3.1(水曜日) 先月の日記はまれに見る重さだったので、今月は気をつけましょうと思いつつなんだか今日も長いのです。
いつもありがとうございます。
の、投票所のコメントとか小話とかお返しです。
高橋君に「なんて事だ! Wなっちゃんのクリスマス、読んでなかったよ〜 いつ書かはりました?」
ええええと(調べ中)。あ、昨年の9月、らしーですよ。って、そーゆーことが聞きたかったわけではないですか??
激しくクリスマス時期をハズしたアップだったので、よ、よろしければ、また今年のクリスマス頃にでも思い出して読んでみてください、です。
(そういえば、なんかの占いで、わたしの今年のラッキーイベントはクリスマス、とありました。……そんな先にしかラッキーなイベントはないんですか、そうですか)
この、季節 この、日に
「温泉旅行番外編、熱望デス〜〜〜!由佳サン・さとサンの追求を受ける植田くんも。」
「大好きなシリーズだったので続きが読めて嬉しかったですが、終了が悲しいです・・・」
「望月君のお話、気長に楽しみに待ってます!!」
「……で、こっちが植田くん、です。植田己陽くん」
掘り炬燵式になっているテーブルで、
「どーも」
と己陽が頭を下げると、そんなことはどうでもよさそうに千里がひとこと、つっこんだ。
「これが植田なんて、そんなの見りゃわかるし」
それもそうだよね、と麻子は笑い、由佳だけがちょっと慌てて、
「サトちゃん、もーっちょと言葉を選ぼーよ、言葉を」
「え、なんで?」
「なんでじゃなくて」
店内はすべて個室になっているけれど、旬の野菜を使ったお弁当がお手軽に食べられるので、女性連れや、こどもを連れた女性連れで店内はさわざわと賑わっている。
一応、こそこそひそひそと肩を寄せる千里と由佳を、
「あ、こっちは、由佳ちゃんと千里ちゃん。植田くん、覚えてる?」
「覚えてる覚えてる。おまえら、あいかわらずだなあ」
「あんたにいわれたくないしっ」
「もー、サトちゃんっ」
どうどう、と由佳は千里の肩を撫でる。が、あまり効果はなくて、千里はこぶしを握り締めた。
「どうせ、相変わらず、成長の見られない面子ですっ」
「ええ!? それサトちゃんだけだから。わたしとアサコちゃんは違うし」
「なにあたしだけおとしめよーとしてんの」
「なにわたしたちまでおとしめよーとしてんの」
「一緒におとしめられるのが友達でしょう!? ちょっと、麻子も黙って笑ってないで、なんか言ってやって、由佳に、言ってやって」
麻子はおもしろそうに、まだお茶が熱くて飲めない湯飲みを両手で包むように持ちながら、
「あの、植田くんは別に、そういう意味で、相変わらずって言ったわけじゃない、と思うんだけど」
ねえ? と同意を求めると。己陽はお茶が熱いのも気にせず飲み込みながら、
「そー。相変わらず、仲いーなーと思っただけ」
「ほらね」
千里は、ち、と舌打ちして。
「深読みしすぎたか」
「俺の言葉深読みしてどーすんだ」
「深読みでもしなきゃ、麻子が、あんたの上っ面の言葉にだまされてこーゆーことになってるんだと思うと泣けるから」
「騙されてないよ?」
麻子と由佳は、お弁当遅いねえ、とのんきな会話をする。千里だけがひとり熱く、
「騙されてる人間は、騙されてないと思ってる時点で騙されてるのっ」
「こらこら」
まーまー落ち着いてお茶でも飲みなさい、と由佳は千里にお茶をすすめる。
千里が湯飲みを口元に持っていくと、己陽は、それまで手にしていた湯飲みを、ことん、とテーブルに置いた。
「そんな心配されなくても、幸せにするよ」
「ぜったい!?」
「絶対」
にこやかに己陽が告げても、千里はなんだかふくれっつらを戻さない。
己陽は由佳を見て、麻子を見て、千里を見た。
