日記……のような……


2007.2〜


2.28(水曜日) 明日から三月。ぼちぼちラジオ体操も完璧になってきました。多分。


 二月は、
コーセー商品
 ひとめ惚れをした口紅を衝動買いしてしまったり、
紫外線怖い
 紫外線に反応して真紫に変色するミラーを買って、その色の変わりように感動したり(ふつーは、白いんです) 映っているのは鏡を激写するわたしの携帯と指。
ラズベリーすっぱかった
 友人と喋り込んだお店で、なにかおいしいもの(ベリー味だったはず)を飲んだりしていました。

 写真に写っているものが全体的に赤っぽいですね。情熱的ですね。


2.26(月曜日) 一生に一度の悲恋を体験していたわけではなく(わかってますか、わかってますね、そうですね)


 会社ごとで、悩み多き日々を過ごしておりました。
 社長の意見と、社長の息子との意見が真っ向から対立。社員はおろおろ。
 危うく今頃、無職になって職安に通っていたかもしれませんところでした。日本語おかしい。
 問題はひと段落しましたが、多分、あと一年くらいのうちには「会社を辞めねばならぬ」ような気がします。
 そのときになってみないとわかりませんが、今現在でも崩壊寸前だと思います。気分的に。やっほい。
 とりあえず、ひとりは辞めてしまいました。わたしにもその決断力がほしい安定を求めた打算な日々を過ごしておりますです。

 そういえば、ちょっとおもしろかった、社長の息子の会社改革案の条文のうちのひとつ。

※ 社員はお互いに悪口を陰で言い合わないこと。(良い事を言うように努めること!!)

 中学生じゃないんだから。
 求められていたのはこのレベルなんでしょうか。いままでも、そしてこれからも!?
 ということで、彼が残したものは、(社員六人しかいないのに)ひとりの退職者と、会社全体の無気力と、朝のラジオ体操、ぐらいでした。改革いろいろ大失敗。


2.23(金曜日) おとこもいろいろ


 本年度バレンタイン小話のその後のその後です。
 さんにんきょうだいで三部作で、これで終了です。暗め連続ですみません。でも自分的にはいちばんらぶらぶ。たぶん。きっと。わりと。けっこう。
 日にち的に思い切り外している上に、その後のその後というよりは、ただのその後だったりもします。まあいいか。もういいか。なんでもいいか……。
 最初の小話題名を「初夜」にすれば「中夜」「後夜」と続いたのに。そこまで考えていませんでした。いきあたりばったり。こんなのばっかり。うっかり、がっかり。
 ぼちぼち日記も再開します。はい、ぼちぼち、と。






