を探す。
来年は……。
だれと、いっしょにいる、んだろう。
ふと、なっちゃんを見た。
なっちゃんは、今はまだ彼氏じゃないと言うそのひとと、付き合っているのかもしれない。それとも、ちょっと意外な誰かと、付き合ってるのかも、しれない。
わたしは……。
今のひとと、続いていればいい。あのひとじゃ、ない、なら。
……う、ん、
誰でも、いい。
と、思う、から。
あのひとじゃないなら誰でもいいなんて、思わない、誰かと、いつか。
「あ、立野さん、立野さん、豪華ディナー写メしてくださいね、写メ。メインと、デザートを」
絶対ですよー、ってなっちゃんが言う。
「うん」
「クリスマス、楽しみですね」
「……うん」
うん、と答えた気持ちに嘘はない。嘘なんか、ない。
そういえば、なにを食べに連れて行ってくれるんだろう、と考えれば楽しく、なる。次のクリスマスの、こと、なんか、考える必要、ない。
今大切なのは、今の人、のはずだから。
だから……。
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植田くんと再会するほんの少し前、のお話になる、わけ、です。
はたから見るとわりと彼氏とっかえひっかえです。彼氏いない時期は極端に少ない、と思われます。多分。
とりあえず付き合う→なんか違ったら別れる。の繰り返しではなかったかな、と。
しっかりしてそうで流されやすい、けど、ふと途中で気がついて自分から関係を切る(そこんとこはスッパリ)、という。……多分。
なっちゃんはよく考えるタイプ、では? 付き合うのも、別れるのも。自分の中で折り合いつけて納得して、付き合う、別れる。……きっと。
わたしはアレです、付き合うのはすんごい考えますが、別れるのは一瞬です(最悪)。立野さんと奈津の悪いトコ取りな感じです。…………きっと多分(どうでもいい)。
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