「なんでそんなに、俺は信用ならないかな。なんかしたっけ?」
「だって」
「だって?」
千里はますますふくれっつらで、
「麻子、取られるからくやしーだけ。麻子、あたしたちのなのにー」
「いや、俺のだろ。すみからすみまで、キミらの知らない麻子まで、全部俺のじゃん?」
「……あたしたちの知らない?」
「そー、オトコとオンナの……」
言いかけたところで、麻子が、なにげに見ていたメニュー表で己陽の顔面をはたいた。
痛くはなかったけれど、すごく痛かった様子で、
「麻子サン、ひどいことしないで」
「己陽ちゃんはすごいこと言わないで」
「……はい」
ふたりのやり取りに、由佳が、麻子ちゃん一勝、と呟く。
運ばれてきたお弁当に、いただきます、と手を合わせて、割り箸を割ったところで、千里は諦めたように吐息した。
「幸せにするって言い切るんなら、もういいけど」
「しますとも」
「それはいいけど、じゃあ、どんなポロポーズだったか教えなさいよ」
「……命令ですか」
己陽は茶碗蒸しのふたを取りかけてかたまる。ちらと視線だけで麻子を見ると、我関せずの態度で味噌汁を飲んでいる。
「あー、それは内緒の方向で」
「なんでよ」
「言うと麻子サンに絶交されるから」
「植田、そんなすごいプロポーズしたの?」
「ねえ、麻子ちゃんも聞いても教えてくれないしねえ」
「なんかそんなすごそーなこと、ふたりだけで抱えてたら、きっと結婚生活の破綻も早いと思うから、今ここでぺろっと白状したほうが楽じゃない?」
「いや、そうすると、ケッコン前に破滅の危機が……。ねえ、麻子サン」
「ねえ、己陽ちゃん」
にっこり、笑う麻子に、己陽の笑顔がかたまる。かたまったまま、
「ランチおごるから、ゆるしてクダサイ」
もともと己陽も割り勘にさせる気はなかったけれど。女性陣はゲンキンで。
「やった。おごり。ビール飲んでいい? ビール。昼間っから飲んでいい? お祝いだし。由佳と麻子は?」
「えー、わたしデザート追加で。アサコちゃんも食べる?」
そうだねえ、とみんなして、ランチそのものもまだそんなに手をつけていないのに盛り上がる。
己陽はあらためて茶碗蒸しに手をつける。こんな光景は、学生の頃にもよく見た。学生の頃の制服を着ていても、脱いでも、オンナノコたちは変わらないなあ、と、あからさまに笑うとまた千里辺りに、なに笑ってんのと突っ込まれるので、こっそり、笑った。
(三人称……ヘンな感じですね。
望月クンお話も三人称なので、多分、こんな感じだと思います。
温泉旅行編は、えええと、またそのうち、書けたらいいなあ……です)
秘蜜ごとに「後ろから殴りたくなるくらい、甘々でいてほしい!」
ぶれた画像でぐらぐらしてるテレビ画面の中で、母親の声がする。
『かず。かーずーちゃん。花珠保、一志』
母親が構えているビデオカメラに、小さな花珠保が急にアップで映って。
近付くビデオカメラを、花珠保が触ろうとする。母親はそれをひょいと避ける。画像が大きく上下して、つかまり立ちをやっとのことでしている一志を映した。一緒に若い父親が映っている。
おかーさん、おかーさん、と画面の隅から花珠保の声がする。今はもうないちゃぶ台につかまって立っている一志を目では心配しつつ、父親が花珠保を抱き上げた。
ビデオカメラが花珠保と父親に向く。
母親は相変わらず声だけで、
『花珠保、おとーさんにちゅー』
ちゅーと言われて、条件反射で。小さな花珠保はきゃっきゃと笑って、父親が、ちゅーと寄せてくるくちびるにちゅーをする。
『花珠保、花珠保、おかーさんにもちゅー』
父親から花珠保を抱き上げた母親は、ビデオカメラを父親に渡す。画面がまた大きく何度か揺れて、次には母親にちゅーをする花珠保が映る。