「明け方」



「……やわらかい、な」
 慶人が呟いたのは、それだけだった。。
 もうすぐ日付の変わる、暗い部屋の中で。
 慶人は触れた手から腕を掴んで。掴んだ腕の、パジャマの袖口を手繰り上げて、腕の素肌に、直接触れた。
 自分にはないものに戸惑ったようだった。
 肌の滑らかさや。やわらかさや。
 祥子は、肌に触れる冷たい指先に鳥肌が立った。もう眠ろうと思っていた。部屋の中の暖房は切ってある。
 ずっと、慶人の指先は冷たいままのかと考える。どうでもいいことを考える。鳥肌が立ちっぱなしの肌に慶人が触れる。鳥肌でざらついた肌は、気持ち悪くないのかと、考える。
 すぐに。
 なにかを、考える余裕なんて、なくなったけれど。
 呼吸する音や、脈の打つ音が大きく聞こえると、はじめは、そんなことが気になったけれど。
 慶人の指先が冷たいことも、すぐにどうでもよくなった。肌に感じるなにかなんてどうでもよくなった。
 それでも、
 慶人は最初から最後まで、祥子がやわらかいと思っていた。
 祥子は、慶人がかたいと、思っていた。
 そのからだが、やわらかい。
 そのからだが、かたい。
 それは。それだけは。肌に感じる、それが、そのまま。
「……慶人。慶人」
 どれくらいふたりでそうしていたのか、時間の感覚の見当もつかなくて、見ようと思った時計が、少し、見づらくて。
 起こそうとしたからだは、うまく動かなかった。
 強く抱き締められているわけでもないのに。ただ、慶人の腕が、なんとなく、祥子のウエストを抱えている、だけなのに。
 今、何時なのか。気になると、気になって。
 枕元に置いてある携帯電話で時間を確認しようと思った。でも。手探りで。いつも携帯電話の置いてある場所にあったのは、慶人の頭、だった。
「慶人、邪魔」
 どいて、といつもの口調で言ってみる。
 慶人の反応は、微かだった。
 小さく、小さく、うなっただけで。さっきまで、壊れるんじゃないかと、思った、程に、荒くなっていた呼吸も。動きも。
 息をひそめて見ていると、次第に、規則正しく、落ち着いていく。眠ってしまうんだと、わかる。眠ってしまう腕が、
「……邪魔、だって、言ってるのにっ」
 眠りかけた慶人に文句を言っても、ウエストに絡んだ腕をはずそうとしても。はずれなくて。
「慶人?」
 慶人を、確かめる。
 ウエストに絡まる腕をなぞる。祥子に倒れこむように眠るからだを押し退ける。肩を押す。胸元を押す。頬をつねる。
 慶人の、皮膚は。
 なにでできてるんだろう、と、考える。
 祥子の肌は、たとえば、皮膚の下に均一に、脂肪が、あるんだとわかるような気がする。慶人が柔らかいと言ったのは、皮膚を裂けば出てくるような気がする白いぶよぶよしたもののせい、なんじゃないだろうか。
 慶人の肌は、皮膚が、一枚。皮膚を裂いてみれば、皮膚だけが、ぺろんと一枚めくれそう、だった。肌に、皮膚の下に脂肪を想像できなくて。だから、かたい、からだ。
 かたいからだは、少しばかりの力を込めて押したくらいじゃ、動かない。
 祥子は、簡単に、この腕に捕まったのに。
 嫌がったわけじゃない。拒否したわけでも拒絶したわけでもない。それでも、そうすることの、そうなることの恐怖に身をすくめて、逃げ腰になったからだを、逃がしてはくれなかった。
 引かれれば、引き寄せられた。押されれば、縫い止められた人形のように、ほんの少しもその場所から、ずり上がることもできなかった。
 そんなことを思い出して、祥子は手のひらを握り締めた。わからない。でも、泣きたくなるほどのなにかに襲われる。
 後悔を、しているわけじゃない。嫌だったわけじゃない。
 そんなことじゃ、ない。
 でも。
 握り締めると、手のひらに爪が食い込む。少し伸びた爪が痛い。でも、まだ。もっと。
「けい、と」
 手を、伸ばせば簡単に抱き締めることのできる慶人を抱き締めた。抱き締めた、肩口に。思い切り。爪を立てた。
 自分の手のひらにつけた爪のあとと同じ爪のあとをつける。もっと。もう少しで。慶人の皮膚が裂けそう、だった。
 目を覚ました慶人の、まばたきをする音が聞こえたような気がした。
「なに」
 と聞かれた。
 痛い、はずなのに。静かな声だった。痛くて目を覚ましたはずなのに。痛かったから聞いたはずなのに。
「わかんない。いらいらする、から」
「痛いんだけど」
 ほんの少しも、痛くない、みたいに。
 皮膚が裂けても、血が流れても、少しも、かまわないみたいに。
 祥子はますます力を込めた。
 痛い、から。慶人はごそと、動く。
「祥子」
「がまん、しなさいよ。男でしょ」
 どうでも、いいような。吐息が聞こえて。
 慶人は、居心地のいい場所を探すようにまた少し動いた、だけで、目を閉じた。目を閉じる音はしない。目を閉じた気配が、しただけ。
 祥子のウエストにしがみつくように、さらに腕を回した慶人は、
「おまえはいつもいらいらしてるよな」
「だって、あんたがいるんだもん」
「僕のせいかよ」
「あたりまえでしょ」
「……あ、そ」
「そういう、どうでもいいような態度がきらい。むかつく。適当にすんな」
 すぐに答えない慶人は、眠ってしまった、わけではなくて。
「適当になんかしてない」
「うそ」
「ほかに、どーしていいかわかんないんだよ」
「わたし相手に、なに言ってんの。ばかじゃないの。好きにすればいいのに。だから悦也にへたれとか言われるんでしょ」
「……あいつ、そんなこと言ってんの」
「言ってる」
 あっそ。と呟いて。今、抱き締めているひとを、また抱き締める。
「おまえとあいつは、仲、いいよな」
 今、抱き締めているひとに抱き締められながら。
「あんたとだって仲、いいでしょ」
「あいつは要領、いいからなあ」
「あんたがお母さんのお腹の中に置いてきちゃったもの、ぜんぶ拾ってきたんじゃないの」
「……うまいこと言うね」
「だからばかじゃないの。感心するトコじゃないんだけど」
「落ち込むトコ?」
「うざいからやめてよ」
 喋っていたら。いつの間にか。祥子は爪を立てていたはずの場所を撫でていた。
「痛かった?」
 と聞けば。
「別に」
 相変わらず、返ってくるのはどうでもよさそうな返事だけ。
「あんたさっき、痛いって言ったじゃない」
「そうだっけ」
 そうだったかな、と慶人が起き上がる。前触れもなく起き上がった。前触れもなく祥子から離れた。祥子には、そう思えた。
 慶人はきっと、肩を撫でる祥子の手から逃げた。逃げたのを、ごまかすように確認した時間に、
「悦也はもう寝ちゃったな」
 多分、ひとりごとを言う。
 祥子は、慶人のひとりごとを、ベッドに、仰向けに寝転んだまま、聞いた。
「慶人」
 慶人は布団を祥子にかけて、寒い、と呟いた。
 寒いのは。すっかり部屋が冷えているから。祥子と離れたから。脱ぎ散らかした服を手探りで探す。
 慶人は部屋の電気をつけようとはしなかった。祥子も、部屋の電気をつければいいのに、とは、思わなかった。つけたって、だから、だれかにとがめられるというわけでもなかったのに。
「慶人」
「なに」
「行っちゃやだ」
 ばかじゃないの、と慶人が言った。いつもは祥子のせりふを自分が言ったことに気がついて、笑った。
「邪魔って、言ってたじゃないか」
「うん」
「ほら、邪魔なんだろ」
「邪魔だけど」
 祥子は慶人が羽織ったシャツを、引っ張った。
「すごく傍にいるのは邪魔じゃない」
 慶人は振り向かずに、
「気持ちよかった?」
 少し笑ったような気がする背中を、げんこつで押した。
「慶人は気持ちよくなかったの」
「よかったよ」
「もう一回、しよ。もっと、しよ」
「ムリ」
「なんで」
「キリがなくなるから」
「わたしが、好きだから?」
 慶人は、振り向いて。横になったままの祥子を見下ろした。暗闇に目は慣れた。それでも、慣れていないように、眼差しを細めて、なにかぼやけたものを見るように、焦点を合わせるように祥子を見る。
「祥子をきらいだと、思ったことなんてない」
「わたしは、あんたをきらいだと思う。すごく思う」
 背中を押すげんこつに、力を込めて。
「大嫌い。気持ち悪い。いなくなればいい」
「なんでそこまで思うかな」
「でも、はじめから慶人がいないことを想像するとぞっとする」
 泣きそうな顔をしても、泣きそうな顔なんかしていなくても。そこまでは。表情のかげんまでは、見えない場所で。
「祥子は、僕が思ったこともないようなことばかり考えてるんだな」
「考えたことないの?」
「ないよ」
 祥子にも、慶人の表情は。
「祥子なんて、いてあたりまえだから」
「わたしには、あんたがいるのなんてあたりまえのことじゃなかった。同じものがどうしているの。気持ちが悪い。気持ちが悪いのに、気になってしょうがない。気持ち悪いから気になるの? 気にするから気持ち悪いの? 好きとか嫌いとかってなに。慶人と悦也のどこが違うの。どうして違うの。隣にいると気持ちが悪いのに。限りなく傍にいると気持ちよかったのはどうして。もともとひとつで生まれてくるべきだったから?」
 慶人は、背中を押すげんこつを避けて立ち上がる。
「僕と祥子は、一緒に生まれてきただけの、ただの、きょうだい、だろ」
 一卵性ではない。二卵性の。男と、女の。
「きょうだい……。ただの、きょうだい」
「そうだよ」
「じゃあなんで、わたしは今、慶人と一緒にいるの」
「それは」
「それは?」
 問えば、ふいと、慶人はなにかを探すように横を向いた。祥子もその仕草を追う。机の上には、同じラッピングのチョコレートが三つ。
 ひとつ。ふたつ。みっつ。
 その中の、どれが自分のものかをちゃんと、わかっている顔で。自分のものだけが、特別だと、いう顔で。
「誰かを、強く意識するっていうのは、そういう、こと、じゃないの」
「そういう……?」
「からだが、反応する」
 そうであるから、そうであることがしかたないように。抵抗、できないように。
 どうして、
 今、祥子と慶人が一緒にいるのか、なんて。
 そんなこと。そんなことは。
「それは……明日も?」
 祥子は、まるで怖いことを聞くように、言った。
 慶人は、怖くもなんともないことを聞いた、ように。
「明日も」
「あさっても? その次も?」
「祥子が僕のことを気にしてる限り、ずっとじゃないの」
 祥子は布団を抱き締めながら、上半身を起こして。
 そんな簡単なことでいいのかと、疑って、ずいぶん難しい顔をした。
「……ずっと?」
「ずっと、僕のことを気にしてればいい」
 その声が、その表情が。はっきり見えなくても。
 チョコレートを手にした慶人に、
 祥子は枕を投げ付けた。
「なに、勝ち誇ったみたいに言ってるの。ばかじゃないの。最悪、最低」
 身軽に枕をよけた慶人が、笑っていたのか、笑ってなんていなかったのか。いつもの祥子の言葉にいつものように気を悪くしたのか、していないのか。
 そんなことは。
「おやすみ、祥子」
 慶人が出て行った部屋の中で。
 慶人が残していった声の調子で。
「おやすみ、慶人」
 祥子は、慶人と同じ声の調子で。
 悦也も。と、呟いて付け足して。朝まで少し、眠った。 



