私と兄さんの世界は狭い。
もし、宮澤さんと創ったセカイだったら、あのとき、私を無理矢理犯したのが宮澤さんだったら。
『コトコが欲しいんだ……』
その感情は正常だった。
正常なセカイで私は、宮澤さんを受け入れるのも拒絶するのも自由だった。例えば、受け入れたセカイは、でも、永遠に続かないことを知ってる。些細な喧嘩や、気持ちのすれ違いで、壊れるセカイ。
『ごめん、でも……コトコ』
でも。
からだにねじ込まれた熱さは、兄さんだった。
宮澤さんじゃなくて、兄さん、だった。
……ねえ、兄さん。一生許さない。
決して交わることのないからだがひとつになった。
『いや……いやだ。ね……タケちゃん……?』
『嫌がっても、ごめん、やめられない』
中学の卒業式の日、三年間着た制服を兄さんが無理矢理……っ。
『い……あ、いやあ!』
大きく足をひらかれて。
腕を押さえつけられて。
感じるのは痛みばかりだった。
からだも、心も、痛みばかり。
だけど今は。
今は……。
壊れないセカイに、しがみつく。
ここはふたりだけで、誰も入ってこられないから、壊れない。
ねえ、壊れないでしょ?
今までも壊れなかった。
壊れなくて、出られなくて、閉じ込められたままだった。
そのセカイで、兄さんしか見てなかった。
兄さん、だけ。
ねえ、私をこんなふうにした兄さんを、許さない。
「……私も、兄さんしか好きじゃない」
私の中に残ったままだった兄さんの指、私から離れていくのを見ながら。ふらつく足で立ち上がって、ジーパン、脱いだ。自分で脱いだ。
服……邪魔……。
兄さんの服も、邪魔。
立ち上がった私、座ったままの兄さん、上から眺めて、キス、した。落とした唇、兄さんに奪われる。逃げようとしたら、下唇、優しく噛まれて、そのまま捕まる。
「ん……」
正常とか異常とか、道徳がどうとか、もういい。
このセカイでは、どうでもいい。
ねえ、いいよね?
「私だって、触りたかった」
兄さんの、裸になった胸元に唇、寄せた。
「兄さんに、触りたかった」
そうしながら、どうして私、泣いてるのか、わからないまま。
「触りたくて……触れなくて、だから兄さんの声、思い出して、してた」
自分で、してた。
「いつも?」
「ん……いつも」
「おまえを濡らすのは、僕?」
「ん……」
「そう」
嬉しそうに、無邪気に笑った兄さん、かわいかった。
かわいくて、涙、溢れた。
「おまえは、泣くんだね」
兄さんは、笑うのに。
「だ、って……っ」
嗚咽、喉に詰まった。
伸ばした腕で、兄さんの首元、抱きついた。
「コトコ……」
ちょっと待った、って兄さんの声、そのまま、床に押し倒した。
私、兄さんを上から見る。
「僕がされるの?」
「いや?」
「……じゃない、けど」
したい、かな。って呟いたの、
「……ダメ」
私、兄さんを跨いで、肌を、なぞった。
「させてあげない。……あのときめちゃめちゃにされた分、今度は私が、するの」
兄さんが私にしたように、私が、兄さんのベルト、はずす。
「兄さんが、好きなの」
「僕も好きだよ」
「……もっと言って」
「好きだよ」
「もっと」
「好きだよ」
囁く声、聞きながら、兄さんのベルト、外した場所から兄さんを触った。
「……っ」
私の感触に、兄さんが感じる。
「……ダメ。もっと好きって言って」
「……コトコ……」
「好き?」
「好きだよ」
「どれくらい?」
聞いたら、兄さん、私の手の感触、感じたくて伏せてた眼差し、上げた。
目が合って、微笑む。
微笑んだのは、兄さん。
「……おいで」
兄さんの手、私の腰、支えた。支えながら自分を押し当てる。
「……ぁ」
「おいで、もう我慢できない」
「や……っ」
腰、兄さんの上、落ちてくの、抵抗したら、
「僕をじらしたいの?」
「違……っ。だ……って」
「だって?」
「これは、夢……じゃない?」
ずっと見てた夢じゃない?
「……現実だよ」
夢みたいな現実。
ありえるわけのない行為。
「コトコ」
兄さんは私を支えたまま、上半身を起こした。そうして私を抱き締めたのは、
「僕も恐いよ」
私が、震えてたから。
「おまえがまだ僕を許してなくて、だからこうして今、腕の中にいて、……幸福で目が眩む」
おまえはなにが恐い? と聞かれて、
「僕が、恐い?」
私、兄さんの腕、掴んだ。
兄さんが……恐い。
恐くない。
この幸福は、どっち?