花珠保が、カメラに向かって、両脇を持たれた姿でぶらーんとアップになる。ぶらぶらと揺らされて、よく笑う。
『はーい、花珠保、一志にもちゅー』
まだ、ちゃぶ台につかまったままの一志の横にちょこんと下ろされて。
花珠保は一志にも同じようにちゅーをする。それからぎゅうと抱っこを、する。
そんな、昔の映像を見ていた母親は、
「うちの子、さいこーにかわいいと思うんだけど。親の欲目? ねえ、どう思う? 花珠保、どう思う?」
花珠保はずっと、母親と一緒におもしろそうに映像を見ていた。
「お父さんもお母さんもわかーい。一志、ちっちゃいね」
「そー、ほら、見て。このあと、花珠保に抱っこされて暴れて、ふたりしてすっ転んで、どっちかっていうと下敷きになった花珠保のほうが痛そうだったのに、花珠保クッションにしてぜんぜん痛そうでもなんでもなかった一志が大泣きしてね、ビデオどころじゃなくってね」
母親の言うとおりのシーンを映したビデオは、最後、泣く一志に慌ててぐらぐら揺れて、ぶちりと切れた。
母親はしみじみと、
「こんな小さいときから、一志は一志で、花珠保は花珠保なのねえ」
ねえ一志、と見向くと、部屋の隅で見たくなさそうに見ていた一志は、なんとなく、青い顔をしている。どうしたの? と花珠保が寄ると、
「…………手ブレに酔った」
気持ち悪い、とぐったりしながら、
「もーちょっと、ちゃんと撮っとけ、よっ」
「それが、手振れ防止ボタンとかに気が付いたの、このあとでね」
「あほだ……」
何気なく一志に触った花珠保の手が、冷たくて。
一志は花珠保の手を掴んで自分の額に押し当てた。
「ねーちゃん、きもちいー」
自分のもののように手を、離さないまま、
「つか、そんなモン撮っとかなくっていーし。撮っといても、わざわざ、思春期の息子に見せてくれなくていーっての」
「なに言ってんの。昔の記憶にもない自分の姿にもだえるあんたたちを見るのが楽しいんじゃない」
ねえ、おとーさん、と母親は父親に同意を求める。父親はなんとなく、気分的には一志の味方なのだけれど、一応、母親には逆らわずに、そうだねえ、と言ったりする。
「一志、ビデオ見るの好きじゃないの?」
「ねーちゃんはへーきなのかよ」
「うん? おもしろいよ? 一志かわいい。おむつでおしりまるっとしてるのが」
ほんとにかわいいよ? と言いながら、笑う。
ねえ、かわいいわよねえ、と母親も笑う。
さすがになんだか一志に同情的に、父親はどこか乾いた笑みを作って。
「……あー、そう。おれかわいい。やったー。家族のあいどるー」
一志はどうでもよさそうに適当に言う。
ビデオを止めた母親が、
「じゃあ、我が家のアイドルさまたちにお茶でもいれてあげようか? おかーさんたちコーヒーだけど、花珠保と一志はココアでいい? コーヒーがいい? 紅茶? 緑茶? 梅昆布茶?」
「ココア」
ふたり仲良く同じ注文をして、父親はコーヒーの豆挽き係りに任命されて母親と一緒に台所に入る。
一志は花珠保の手を掴んで自分の額に押し付けたまま。
花珠保は一志に手を、掴まれたまま。
「わたしも、お母さんたちのお手伝い……」
「ねーちゃんは、おれにちゅーして」
「は?」
「はーい、花珠保、一志にもちゅー」
一志は昔の母親の口真似をする。
「……なに、言ってんだか」
振り払おうとしたした手を振りほどけずに、立ち上がろうとしたところを抱きかかえられて。花珠保は一志に捕まって。座り込んだままの不自然な格好で抱き締められた。
「……ちょっとだけで、いーから」
「でも」
「とーさん、豆挽くのとろいじゃん。時間かかるからへーきじゃん」
「……そう?」
「そーじゃん。てか、なんで」
顔を、近付けると逃げて退く花珠保の顔を追いかけて、押し付けるようにキスをして。キスをして、捉えたくちびるを吸って、一度、ざらりと舌を舐めた。