2.19(月曜日) 人生いろいろ


 なんとなく。2/14日記のお話のその後。です。
 とゆーか、むしろこっちがバレンタイン当日じゃん。とか。






「中夜」


 祥子が慶人と一緒に笑っているのを見るのは久しぶりだった。
「……おはよう」
 歯ブラシを片手に祥子を見上げると、四つ違いの姉は、悦也にも笑顔を向けた。
「おはよー」
 歯を、磨いているのに。その最中だなんてことはかまわずに、あげる、と渡されたものは。
 チョコレート。
「あ」
 そっか、バレンタインデーだ。と。思ったのと一緒に、どーも、とぺこんと頭を下げると、下げた頭を、ぐりぐりと撫でられた。
 やめてよ、と抵抗して頭を上げると、祥子はおもしろそうに笑いながら洗面所から出て行った。
「……機嫌、いいね」
 なんだあれ、と、祥子を見送りながら、ひとりごとを、言ったつもりじゃなかったのに。まるで悦也のひとりごとに付き合ったように、そうだなあ、と慶人が返事をした。
 どうでもいいような、返事、だった。
 慶人は顔を洗う。洗面台を前に並ぶ慶人を横目に見ても、鏡越しに見ても、祥子と、同じように笑っていた。
 どうでもいいような口調のくせに、同じ、笑顔をする。
「けいちゃんも、しょうこちゃんにチョコレートもらった?」
「もらった」
 それがどうした、という言い方に、
「僕のと一緒?」
「一緒」
「……お父さんのも、一緒、かなあ」
「一緒だろ」
「そうかな、意外に、お父さんのはもうちょっと特別だったりしなかな?」
「一緒だよ」
 慶人は顔を拭いたタオルを悦也に押し付ける。
 悦也は歯ブラシをくわえたまま、タオルを肩に引っ掛けたまま、父親の部屋をのぞいた。もう出勤してしまった父親の部屋には、悦也がもらったものと同じチョコレートが、置いてあった。
「おんなじ、だ」
 祥子が家族に用意したチョコレートはみんな、おなじ、もの。
 別にただ、それだけのこと、だったけれど。
 当たり前の、こと、みたい、だったけれど。
 制服に着替えて居間を覗くと、慶人だけがのんびりと天気予報を見ていた。
「しょうこちゃんは、今日も先に行っちゃったの?」
 学校に、いつも、いつも。祥子は慶人よりも一本早い電車に乗っていく。同じ学校に行っているのに、いつも、いつも。
「いつものことだろ」
「そうだけど」
「なんだよ」
「……うん」
 時間を確認して、もう出かけなくちゃ、という素振りをする。慶人も一緒に学生鞄を引き寄せて立ち上がる。
「今日は、しょうこちゃんとけいちゃん、一緒に学校行くのかな、と思ったから」
「なんで」
「……なんでって」
 いってきます、と母親に声をかけて、一緒に、玄関を出る。
「なんとなく」
 なんとなく、そんなふうに見えた、から。そんなふうに言ってみた。
「けいちゃん、しょうこちゃんと仲直りしたんだね」
「別に、喧嘩してないし」
「そうだけど」
 どちらかと言わなくても、なぜだか一方的に祥子が慶人にあたっていた、だけで。祥子が慶人を嫌っていた、ように、見えたけれど。
「けいちゃん、さあ。昨日の夜、あれからしょうこちゃんと」
「おまえ、なんか知ってて言ってんの?」
 驚いて、立ち止まったのは悦也だった。
 あんまり悦也が驚いた顔をしたから、慶人は気まずそうに、立ち止まろうとした足を、止めずに。
 悦也は慶人に数歩、置いていかれて、慌てて駆け寄った。
「なんかって、なに?」
「なんでもない」
「なんでもないわけないっぽいけど」
 慶人の、腕を掴んで。
「けいちゃん、しょうこちゃんになんかしたの?」
 慶人は悦也を見下ろして、じっと見て。目をそらした。そのときに、手の甲を口元に押し付けたのは、なぜだったのか。
「けいちゃん?」
 そらした目は、誰のどんな姿を想像した、のか。自分がしたなにを思って奥歯を、噛み締めたのか。
「さすがのけいちゃんも、力にものを言わせてみた?」
 慶人は悦也を凝視した。
 昨夜……。
 力任せに、そんな、ふうには。してない。そんなふうにする必要も、なかった。
「おまえ、なに、言ってんの」
 ごまかした、わけじゃない。そんな事実はなかったから、そう言った。
 悦也は、がっかりしたように、あるいは安心をした、ように。
「だよね」
 慶人と並んで歩いて。もう、なんの興味もないように、
「英語の辞書、借りに行って。それでついでに勉強でも教えてもらってたんでしょ? 部屋に戻ってきたの、ずいぶん遅かったよね。一時くらい、だったっけ?」
「起きてたのか」
「ちょっと、起きちゃっただけ」
 すぐにまた寝ちゃったけどね、と。
「しょうこちゃん、きっと、けいちゃんがおとなしくしょうこちゃんの言うこと聞いて勉強したから、それでちょっと満足して、今朝は機嫌がよかったんだ」
 だよね? と悦也が聞く。
 そうだな、と慶人は、答えていない、けれど。
「うん、そんなことだと思った。けいちゃんへたれだもん。しょうこちゃんに逆らったりしないもん」
「へたれ……」
「やさしいからとか、そういうのとは違う気がする。あたりさわりなく。けいちゃんは、そういうひとだよね」
「どこでそんなものの言い方を覚えてくるんだ」
「どこででもいいじゃん」
 でも、それでも。
 ほんとうは、慶人と祥子のふたりに起こったことが、そんなことだと、ほんとうに、思ったわけじゃ、なかった。
 でも、想像もつかない。
 祥子は慶人を嫌っている、ように見えたけれど。それは。
 年頃の祥子が。
 父親のものと一緒に洗濯しないでと母に言っていたりするような、そういうものとは違う、気がした。
 なんだかよくわからないけれど。そういうものと同じ、ような気もするけれど。でももっと。
 もっと……。
 同じ時間に生まれて同じように育ってきたもうひとりの自分に気がついて、それでどうしていいかわからなくって、戸惑っているようにも、見えた。
 慶人は祥子がいることを当たり前に思っているように。祥子は慶人がいることを当たり前に思えない、というだけで。どっちも、正反対の、同じこと。
「でもっそっか。仲良く、なっちゃったんだ」
「なんでおまえが残念そうなんだよ」
「だって」
 ほんとうは、そんなことが言いたかったわけじゃ、ない、はずだったのに。
「けいちゃんとしょうこちゃんが仲良くしていると、僕だけ、すごく、違うものの気がするんだ」
 なんとなく、そんな気がしてしょうがないんだ、と悦也は呟いて、駆け出した。逃げた、わけじゃない。道の先に仲のいい友人を見つけて、じゃあね、と慶人に手を振った。
 友人に追いついて声を掛ける。友人は、悦也の向こう側を興味深そうに眺めながら、
「悦也のにーちゃんだ。双子のそっくりねーちゃんは?」
「しょうこちゃんはもう学校」
「にーちゃんとねーちゃん、おんなじがっこうじゃねーの? 一緒にいかねーの?」
「そうみたい」
「なんで?」
「知らない」
 きょうだい、でも。知らないことなんていくらでもある。あるのが当たり前だと思う。
 なんとなく、慶人を振り返ったら。
 もうとっくに、その姿は見えないか、まだかろうじて、後姿が見えるくらい、だと思ったのに。