答えられなくて。
答えたくても、頭、上手く回らなくて。
まだ入ってこない、でも押し付けられたままの兄さんが、欲しくて。
欲しくて、欲しくて、溢れてきた蜜に、腰、揺らしたの、兄さん、
「ああ、たまらないね」
そんな、言葉通りの表情で、私、見ながら。
「僕はおまえに痛みしか教えなかった」
無理矢理抱いた。からだにも、心にも、痛みばかり教えられた。
「おまえに悦びを教えた男に、嫉妬するよ」
「兄さ……」
「気が、狂いそうだよ」
私を、支えていた手を……。
「ああっ……!」
手で、腰を引き寄せられて、溢れるほど濡れていた私は、一気に兄さんを飲み込んだ。
「あ、あぁ……はぁ……」
からだが、躊躇う暇もなく兄さんでいっぱいになった。
座り込む兄さんに、私、跨いで座り込んで、しがみつく。
「コトコ、……コトコ」
押し広げられたソコ、全部が兄さんで、指なんかよりもっと奥で、もっと、太くて……気持ち……が……。
「んっっ……んんっ……!」
兄さんに入り込まれただけで、気が、狂いそうなのに。
「コトコ、動いて」
「あ……や、ん」
……そんなことしたら。
「やぁ……っ」
おかしくなっちゃう。
私、頭、振る。
やだ、いや、動けない。
兄さん、おかしそうに、
「いやなの? 僕はこんなにいいのに」
少しも、自分で動く気、ない顔で。
「もっとよくして」
「……ん、兄……っ」
「なに? コトコがしてくれるんだろう?」
兄さん、唇、子供にするみたいに私の額に、押し付けた。
「して……」
「……っぁ……っ」
私、それだけで。
兄さんが、ほんの少し、動いただけで……。
兄さんの腕、掴んでた手に力、込める。
「だ……めぇ……」
「なにがダメ?」
「ん……、い、……ちゃう」
爪、食い込むくらい、力、入れてないと。
からだ、熱くて。
兄さんが、中で、熱くて。
「兄さ……じっと、して、て……」
「おまえ、入れただけでイっちゃうの?」
囁くみたいに笑って、
「まだダメだよ」
「や……。いって、いい……?」
イかせて。
もう一回、イかせて……。
めまい、してくる……のに。
「おまえばっかり、だめだよ。ずるいよ。僕もイかせて」
兄さんの手の平、私の胸、包んだ。肌、確かめるように撫でる。
「や……ん」
「感じる?」
「ん……っ」
「ああ、感じてるね」
兄さんが私に触るたびに私が感じて、そのたびに兄さんを、私が締め付ける。
「僕も感じてる。でも、もっと感じさせて」
コトコ、と耳元で呼んで。
「動いて。……頼むから」
私、息、細く、吸い込んだ。
「……あぁ…………」
くらくら、する。
気が、狂う前に、遠くなりそう。
酸素、足りない。
空気より、兄さんが、いっぱいで。
たまらない。
でも、
いっちゃダメって、言うから。
兄さんが、言うから。
……イけない……。
私、兄さんの頭抱えて、キス、した。
「…………んっ……っ。いじ、悪ぅ」
兄さん、自分からは舌も絡めてくれない。
「や……出、して」
「なにを?」
「……舌……」
兄さん、笑いながら、はいどうぞって出した舌に、私、吸い付いた。そのまま、キス、しながら、腰、浮かせた。
兄さんの頭、さらに抱えて、ぶら下がるみたいに。
ずる、って、そのまま、兄さんが少しずつ抜けていくの、音で聞きながら、
「あ、あ…………んんっ」
力、入らない膝で私、自分、支える。そうしていると、兄さん、キスの合間に、
「コトコ……」
もう、いいよ、って。私の肩、押した。
「あっ! ……いやあ、だめっ……!」
膝の力、兄さんに負けて、かくん、って、その勢いで私、兄さんの上に落ちた。一気に……全部……。
「あ、ん!」
息、止まるかと思った。勢いで吐き出した息、吸い込むのと一緒に、兄さんがキス、してきた。
「おまえにめちゃめちゃにされるの待ってたら、みんなが帰ってきちゃうよ」
それまでのキスと全然違った。乱暴に口の中、吸われた。
みんな、という言葉に、私、我に返る。でも、兄さん、その言葉で私が我に返るの、わかってたみたいに、わざと、言ったみたいに。
「だめだよ。逃がさない」
逃がさない。
「一生、永遠に、逃がさない」
今まで動かなかったの、もう、我慢できないみたいに。
唇も、ソコも、深く繋がりあったまま、兄さんは私を突き上げた。