10.4(水曜日) 代理=花珠保と一志 の今夜の我が家ほぼそのまま再生
……なんだか、暗いな、と入ったときから思っていた。
花珠保は天井を見上げる。視界が、ぼんやりと、暗いオレンジ色で、何度かまばたきをした。
(……なんだろ、なんか……)
いやな、予感がする。
落ち着かないまま、浴室で、花珠保はからだを流して浴槽に肩まで浸かった。お風呂に入るといつも、なんとなく、今日も一日終わったなあ、という気持ちになる。
「んーーー」
お湯が気持ちよくて、伸びをした、とき。
電気が。
切れた。
「わあ!」
ほらやっぱり、なんとなく電気が、明りが、暗いっぽいと思っていた。嫌な予感がしていた。
真っ暗になった浴室から、
「一志、一志! かーずーしーーー!!」
大声で呼ぶと、なんだよ、と呼びつけられて不機嫌な一志は、暗闇の浴室を見て、
「ねーちゃん、おもしろいことしてる。なに、暗いと癒されんの」
「電気が、切れたのっ。新しい電球持ってきて」
「えーーーー、なんでおれがーーー?」
「一志しかいないでしょ。いいからっ、持ってきて」
「んー」
どこに電球あるんだよ、とぶつぶついいながら脱衣所を出て行って、しばらくして戻ってきた一志は、わざとらしくしょんぼりした口調で。
「ねーちゃんにとても残念なお知らせがあります」
「……わかった、もういい」
なにが残念なのか、聞かなくてもわかって、花珠保は真っ暗な中、諦めて湯に浸かる。新しい電球が、ない、のだろう。
「玄関の、棚んとこになかったらないよなあ」
ないけれど、それでもなんとかしよう、という口調の一志に、
「うん、ないから、いいよ。ありがとう。脱衣所の電気つけといて。それでなんとか明るい、から」
おう、とか、んー、とか、一志は適当な返事をする。
花珠保は、暗い、浴室で、お湯に浸かっていると眠ってしまいそうになって。湯から上がった、ときに、勢いよく浴室のドアが開いた。
「じゃじゃーん」
一志がセルフミュージック付きで入ってくる。手には電球を持っている。
「え、電球あった?」
「便所の電球外してきた」
おれ頭いい! と言いたげな顔で電球を取り替えていく。
明るくなった浴室で、花珠保はのんびり髪を洗う。からだを洗う。途中で、一志が、トイレに入っていく気配がした。暗いのを承知でトイレを使う、んだ、と思っていたら。
「ぎゃあ! 暗っ!! って、おれが自分で外したんじゃんっ」
と喚く一志の声が聞こえた。花珠保は呆れて吐息した。
「一志、……頭悪い……」
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