 振り返ったら、慶人と目が合った、ような気がした。目が合うような距離でもなかったけれど、慶人はまだ別れたままの場所に立っていて、悦也が振り向くのを待っていたように手を振った。
 おにいちゃん、だなあ、と思う。なんとなく、嬉しくなる。同じチョコレートを、もらったことを思い出した。
「悦也、ねーちゃんにチョコもらった?」
「うん。お母さんにももらった」
「嬉しそうだな」
「嬉しくないの?」
「なんか、びみょー」
「そう?」
 悦也の感覚は友人にはわからない。友人の感覚は、悦也にはわからない。
 一日の授業を終えて、部活も終えて暗くなった道を帰る。玄関を開けると、祥子が悦也の帰りを待ちかねていた。
「チョコレート、食べよう」
 そんな祥子の第一声に、悦也は小首を傾げて、考えて、
「しょうこちゃんからもらった、やつのこと?」
「そう、あれ高かったの」
「高かったの?」
「だからおいしいはず」
「しょうこちゃんが食べたくて買ってきたの?」
「あたりまえじゃない」
「……あたりまえなんだ」
 そうなんだ、と納得したような、してないないような。
「じゃあ、チョコ取ってくる」
 部屋に戻って着替えをする。慶人はパソコンをいじっていた。
「しょうこちゃんが、チョコレート食べたいって」
 慶人はなにかを考えるように悦也に振り向いて、
「祥子がくれたチョコ?」
「そう。高かったんだって。だからおしいはずだって」
「……そーなんだ」
 慶人と悦也はそれぞれに、祥子からもらったチョコレートを手にする。
 同じ箱、多分、同じ中身。お世辞にも大きくはない箱の中身が、お世辞にも高価なものだとは思えないけれど。
「高いのっ。高いのはすっごく高いのっ。小さくてもびっくりするくらい高いの!」
 夕食前の食卓で、祥子が力説するので、きっとそういうものなのだろう。と思うことにする。
「だったらしょうこちゃん、どうせしょうこちゃんも食べるなら、同じものじゃなくていろいろ違うものを買ってくれればいいのに。そしたらいろいろみんなで食べれるのに。……って、なんか去年もおんなじこと言った気がする」
 祥子も、同じような話をしたことを思い出した顔で。
「でも、同じのがいいかなって、思っちゃうんだもん」
 だって、と言いたそうに、
「みんなおんなじ、なんだもん」
 そりゃそうだ、という顔を、慶人もした。から。
「僕と、けいちゃんと、お父さん、おんなじ?」
「同じでしょ」
 そんなことより、早く食べよう、と言う祥子が食べたがるチョコレートは、いつでも、自分が渡したチョコレートだけ、だった。
 慶人や悦也が誰かからもらってきたのかとか、どんなものをもらってきたのかとか、そんなことはどうでもいいようだった。それは慶人と悦也の事情で、祥子には関係がない。だったら、祥子があげたチョコレートももう祥子には関係がないんじゃないかと、思うけれど。それとこれとはまた違う、らしい。
「僕とけいちゃんも、同じ?」
 まったく同じことを、少しだけ変えて聞いてみる。
 中学一年生、だというのに、祥子よりずいぶん低い目線で、祥子を見上げる。
 祥子はまったく同じことを、少しも変えずに言った。
「同じでしょ」
「そ、っか」
「文句があるの?」
「ううん」
 悦也はチョコレートのラッピングをきれいに解こうとして、解けずに。リボンやカラフルな包装紙のどこがどうなっているのかわからなくて、結局、適当に爪を引っ掛けて破って開いた。
 これも開けて、と言われて、慶人のチョコレートのラッピングも破く。
「僕だけが、違う、とか言うわけじゃないなら、いいや」
 悦也は、同じ顔をした姉と兄を見比べる。
 同じ顔。同じ年。同じ誕生日。血液型も同じ。身長や体重はちょっと違う、と思う。学校の成績も違う。でも、同じ学校。
 慶人と祥子はいつも同じで。いつも、悦也だけが違う。
 慶人と、祥子は。
「なんだよ、おまえが先に食べるのかよ」
「当たり前でしょ。わたしが買ったんだから」
「僕のだろ」
「わたしがあげたやつでしょう」
「僕がもらったやつだろう」
「ばかじゃないの、なに先に食べようとしてるの。わたしにちょうだいよ」
「ばかはおまえだ」
 会話の内容は、以前とちっとも変わらないけれど。
 それでも、今朝みたいに、ふいに同じ顔で笑ったりすると。
 お互いに興味なんてないみたいにけんかばっかりしているくせに。ばかだばかだと言い合うくせに。
 それでも、
「じゃあ、悦也が一番ね。弟だから」
「僕も弟なんだけど」
「あんた、かわいくない。むしろ気持ち悪い」
「まあ、悦也のほうが祥子が先よりいいか」
 なんだかよくわからないところで意見が合ったり、くだらないことにムキになったり、ふたりに、おなじように、思われたり、すると。
 ふたりは、ふたり、なんだなと思う。
 ふたりの間に入ってはいけないような気がする。
 昨日、だって。
 昨夜だって。
 辞書を借りに行っただけの慶人があんまり戻ってこないから。ひどいケンカでもしているのかと思って祥子の部屋に様子を窺いに行った。
 しょうこちゃん? とか。けいちゃん? とか。
 声を掛けようと思った。ノックしようと思った。
 祥子の部屋には、鍵が、掛かっていて。
 鍵が、掛かっていたから。
 呼んじゃいけないような気がした。ノックしちゃ、いけないような気が、した。
 鍵なんか掛かってなくてもきっと、声もかけなかった。ノックもしなかった。
 触れちゃいけないものには、触れちゃいけないように。
 ノックしようと思った手を下ろした。ふたりの名前を呼びかけた口を、噤んだ。
 昨日の、夜は、どうして。
 昨日の夜に限って、どうして、そんなふうに思ったんだろう。
 そんなのぜんぜんわからないけれど。
 そんなふうに思ったのは、慶人と祥子が双子で、悦也だけが違ったからか。それとも。
 悦也だって、慶人と祥子となにも違わない、からか。
 声をかけたら、なにかが壊れるかもしれないことを知っていた、みたいに。本能が。きっと。
 部屋に戻って、日付が、変わったなと、思って眠った。
「悦也、ほら、あーんして」
 食事前にそんなもの食べて、と母親に怒られながらチョコレートを食べた。
「ところで慶人も悦也も、よく考えたらあんたたちバレンタインデーに、こんな時間にのんびり家にいるってちょっとどうなの」
「しょうこちゃん、僕はまだ中学生だから清いお付き合いなんだよ」
「そうなの? 彼女いるの? ほんとに?」
「うんまあ、いたら、の話なんだけど」
「それはいるってことなの、いないってことなの?」
 つめ寄る祥子を笑顔でかわして。
「そういう祥子だって、家にいるじゃないか」
「いちゃ悪いの!?」
「おまえが持ち出した話は、そういう話じゃないだろ」
「どういう話なの」
「おまえが聞くな」
 もういいからチョコでも食ってろ、と。呆れたように、それでもふたりが笑った、から。
 今夜も……。
 きっと。今夜も。祥子の部屋には鍵が掛かるんだろうなと。
 悦也も一緒になって笑いながら、ふと。
 考えたわけじゃない。思ったわけじゃない。ただ、ふと。なんとなく。
 慶人と使っている二段ベッドの上の段に、慶人が、いない自分の部屋を想像した。
 悦也は今日も、きっと、祥子の部屋をノックしない。