「なんで、ちーさいときは、ちゅーちゅー、親公認でやってんのに、今はだめなんだよ。そーゆーの不思議じゃん?」
触れたのに、離れて喋る一志のくちびるに。
花珠保は一志の背中に回した手で、背中のシャツを掴んで、一志を引き寄せた。
喋ってる時間が惜しい、みたいに。くちびるを重ねたら。
舌の奥までねだるように、一志は花珠保に覆いかぶさった。抱き締めて、抱き、抱えて。漏れそうになる息は飲み込んだ。
ちょっとだけ、といった言葉は、忘れた、みたいに。
もっと、と求めて。
もっと、ずっと、そうしてたかったのに。
台所で、お盆にコップを四つ、置く音がした。
ゆっくり離れて、ふたり、お互いの濡れた口元をぬぐった。
ぬぐった手も、離れる。
「か、ずし……あとで、わたしの部屋、来る?」
「……うん」
ふたりの、会話を、
「なに一志、またおねーちゃんに宿題教えてもらうの? 花珠保、一応受験生なんだから、あんまりジャマしちゃだめよ」
ココアのコップを渡してくれる母親に、
「なんだよ、ジャマって。ジャマなんかしてませんー。むしろ復習の手伝いじゃん。感謝してほしーくらいだ。なあ、ねーちゃん」
「なあねーちゃん、じゃないでしょ。この屁理屈息子っ」
母親は遠慮手加減なく一志の頬をつまんで引っ張る。一志が大げさに痛い痛いと喚くので、見かねた父親が穏やかに、まあまあ、と母親をなだめる。
そんな光景を、花珠保はきょとんと見ていた。母親が、
「花珠保、あんたもなにか言ってやっていいのよ。この言いたい放題の弟にっ」
「え、あ、うん」
花珠保はココアを、一口飲み込んで。
「そっか、一志の宿題見ると、復習になるんだ。そっか、そうだよねえ」
今、気が付いたように、花珠保はなんだか感心している。
「ほらみろ、暴力ばばあ、ねーちゃん、おれに大感謝じゃんか」
「親に向かってばばあとはなに、ばばあとは! だいたい、あんたは自分に都合よく考えすぎなのっ」
騒ぎが大きくなって、花珠保は父親と部屋の隅に避難する。
ビデオの整理をしながら、父親はふと、花珠保を見て、なんとなく、さびしそうにため息した、から。
「お父さん、どうしたの?」
父親はなんでもないよ、といいたげに、でもなんでもなくはないように、
「おとーさん、花珠保にちゅーしてもらったの、いつが最後だったかなあ、とか、思って」
いつだっけ? と花珠保と仲良く考える。そこに一志が割って入って、
「そこっ、おやじ、セクハラっ」
父親はのほほん、と。
「一志にちゅーしてもらったのも、いつだったかなあ」
「気色の悪いことゆーなっ。するわけないだろっ」
「あら、してたわよ」
なんなら証拠見せようか? と母親が一本のビデオテープを手に取る。
「見る?」
「見るかっ!」
一志は一目散に自分の部屋まで逃げ込んだ。しょうがないなあ、と花珠保は一志のコップを持って、一志の部屋をノックした。
「なんだよっ」
「ココア、いらないの?」
「いるっ。けど」
「けど?」
ドアを開けた一志は、でも、コップを受け取らずに。
「……ねーちゃんの部屋で、飲む」
「……うん」
「いっとくけど、宿題、やるわけじゃない、から」
「……う、ん」
「ココアより、ねーちゃんが、いー」
ココアに口をつけるより、先に。相手のくちびるに、口を、つけた。
(……長っ。適当に書き始めたら、オチが……。
甘々を目指してみましたが、なんとなく、ココアの甘さでごまかしたような気もします。甘々に完敗。わたしの背中をとび蹴りされそうな気がしないこともない3月1日の夜でした)
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