** コメント(「サカエカッコイイ♪」というコメントを頂いて)**
見た目もかっこよくなった(かもしれない)数年後を想像した場合
「想像って言うか、もう見た目だと兄さんの姿を追いかけるみたいに大きくなってくんだよ。ねえ、ユイちゃんもそう思うよね? え? 兄さんは兄さんで、ぼくはぼく? そうだけど、それはそうだけど。ユイちゃんはぼくがこのまま小さくてもいいって? ……そう、だけど、見た目じゃないけど、そんなことはわかってるけど、大きくはなりたい、よ。なんでじゃなくて、なりたいよ。だ、から、なんで? じゃなくて、どうして? じゃなくて、ちょっと、ねえ、兄さん、笑ってないで助けてよ」
数年後を想像する必要がない場合
「は? ユイといっつも一緒に帰ってるヤツ? 弟、オレの弟だって言ってるだろ。なんだよ、知らねえって、身長いくつって、知らねえ。ユイよりちっせえことしか……そんなの見りゃわかるだろ。は? 年下萌えって、なんだそりゃ。……つか、うるせえ、クラスの女子うるせえ。サカエのほうが小さいくせにオレより賢そうに見えるって、めちゃめちゃよけーなお世話だ、おまえらうるせえっ」
** 繋ぐ手 **
ユイの友人たちは雑誌のページに目をとめたまま楽しそうに笑った。
並んで歩くユイは、なにがおかしいの? と言う顔をする。なんでもないよ、と答えるのは別に意地悪じゃない。
学校帰りに、ユイは目ざとくサカエを見つけて駆け出す。いつもサカエを見つけられるわけじゃない。高校生と中学生では帰る時間がなかなか一緒になることはない。それでもたまに、こうして一緒になる。
「サカエくんサカエくん、おかえりなさい」
呼ばれて振り返って、ユイを見上げるサカエの首の角度はなかなか変わることはない、けれど。
「ユイちゃんも、おかえり」
「うん、あのね、今日、調理実習でね、かぼちゃのクッキー焼いたの」
「上手にできた?」
「おいしかったよ。サカエくんとリュウくんの分もあるよ」
サカエはありがとう、と嬉しそうに笑って、
「兄さんは甘いの食べないから、帰ったらふたりで、食べちゃおうよ」
「あんまり甘くないよ? あのね、みんなダイエット中なんだって」
ユイが友人たちを振り返る。サカエも振り返って、ちょこんと頭を下げた。友人たちはひらひらと手を振って応えて、また雑誌を見て笑う。
サカエはなんとなく、あの雑誌なんだろう、と気にしながら、それよりも、ゆっくり歩くユイを気にかける。気が付けば、自然に手を繋いで、ゆっくり歩く。
友人たちは議論を始める。
「どっち? 今、どっちから手、繋いだ?」
「なんとなく、サカエくん?」
「え、ユイじゃなかった?」
「振り返ってかわいく笑ったふたりに気を取られてるうちに繋がれた、ような気がする……」
「あー、でもこころなしサカエくんから、だったかなあ」
「かなあ」
友人たちは雑誌を覗き込む。
雑誌には、街で見かけたかわいいカップル特集に、ユイとサカエの後姿が載っている。後姿なので、知っている人にしかユイとサカエだとはわからない。多分「かわいい」は主にサカエの身長にかかっているのでサカエには見せられない。だからこっそり雑誌を見る。
ふたりの写真につけられた見出しは簡単なものだった。
でも、友人たちには気になるひとことだった。見れば多分、サカエも気にするだろう。
友人たちは、雑誌の写真と、実際のふたりの後姿を見ながら、いつか、ユイから手を繋ぐ日が来ることを想像して、笑った。
雑誌の見出しは、なんでもないひとこと。
『街で見かけたかわいいカップル。手を繋いだのは、どっちから?』