2.14(火曜日) ……暗っ


 バレンタインデーですね。はっぴーですか?
 ふと思いついたお話がこんなものですみません。

 せめて登場人物の名前はめでたくしてみました。そんなどうでもいいいらない心遣いの散りばめられた暗々すとーりーをあなたに。






   「前夜」



「しょうこちゃんの部屋に行くの?」
 立ち上がっただけでそう言われて、
「そう」
 だと答えた。
「辞書、学校にに置いてきちゃったから、借りてくる」
「なんの辞書?」
「英語」
「僕の辞書、貸してあげようか?」
「おまえのなんて、中学生用じゃないか」
「だって、僕、中学生だもん」
「僕は高校生だよ」
 知ってるよ、と弟は時計を見上げて、
「しょうこちゃん、もう寝ちゃってるんじゃないの? こんな時間だし」
「かもね」
 かまわずに、部屋を出た。
「祥子(しょうこ)」
 姉の部屋の前で、姉を呼ぶ。ノックする。返事はない。
「祥子」
 気配で、眠っていると察しがつく。
 入り込んだ祥子の部屋は暗かった。真っ暗だ。
 自分の姿も見失うほどの暗闇にため息を吐いた。
 手探りで勉強机のライトを点けた。ライトの、明りだけで、部屋中が明るくなった気がして慌てて祥子を見やった。
 祥子はかまわずに眠っていた。たったこれだけの明りで、目を覚ますこともある。目を、覚まさないこともある。
 勉強机の片隅に英語の辞書を見つけた。同じ課題が出ていたから、同じテキストと、同じ辞書。
 色違いのノートを開くと、きれいに課題はすんでいるようだった。辞書借りるよ、と心の中で呟いて、ライトを消そうと、した、とき。
 ライトの明りから少し外れた場所に、小箱を見つけた。どきりと、した、のは。
 チョコレート、とくちの中で呟いた。
 時期的に、間違いないはずだった。
 かわいらしくラッピングされたチョコレートが、ふたつ。
 ふたつ、並んでいたからすぐに、わかった。これは、
 父親と、弟の、ものだ。
 祥子に彼氏はいない。片思いの相手なんていうものが、いるのかどうかなんて知らない。いないかもしれない。いるのかもしれない。いるのなら、その男のためにチョコレートを用意しているのかもしれない。
 でも、そういうふうに用意したチョコレートはきっと、こんなふうに、机の上に無造作に置いておいたりはしない。カバンの中にしまってあるか、机の中に、隠しているか。
 カバンや、机の中を、探ってみようという気はほんの少しも起こらなかった。別に、そんなこと、どうでもいい。祥子に、好きな相手がいようと、彼氏ができようと。どうでもいい。
 どうでもよくないのは、目に付いた、ふたつの、チョコレート。
 きっと、たぶん、わざと、ふたつ。
 目に付くように置いてある。
 慶人(けいと)の目に、付くように置いてある。
 慶人は、消そうと思ったライトを消さずに、眠っている祥子を、見下ろした。
 高校生、にもなって。
 高校生、になったからか。
『気持ち悪いっ』
 祥子は、そんなことを平気で口にするようになった。
『あんた、気持ち悪いっ!』
 祥子、という姉と。慶人、という弟の。似ている顔。似すぎている顔。同じ、顔、が。
『もう最悪!』
『……なに言ってんだよ』
 似ているのは、同じなのは。
 呆れる慶人の呟きに、
『双子だもん、しょうがないんじゃないの?』
 横からいつも、弟が口を挟む。
『しょうこちゃんとけいちゃんは双子だもんね』
 似てていいなあ、と無邪気に笑う。
『でも僕だって、しょうこちゃんとよく似てるって言われるよ?』
 祥子も無邪気に笑った。
『わたし、悦也(えつや)と似てるって言われるのは別に、気持ち悪くもなんともないんだけどな。だって別に、きょうだい、なんだし』
 慶人の目の前で、
『じゃあ、けいちゃんと似てたっていいじゃない?』
『いや。慶人はいや。似てるとか言うレベルじゃなくて、ほんっと、気持ち悪い』
 祥子と慶人は、よく似ている。
 女と男というだけの、それだけの違いがあるだけで、とても、よく似ていた。
『一卵性でもないのに、気持ち悪い』
 でも、そんなことを、言われても。
 もともとはひとつだったものを、薄くはがして取ったもののように似ているのは。並べて見ても重ねて見ても同じである、のは。
 基本的には、同じ血が繋がっていて、同じ時期に作られて、同じ場所で一緒に育った、んだから、どうしようもないんじゃないか、と、思う。
 しかも、どうでもいいと思う。
 慶人は祥子を特別視したことはない。双子であっても、同じ顔であっても。祥子は祥子で、慶人は慶人、だった。祥子という姉がいて、悦也という弟がいる。それだけのことだった。
 祥子が気に入らなかったのは。双子、なのに。慶人の背ばかり伸びたことなのか。慶人の運動能力に追いつけなくなったことなのか。それとも、どちらかといえば頭はあまりよくない慶人を、ばかにしている、だけ、なのか。
 慶人はなにも、なにひとつ、気にしたことなどない。男なんだから、少なくとも祥子よりは身長くらい伸びたっていいだろうと思うし。男なんだから、少なくとも祥子よりは運動能力が勝っていたっていいだろうと、思うし。男だけれど、学力の差は、それはもう、上でも下でもどちらであっても、それが個性というものなんじゃないかと、思うし。
 慶人は、慶人の立つ場所に立って日々を過ごしてきただけ、なのに。
 祥子は、それを否定する。
『あんた、気持ち悪い。同じ顔なのに、どうして他は同じじゃないの。身長も体重も性別さえも、どうして、違うの』
 そんなことを、言われても。
『僕たちは、最初から同じじゃないよ』
 そんなこと、慶人は知っていた。
 双子、とひとくくりにされると、同じものである、ような気もするけれど。同じものだといわれても、それはそれで別にかまわないような気もするけれど。
 ほんの少し早く生まれた祥子が、姉、と呼ばれているように。ほんの少しの遺伝子の違いで、祥子が女で、慶人が男で、あるように。
 ほんの、少し、ずつ、のことで。確実に、同じものでは、ない、ことを。
『祥子は知らなかったの?』
 同じ、つもりだったの?
 きっと、あの言い方が、気に入らなかった。
『わたしより頭悪いくせに、上からものを言わないで!』
『言ってない』
『言ってる!』
『そんなの、祥子がちっちゃいからそう思うだけだろ』
 ただ単に、身長の、差が。
『好きであんたよりちっちゃいわけじゃない!』
『……そうだけど』
 それはそう、だけど。そんなことが、問題なわけじゃない、けれど。
 でも、そんなことが、問題みたいに、言うから。
 ムキになって、言う、から。
 なんて……。
 慶人は、祥子を凝視して、笑いたくなった。
 初めて、祥子を、そんなふうに、思った。
 その感情は。
 どうしてか、些細なことで、揺れて、折れそうになる。
「……ん……」
 付けっぱなしのライトの眩しさにか、それともなんとなく寝返りを打っただけだった、のか。
 微かな祥子の声に驚いて、ライトを、消した。
 部屋の中が暗闇に戻る。手探りで英語の辞書を手に取る。
 そのまま、しばらく。
 暗闇の中で祥子の姿を見つめた。
 目を閉じた方が明るく思えるような暗闇にも、次第に目が慣れてくる。
 静かに眠っている祥子と。
 机の上の、ふたつの、チョコレート。
 ふたつしかないその理由が、わかりやすくて。なんて。
 なんて……。
 慶人は、祥子を起こさないようにベッドに掛けた。……起こしても、いいつもりでベッドに掛けた。
 起きれば、いい。目を覚ませばいい。そうして、なんであんたがここにいるの、こんなところでなにしてるのと、言えばいい。辞書を借りに来た。それから祥子を見てた、と答えるから。
 なぜ見てたのか、聞けばいい。
「祥子」
 額にかかる髪を避けて、そこに、くちびるを押し付けた。
「祥子」
 どうしてこんなことをするのか、聞けばいい。
「なんで、僕のチョコだけないのさ」
 目を覚ました祥子は、まだ夢の中にいるように慶人を見て、眠そうに眼差しを細める。
「祥子」
 と、聞けば。
「あんたの分なんか、ない」
「なんで」
「気持ち悪いって、言ってるでしょ」
「同じ顔が?」
 祥子のまなざしは、少しも揺れない。嘘がないから揺れない。
 揺れないまなざしは、こんなことを言っても、揺れないだろうか。
「僕は、祥子を好きなんだけど」
「……同じ顔が?」
「祥子が」
「ばかじゃないの」
 ばかじゃないの、というから。意味なら、通じているはずだった。ちゃんと通じているはずだった。
 どういう、好き、なのか。通じているはずだった。
「いやだ、ほんと、あんた気持ち悪い」
「でも。最初に僕を特別な目で見たのは、祥子だ」
 祥子が、すぐ傍で。
 すぐ傍にいる慶人を押し退けもせずに身動きできないでいる理由、が。
 きっと。
「だからあんたも、わたしを特別な目で見るの」
「そういうもんじゃないの」
 くちびるを押し付けた額をなでると、眼差しが揺れた。びくりと肩が揺れた。
「ばかじゃないの。特別の、意味が違う」
「違わないだろ。祥子が僕のことをとやかく言わなきゃ、僕は祥子のことなんてなんとも思わなかった。これっぽっちも、ほんの少しも」
 だから、
「祥子は、黙ってればよかったんだ」
 そんなこと、わかっているはずだった。知っているはずだった。
 そんなこと。それくらい。そんなことくらい。
 頭のいい、祥子なら。
「最初に、隠すのをやめたのは祥子だろ。僕を引きずり込んだのは、祥子だろ」
「わたしのせいにしないでよ」
 慶人が触れるからだは、
「震えてる」
 震えているから笑った。
 こんなに、こんなふうに、こんなにも。
 なんて……。
「祥子をかわいいと思う日が来るなんて、思わなかった」
 なんてかわいい、んだろう。
 身内として、ではなく。
 ……身内だけれど。
 身内以上に。
「僕のチョコは?」
「ないって言ってるでしょ」
 変わらずに言葉をつむぐくちびるに、くちびるをよせたら。触れる寸前で、
「僕にだけないなんて、僕だけが特別なんだ」
 と言ってみれば。
 くちびるが、触れる寸前で、飛び起きた。
 慶人を押し退けて、
 明りがなくても、暗闇でも。見えているように、そのことばかり考えていたみたいに、迷いもせずに。
 机の引き出しの奥から、父親と弟に用意したものとまるで同じものを、投げ付けた。
「特別って、どんな特別だって言いたいの!?」
 ひとつだけ隠しておいた理由も。
 同じものが三つあったのに。どれでもいいはずなのに、わざわざ、隠しておいたものをよこした理由、も。
 全部が。
 特別。
「あのさ祥子」
 慶人は、ベッドに掛けたまま、祥子を見上げずに、受け止めたチョコレートを握り締めた。
 真っ暗なままの部屋の中で、ふたりとも、身動きしないことだけ、お互いに、わかる。
「いっつも、わけもわからずに、祥子に気持ち悪いって言われるたびに腹が立つ。今だって、立ってないわけじゃないけど。チョコもらったから、今だけならいいよ」
 顔を上げれば、目が合った。暗闇の中で、それでも、多分。
「なに、が」
「なにが、じゃなくて」
 そんなことじゃなくて。
「祥子も、そう、なら。鍵、かけて」
 部屋の、鍵は。部屋と、部屋の外を隔てるために。
「僕が祥子の部屋にいるの、悦也は知ってるから」
 悦也は、祥子が慶人を嫌いだと思っている。慶人は祥子に嫌われていると思っている。そんなふたりが、ふたりきりで、祥子の部屋で、なにをしているのか。そのうちに、気にかける。見に、来る。
「なにしてるのか見られたくなかったら。鍵を掛けて。傍に来て」
 鍵を、掛けたら、
「それとも、僕がそこに、行こうか」
 息を飲む音が聞こえた。無理矢理に、笑った声が聞こえた。
「あんた、わたしが、あげたチョコで、そんなもんで、うかれてるの?」
「……うん」
「そんな、父さんと、悦也と同じ、もので?」
「うん」
 それは、一番近い、きょうだい、だから。
 特別でない、なんでもないことが、こんなに、特別だと、思う。
 当たり前のとくべつ、だと、思う。
 だから、早く。
「鍵を掛けて、傍に来て」
「ばかじゃないの。なんでわたしがあんたの言うことを聞かなくちゃいけないの。聞くと思ってるの」
「だって、バレンタインだし。チョコももらった、し」
「……ばか、じゃないの」
 微かに震えた声が返ってきた。
「バレンタインは明日、でしょ……!?」
「もうすぐ、明日になる」
 それで。それだけのことが、免罪符になるの、なら。
「……あんた、気持ち悪い」
「なにが」
 不機嫌な声を返したら。
「慶人はわたしと、似てるのに似てない。似てないのに、似てる」
「なにそれ、意味がわかんない」
 わからない。わかりあえることと、わかりあえないことがある。似ていても、似ていなくても。ずっと一緒にいても、いなくても。一緒に、生まれてきても、生まれてこなくても。
「祥子は僕と同じがいいの? 同じが嫌なの? ……どっちでも、いいけど。どうせ、今は、なんにも見えない」
 目に見えるものは、なにも見えない。
「見えないけど、ここにいるのは僕で、そこにいるのは祥子だろ」
 ただ、それだけのこと。
 そう思えば、それだけの、こと。
「早くっ、祥子」
 じれて、手を、伸ばせば、
 今からの時間を想像して身をすくめる祥子の気配がした。
 それ、でも。そのうちに。
 ためらいがちに鍵を、掛ける音がした。
 伸ばした手に、手が触れた。

