〜 エピローグ 雪の歌 〜




 教会の隣に、鐘守りを仰せつかる屋敷が建っている。西の棟の、二階の奥から二つ目の扉がランプに照らし出された。
 その扉を、どかんと遠慮なく力一杯思い切り蹴飛ばすものがいた。
面倒くさげな顔をしたユキナリが顔を出す。
乱暴な訪問者は、カヅカ以外の誰でもない。カヅカはユキナリの顔を覗き込むと、気に入らなげに腰に手を当てた。
「おまえ、その顔は地なの? それとももしかして本当に面倒くさいと思っているの?」
「地じゃないんですか、……たぶん」
 どうも地ではない様子だが、あらそう、とカヅカはそれ以上気にしない。肩に掛けたショールを抱きしめて、小さく身震いした。
「寒いんだから、早く中に入れなさい」
「ご自分の部屋のほうが暖かいでしょう」
「おまえの部屋のほうが、ここから近いでしょう!?」
 カヅカは喚くと、ランプと一枚のチラシを押しつけて、廊下の窓を見返った。
「見て、初雪よ。明日の朝には積もってるわ。ナーナにとっても、初雪になるわ。喜ぶ姿が目に浮かぶわね」
 ユキナリはチラシに目を通す。
『ゆきうさぎを作る会』
 とあった。日付は明日、場所は森になっている。
 ユキナリは少し考えて、
「明日は、次の街の神女神になるかもしれない巫女たちが入寮してくる日ですが?」
「連れていけばいいじゃない。その子たちも、おじじさまたちの長談議を聞いてるよりは楽しいわよ。どうせ、一度は森へ出向かせなければならないのだし」
「そうですか」
 ユキナリは、逆らうまい、という顔をする。
 とにかく中に入れなさい、とカヅカは無理矢理ユキナリの部屋に入り込む。強引に入り込まれてしまって、ユキナリは吐息した。閉めようとした扉の隙間から見た窓の景色には、ふわふわの雪がふわふわと落ちては積もっていく。寒いはずだ。そんなことを思いながら、ユキナリは扉を閉めた。



 森に、雪が降る。 
 壁のなくなった森は、静かに落ちてくる雪を静かに受け止める。今は森に住むふたりの手が、落ちてくる雪を受けとめる。
 森にはたくさんの人々がやって来るようになっていて、人々はふたりのゆきうさぎを真似て作っては満足そうに笑い合った。
 雪の降る森にはいつでも、たくさんのゆきうさぎと笑顔が並ぶようになった。
 ゆきうさぎは日向に置かれてきらきら光る。
 ふたりは嬉しそうに顔を見合わせる。
 それはこの先もずっと変わらない、冬の森の光景になった。
 ずっとずっと。
 来年の冬も、その次の冬も、ずっとずっと。



〜 おわり 〜