** サンタさん **
ユイ「サカエくんサカエくん、サンタさんになにをおねがいしたの?」
サカエ「新しいパソコン」
ユイ「そうなの? すごいね、サンタさん、力持ちだね。ぎっくり腰にならないといいね」
サカエ「ユイちゃんて……優しいね」
リュウ「……(そうじゃないだろ、と心の中で突っ込み中)」
ユイ「リュウくんは? なにお願いしてるの?」
リュウ「バイク」
ユイ「エントツ通るかな?」
リュウ「エントツないし」
ユイ「靴下に入るかな?」
リュウ「……さあなあ」
サカエ「(台所にいる母親に)あのさ、ユイちゃんつかってプレゼント改めさせようとするのやめてよ」
(……ということで、サカエのプレゼントは電子辞書で、リュウは自転車になったらしいお母さん家計大助かりのクリスマスでした。)
** ユイはサカエらぶ? **
サカエ「……サカエらぶ……。ら、らぶ?(とユイに聞いてみる)」
ユイ「(きょとんとして)らぶ?」
リュウ「……オレ的には、まるっきり意味のわかってないとんちんかんなユイより、らぶ、とかひらがなで喋ってるサカエが涙を誘う(ほどかわいい、とか思ってる兄バカ(かもしれない))」
ユイ「わかってるよ? らぶ……は、愛してる、だよ?」
サカエ「って、なんでそれで兄さんが赤くなってるのっ」
リュウ「いや、直球で来た」
サカエ「別に兄さんに投げた言葉じゃないから」
リュウ「お前にも投げてねーだろ。単に、言葉を訳しただけじゃん。おっまえ、愛されてねぇなぁ」
サカエ「………………(落ち込んだ)」
リュウ「(落ち込みっぷりに慌てて)でもほらあれだ、おまえ、でかくはなるらしーぞ」
サカエ「そんなのうちの家系見てればわかるよ。あと二年か三年もしたら……」
リュウ「二年か三年かあ(遠い目)」
サカエ「なに、その含んだ言い方は」
リュウ「果たして、この世界でそのたかが二年か三年の時が進むか進まないかといえばどちらかといえば……(進まないに5000点)」
サカエ「……どの世界?」
リュウ「この世界」
サカエ「………………じゃあ『ユイちゃんを幸せにしてあげてね』というリクエストにはどう答えれば?」
リュウ「お前の幸、不幸はともかく、ユイはいつでもどこでも幸せそうだけどな(といってユイを指差す)」
ユイ「サカエくん、サカエくん、らぶのつづりはLからだよね? Rじゃないよね?」
サカエ「うん、そう、Lからで」
ユイ「テスト出る? あ、意味はね……(この後延々と辞書を引き続けて、いつの間にかお勉強会に突入。情緒がない、情緒が、とリュウが思ったり思わなかったり)」
** ユイに乾杯! **
ユイ「かんぱーい」
リュウ「いや、メシの時間じゃないから。しかもなんで湯飲み」
サカエ「未成年だから?」
ユイ「抹茶入り玄米茶だから」
サカエ「渋いチョイスだね……おいしい?」
リュウ「おい、なんかおふくろが紅茶でも入れてやろーかーっつってんだけど」
ユイ「紅茶……ジャム入れていい?」
リュウ「じゃむ……? パンでも食うのか?」
ユイ「あんまりつぶれてないイチゴとかアンズとかが、おいしいよ?」
リュウ「は? 紅茶にいれんのかよ!?」
サカエ「甘いの好きだよね、ほんとに」
リュウ「オレ、パン食お」
ユイ「リュウくんもジャム?」
リュウ「いらねーっての」
ユイ「じゃあサカエくんはオレンジのジャム? ブルーベリーもあったよ? あと リンゴとパイナップルと……」
サカエ「……どこに?」
ユイ「おばさんの冷蔵庫の中」
サカエ「いつの間にそんな、ジャム博覧会みたいになってんの」