以上! 


2.13(日曜日) いろいろ痛い……


 昨日はバイトでした。あ、会社の、上司の。日当出るって言うし、じゃあ、って感じで。
 家一件分の片付けをしてきました。すごい、物置みたいな家でした。なんか、どーゆー経緯でその家の片付けをしているのかとかはとんとよくわかっていなかったんですが。今日は筋肉痛がほんのり痛いです。なんとなくえらいです。
 かなり古いお宅でした。
 ……冷蔵庫から04年日付の牛乳が出てきました。……怖い。
 鴨居が低く、お手伝いに来ていた男のひとたちがごんごん頭をぶつけているのが哀れでした。
 絨毯めくったらへそくりが出てきたり、どこのどんな棚でも開けるたびにぎっしりつまった食器が出てきたりとビックリハウスでした。ほんとうにどの棚もびっしりぎっしりだったので、途中から棚開けるの恐怖症になりました。棚怖い。
 でも広縁が素敵ハウスでした。一軒家の理想です。庭を望む縁側。
 お昼のお弁当はのんびりまったり縁側で日向ぼっこしながら頂きました。ほかほか暖かくて失念していたんですが、帰ってから愕然としました。
 うわ、すっごい日焼けしてる。ほっぺひりひりするーーーー。
 ……もうずいぶんいい年なんだから、日焼けにはっ、日焼けにはっ、細心の注意をもってしてはらわなければならなかったのにーーーーー。
 臨時収入でうきうきですが、びみょーに、なにかに勝って、なにかに負けた気分でした。



 そうそう、本日から本格的にラジオ体操開始です。
 けっきょく、正しいラジオ体操を誰も思い出せないままなのでだるだるです。やってる意味がわかりません。「ここはこーじゃないか?」と創作ダンス状態です。そのうち会社流自己流のラジオ体操が完成するかもしれません。
 ほんと、どなたか教えてください。
 ラジオ体操第二、は、買ってきたCDにはいっていないのでやってません。うん、なんか、確かに小学生のころはきっちり第二までできていたはずなのに、なぜひとは忘れてしまうのでしょうか。あの若く輝かしい思い出を。


2.11(日曜日) うまかった


 上海しろさん日記に影響されて、ずーっと食べたかったホットケーキをものすごく久しぶりに食べました。
 果てしなく久しぶりです。焼きたてほかほか。おいしかったです。以前に買って、ずーーーーーーっと冷蔵庫に入っていたメイプル味のマーガリンを使用しました。おいしくて幸せでした。食パンにつけるとちと甘すぎたんですが、食パンよりも甘いホットケーキに使用するとびっくりおしいいのはこれいかに。
 休日ののんびりランチにのんびり焼いてのんびり食べたかったのに、妹が隣で、ホットケーキの焼き加減とか、ひっくり返すタイミングとか口出してきてうるさかったです。
「おねーちゃんはさ、のんびりすぎだよ。ひっくり返すタイミングも、その動きもっ」
 ……動きくらい好きにさせてよ。
 いやしかし、おいしかったです。ちょっとくせになりそうです。また焼きます。ステキきつね色に焼けたホットケーキの写真は、完食してしまってから、ああ! 写真撮っときゃよかった、日記用に! と思いましたが後の祭りです。もうわたしの胃の中です。食べるの優先です。
 食べ物ってほんと、作る時間と比べると、食べる時間は一瞬ですよね、ぺろりですよね。


2.9(金曜日) からだが、覚えていますか……?


 どうでも小話+今日の実話 立野さん・なっちゃん編


「……うそ」
 隣で、ぽつんと立野さんが途方に暮れたように呟いた。
 ……うん。わたしも、同じ気分。
 立ち尽くすわたしに、立野さんが意外そうな顔で、
「なっちゃんも覚えてないの? そうなの?」
「……けっこういけると思ったんですけど。ダメっぽいです」
「なっちゃん、まだ若いのに」
「え、立野さんとそんな変わんないですよ!?」
 わたしと、立野さん、顔を見合わせて、
『だれか知ってるひといないかなあ』
 ってため息吐いた。
 ……で、夕方。
「あ!」
 仕事中、突然席を立った立野さん、事務所を飛び出したかと思ったら、誰かを捕まえて戻ってきた。すごい、いいこと思いついたみたいに、元気に、
「なっちゃん、なっちゃん、いいもの捕まえた。ほら」
 ほら、って……。
 立野さんの捕まえてきたひと、
「どーもー」
 望月君、と、望月君が捕まったので、なんだかしょーがないなーって感じで着いてきた清水さん、が、
「高橋少年もげっとでーす」
 高橋君、連れて来てて。
「大漁」
 楽しそうな立野さんに、望月くんと高橋くん、顔、見合わせた。
 たぶん、清水さんの部活が終わるのを待ってた望月くんと、なんだかたまたま一緒になった部活帰りの高橋くん、って構図、なのかな、どうかな……。
「……ちーっす」
 って高橋くん、わたしにひらひら、手、振る。それから傍に寄ってきて、
「んで、なんでおれたち捕まえられてんの?」
 捕まえられたのは望月くんだけ、の気がしないでもなかったんだけど、立野さん、事務所の奥に座ってる、突然入ってきた高校生にびっくりしてる部長に、
「部長、ちょっと、上で練習してきます」
 ほらなっちゃんも、と手、引っ張られて、パソコンも伝票もそのままほったらかしで、二階の、いつもお昼ごはんを食べてる場所、で。
「はい、よろしく」
 持ってきたカセットデッキ、がっちゃり再生ボタン押して、意味がわからないでいる高橋君と望月くんと清水さんが、聞いた、音楽は。
 ラジオ体操第一。
 聞き覚えがある、というよりもからだに染みこんでるみたいな前奏に、なんすか、体操すればいいんすか? って。じゃあやりますけど、って。望月くんが体操、はじめてくれて、なんだかよくわかんないけどって、清水さんもはじめて、なんでラジオ体操!? ってわけわかんない顔してる高橋君は、ぼうっとしてたら、ちゃんとやってね、って立野さんの笑顔にしぶしぶ、ラジオ体操、はじめた。
 三人のラジオ体操姿に、わたしと、立野さん、
『そうそう、こんな感じ』
 手を取り合って喜ぶ。
「……すげー、ラジオ体操して喜ばれた」
 体操が終わって、高橋君がなんとなく赤い顔してぐったりする。ちょっと恥ずかしかった、みたい。
 それでなんでラジオ体操? って清水さんと望月君に突っ込まれて、わたし、立野さんと、
「えーだって、偉大な室長様がね。やれって言ったんですよね」
「そうそう、偉大な室長様が。昨日来て、突然、明日からラジオ体操をしないさい、って」
「どーでもいいと思うんですけどねー」
「でも偉大な室長様の言うことだから」
「だからやってみたら、これが以外に、覚えてそうで覚えてなくって。わたしも立野さんも、部長も次長も、もうみんな」
「……そんで、オレ、捕獲、ですか」
 望月君、わかったようなわからないような顔をする。
 立野さんは嬉しそうに、
「そう、よかった、現役学生さんの友達いて。ありがとう」
 にこやかに、爽やかに、
「念のため、もう一回やってもらっていい?」
 えーーー、と不満そうな声をあげたのは高橋君で、望月君はいっすよー、って感じで、清水さんは、もうすごい当たり前にわたしの隣に、座ってて。ラジオ体操の二回目を張り切って始めた望月君と、しぶしぶやり始めた高橋君を見ながら、
「会社って、わりといろんなことしなくちゃいけないんですねえ」
 しみじみ言った。


 ということで、わかりませんでした。ラジオ体操第一。
 ぜったいわかると思ったのにぃ。意外にできませんでしたラジオ体操第一。
 通りを行く学生さんをひっ捕まえて、教えてくださいとお願いしようかとホントに思いました。
 ということで、望月君たち高校生に逆戻りバージョン。
 室長様バンザイ。


2.8(木曜日) すごい気になった!