ユイ「ジャム嫌い? あ、じゃあ、ハチミツにする? おすすめはね、パンにはほ んとはね、イチゴのジャムとマーガリンを一緒にするのがおいしいと思うんだけど ね。ああっ」
サカエ「どうしたの?」
ユイ「メープルシロップは紅茶に入れてもおいしいと思う?」
サカエ「……甘いのとくどいので気持ち悪くなってきた」
リュウ「もういいからおまえ、おとなしく抹茶玄米茶飲んでろ」
(その後の彼らは、なんのかんのと仲良しな気がします)
** ユイ高校生活 **
リュウ「は? ユイ? そういやあ、記録更新したとかって、女子が騒いでたけど」
サカエ「なんの記録更新?」
リュウ「一週間の告られ記録。今週だけで四人」
サカエ「……日替わりってこと?」
リュウ「日替わりにはひとり足んねーじゃん。あ、おまえ入れてちょーど五人てか?」
サカエ「なんかそれ、不愉快なんだけど」
リュウ「おお、悪ぃ、悪ぃ。オマエは土日祝日も担当だよな」
サカエ「うわ、ますます不愉快……」
** 兄弟の苦労 **
リュウ「ああ? オレの苦労は高校卒業までだろ。あとはサカエがメンドー見ろっての」
サカエ「別に面倒見るつもりとか、そんなこと思ってないけど」
リュウ「いや、見ろよ。放置すんな。あいつガッコーでもふらふらふわふわ。いつでもにこにこ愛想ばっか振りまきやがって、幸いにも見た目は合格点の自分に気付いてないだろ。やっぱバカだろ、危機感ねーだろ」
サカエ「それは別に、兄さんがいるから安心してるんじゃないの?」
リュウ「はあ!? ふざけんな。なに勝手に安心とかしんてんだよ」
サカエ「だって基本的にユイちゃんて別に兄さんのこと嫌いじゃないし」
リュウ「ああ!?」
サカエ「ていうか、すごく基本的に、別に誰でも大好きだし。でもほら兄さんはさ、すごく基本的にはぼくとかユイちゃんとかしか好きじゃないでしょ?」
リュウ「……は?」
サカエ「うん、まあ、だからね、兄さんの苦労は続くのかもね」
リュウ「………………は?」
** リュウへ いいんちょ苛めたら駄目だぞ **
サカエ「で、どうなってるの?」
リュウ「……(ノーコメント)」
ユイ「最近らぶらぶ」
リュウ「ばっ、おまえっ、よけーなこと言ってんなっ!」
サカエ「……らぶらぶ?(怪訝そうに、想像付かない感じに)」
真相はいかに。
** 将来 **
サカエ「将来……そうだね、早いとこひとり立ちして、それでなんの気兼ねもなくユイちゃんと暮らせたらいいなと思ってるよ」
リュウ「おまえ、そりゃ何年後くらいの計画だよ」
サカエ「大学入るのと同時くらいに事業起こせたらいいけどね。あと六年くらい?」
リュウ「もーっちょっとコドモらしー発言しろや」
サカエ「いつまでも子供でいられないよ」
リュウ「ほー、じゃーこの間できたテーマパークのチケット母さんが新聞屋からもらったつってくれたけど、おまえ、いらねーの?」
サカエ「…………いる」
** のぞみ **
サカエ「ぼくたち、どんな大人になろうかなあ?」
リュウ「なるのかなあ? じゃねーのか……」
サカエ「なんで? なるのかなあ、なんて時間に流されてるみたいな生き方する気ないよ。望んだものに、なる、んだよ。それで幸せになるんじゃないの? え、みんなそう思って生きてるんじゃないの?」
リュウ「……さあ、どーだろーな……」
** 口止め **
サカエ「それで兄さん、その後もユイちゃんのリボンほどいてるの?」
リュウ「なんでオレに聞くんだよ」
サカエ「だってユイちゃん、言わないんだもん。兄さんが口止めしてるんでしょ」
リュウ「別に口止めなんてしてねーっての」
サカエ「そうなの? じゃあユイちゃんが自分で決めて黙ってるんだね?」
リュウ「おまえがオレにうるさく言うからだろ」
サカエ「そっか、ユイちゃん、委員長さんと兄さんが上手く行くといいな、と思って、ちゃんと自分で決めて自分で黙ってるんだ。ぼくが口出すと、兄さん、委員長さんと喋る口実なくすもんね。うわ、すごいね」
リュウ「……すごいか?」
サカエ「だって、ちゃんとほんとに自分で決めてるんだよ。あのユイちゃんが。じゃあ、まあ、いいや、兄さんせっかくだから頑張んなよ。ユイちゃんのために」
リュウ「ユイのためかよ!?」
** その後 **
サカエ「……ちょっと兄さん、ユイちゃんの髪のリボン、目に付くたびにほどくのやめてよね」
リュウ「てゆーか、今どき髪にリボンとか結ばねーだろ」
サカエ「(きっぱり躊躇いなく)かわいいからいいじゃん」
リュウ「……おまえ性格変わってねぇ?」
サカエ「別に。あ、それより、兄さんがリボンほどくたびに結び直してくれてるらしいユイちゃんのクラスの委員長さん、気さくで頭よくて美人なんだってね」
リュウ「……だからなんだよ」
サカエ「べっつに、ユイちゃんがそう言ってただけ。『リュウ君とも仲良しなんだよ』だって。ふーん、仲良しなんだ」
リュウ「……」
サカエ「兄さん、さり気に人を見る目あるんだよね。でもユイちゃんをエサにしてる辺りが、兄さんらしいんだけど、まあ、頑張って。あんまりユイちゃんには迷惑かけないでね」
リュウ「………………」
** サカエほめられる(コメントで色々ほめてもらいました) **
ユイ「すごいねえ、サカエくんもてもてだねえ」
サカエ「……そうだね。どうもありがとう」
ユイ「あれ? ちょっと不機嫌だね?」
サカエ「……そう?」
ユイ「なんかあったの?」
サカエ「……別に(と言いつつ)、ぼく別にユイちゃん以外にもてもてでもさあ……」
ユイ「あ! わたし、この間の期末テスト、赤点だらけだったの、怒ってる?」
サカエ「(そーじゃなくて、と思いつつ)それは追試が通ればいい話だし。追試の方が簡単だったりするから実はそっち狙いだし。大丈夫だよ……じゃなくて」
ユイ「じゃなくて?」
サカエ「高校でユイちゃん人気ある自覚ある? ぼく、そういうのすごく心中穏やかじゃないんだけど。ユイちゃんは違うの?」
ユイ「みんながサカエくん好きで嬉しいよ?」
サカエ「あ、そう」
ユイ「わたしもサカエくんが好きだよ?」
サカエ「……ふーん」
リュウ「お、なんだサカエ、おまえ、顔赤いじゃん」
サカエ「って、兄さん、変なとこから突っ込み入れるのやめてくれる!?」
** 兄さんは **
サカエ「兄さんてさ、ぼくたちが笑ってればそれが幸せな人だったりするよね、けっこう」
リュウ「……アホか」
サカエ「うん、兄さん、アホだよね。例えばさ、気持ち的にもホントにユイちゃんが兄さんのものだったとしても、ぼくがちょうだいって言ったら、くれたよね」
リュウ「……はあ!?」
サカエ「うん、なんか、そーゆう人だよね。色々ごちゃごちゃするの面倒だもんね。でも面倒の真ん中にいるのはヤでもさ、面倒の外側で面倒見てるのは好きなんだよね、意外と。そーゆうとこ、お兄ちゃんだなあ、って思うよ」
ユイ「ねー、おにーちゃんだよね」
リュウ「だーから、なんでおまえのおにーちゃんなんだよ」
ユイ「えー、わたしね、小さい頃はね、リュウくん、わたしのおにーちゃんだと思ってたよ?」
リュウ「……(そういやあなんだか、チビのサカエと一緒にユイの面倒も見てたよなあ、とか思い出してたり)」
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