 いつもお邪魔しているサイトさんに貼ってる ↓ が、気になって仕方ありません。いつもつい押してしまいます。
 なにか、ゲームの関係のもののようですが、これだけでたのしい、です。
 言葉がいちいち男前。
 心が折れそうなあなたはぜひどうぞ☆






【あなたのサイトに言霊を】
……心が折れそうな時!
そんな時は、この「今日の言霊」をクリック!オヤっさんが言霊を浴びせかけてくれます。


2.6(火曜日) こんな日は


 朝、会社までの道のりは車でおよそ15分……を見て出かけています。マイカーです。
 今日はなんと、ひとつも信号に引っかからずに会社に到着。ジャスト8分。早いっ。
 仕事はきっちり8:30から、と言うわけでもなく、会社に着けばなんとなく仕事を始めるので、早く着けば着いただけ仕事をする時間が長くなっている気もしないでもないのですがまあ、それはともかく。
 信号に引っかからなかった! 踏切にも引っかからなかった! こんな日はなにかいいことがありそうな気がします。
 が、別に特に何事もなくふつーの一日でした。あれ?
 信号に引っかからなかったから、それがいいこと? いやでもそれは……。
 おみくじで、大吉を引いたからいいことがある、わけではなく、大吉を引いたことそのものがいいこと、みたいなーー。


2.5(月曜日) いろいろ


 業務連絡??

 ・祐基と一志の対談を試みましたが、なんていうか会話が成立しません。ので、断念。やまがなくておちがなくていみがない、という。あらやだや○い、○おいだわっ。君らふたりでどーだね? おねーちゃん相手よりはよっぽど健全なんじゃないでしょうか。多分、きっと。すごくどうでもいいですが。

 ・投票所の項目を増やせるようにしておきました。です。うむ、しかし、さて。ぼちぼち整理をしたほうがいい、ですよね。いつかリセットを、考えますです。

 ・クッピーラムネ話に乗っていただいた方ありがとうございます。近畿地方にはなんとか、存在するみたいです。おお。
 そういえば麩菓子も好きです。


 さて。昨日ですが。
 さっそく岩盤浴にいってきました。別に孤独は戦いを挑んではきませんでした。なんかぼーっとしてたらいいんですよ。うん。
 なんでかよくわかりませんが、お肌するするです。夜、お風呂に入った後は、温泉から上がったみたいにお肌がするするでうほほと笑えました。
 これがダイエットになるのかどうなのかはこれまたよくわかりませんが、午前中に行って、その後めいっぱい食べたランチはおいしかったです。
 また行きたい気が満々です。


2.4(日曜日) 日記じゃないですよ


 他人の評価なんてどうでもいいと思ってます。でも、自分で思うところの、あのひとはわたしのことをこんな風に思ってるんじゃないかなあ、なんて思ったりするのは、やっぱり、他人の評価とかが気になっているのかもしれません。というか、自分の評価、ですか。
 物事がうまく行かなくて、昨日の夜はお風呂の中で天井を眺めました。
 天井しか見えません。当たり前です。
 天井を見たら天井しか見えないみたいに、うまく行かなかったことばかりを考えます。
 天井を見ることにも飽きて、まあ、いつものように、一晩寝たらどうでもよくなるかなあ、とちょっと投げやりになりました。どうでもよくなる、と言うのは解決にはなってませんが、物事はそうそう簡単に解決することばかりでもないと思います。じゃあ解決しないのか、と言えばそうでもなくて、時間とともに、まあ、どうでもよくなる、ものじゃないんでしょうかどうなんでしょうか。もっとちゃんと気の済むまで解決しろって感じですが……。
 が。
 休日の朝だというのに早くから目が覚めて、どうも、どうにも、気になっていることがどうでもよくなっていなかったりして、友達をお茶にでも誘っていろいろぐちぐち言ってみようかなあ、とか、ランチがいいかな、とか、思ったんですが。
 友人と、会うのも誘うのも、メールを打つものおっくうで、なんとなく、とりあえず、そうだ出かけよう、と言う気分になって出かけました。
 車に乗って、どこまでも。
 どこまでも……って、どこまでだ。
 ……目的地がはっきりしていない運転は苦手なのです。
 買い物、とか、でいいか。ぶらぶらしてれば気が晴れる、かもしれない。です。
 でもひとごみはヤダなあ。ひとごみでひとりぼっちなのがヤだなあ、と思うのです。というか、ひとごみでひとりぼっちなのがイヤだなあ、なんて思う自分がいやです。買い物は別に、ひとりでのんびりでも、いつもは気ままで楽しいのに。
 うむ。なんだろう、わたし重症??
 かもしれません。
 そうだ、旅に出よう。車で。どこまでも。
 ……当初の予定通りです。
 どこに行こうかなと考えました。目的地が必要です。ここ重要です。
 目的地……とりあえず、北か南か東か西か。それだけでも。
 東西のどちらかにしたい、と思いました。なんとなく。
 家から数十メートル先には国道一号線があって、国道一号線は西と東に延びています。西か東かさえ決めてしまえば、あとは延々と、行き止まりもなく進めます。
 ……さて。
 東、東にしましょう。下るよりも上ったほうがいいような気がします。しませんか??
 ということで、行ってきます、です。


2.3(土曜日) 大好物


 最近あんまり見かけなったので食べていなかったのですが、大好物のクッピーラムネです。発見しました。クッピーラムネ
 全国で売っている駄菓子だと思っていましたが、名古屋の製菓会社さんです。地元でした。知名度は……どうなんでしょか。以前ご当地サイトさんみたいなサイトさんで、愛知編、クッピーラムネは全国じゃない、とか書いてあってショックを受けました。そうですか、そうなんですか??
 ピンクいのがおいしいです。ピンクいのがたくさん入っているものを選んで買ってきました。色によって味が違うのがニクイです。
 ラムネはこれが一番です。一気食いできます。妹に「おねーちゃんのラムネの食べっぷりを見てると気持ち悪くなる」と言われる勢いで食べれます。
 なんかこう、ラムネとか、たまごボーロとかマシュマロとかウエハースとか、そういうものが好きです。子供な味覚を通り越して幼児の味覚です。原料が謎なものばかり好きです。
 マシュマロは以前、自分で作ってみたことがあります。原料わかります。我ながら舌触りは素敵でしたが(市販のものとはちょっと違う感じで)、たまご臭かったです。そこんとこはちょっと失敗。
 ラムネは……どう作るんでしょうか??


2.2(金曜日) てん・し(後編)


 書き始めたときは、そのまま「天使」という意味だった気がします。
 すぐに、ここはエロ小説っぽく「展翅(標本にするため,昆虫の羽をひろげて固定すること)」なんかどーだろう、と思いました。
 そのうちにもしかしたら「天資」でもいいかもしれない、と思いました。祐基のあの態度と言うかなんというか、あれが。
 最終的にわけがわからなくなってきたのでひらがなにしてみました。
 そんなおはなしでした。
 基本的にはとてもベタなお話だと思います。いつもですが。あらすじを書くとがっかりします。いつか、あらすじでは、ひとことでは言い表せないようなお話が書けるようになればいいなあと思います。
 どうでもいいことですが、同じお姉ちゃんらぶでも、祐基と一志は気が合わないと思います。なんとなく。


2.1(木曜日) 岩盤浴


 岩盤浴に行ってきた妹のお肌が、ありえないくらいにつるつるです。え、そんなに効果が出るものなの!?
 もともと肌はきれいなんですが、いやそれにしてもっ、というつるつるさです。一週間くらい前にいったのに、つるつる持続中です。わたしも岩盤浴行きたい。です。行こうよう、一緒に行こうよう、と誘ってみると、妹はちょっと考えて、
「でもねー、岩盤の上で寝てる間は孤独との戦いなんだよー。リラックス空間だから、おしゃべり禁止だし、かといって暗めで本は読めないし、汗はだらだら出てくるし、ぐはー、おいらはこんなところでいったいなにをしてるんだろー、って気分になるんだけど、それでも行く?」
 ……え、そう言われると……、どうなんでしょうか、そんなに孤独なんでしょうか。

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