〜 セカイ 5 〜



 私と兄さんの世界は狭い。
 もし、宮澤さんと創ったセカイだったら、あのとき、私を無理矢理犯したのが宮澤さんだったら。
『コトコが欲しいんだ……』
 その感情は正常だった。
 正常なセカイで私は、宮澤さんを受け入れるのも拒絶するのも自由だった。例えば、受け入れたセカイは、でも、永遠に続かないことを知ってる。些細な喧嘩や、気持ちのすれ違いで、壊れるセカイ。
『ごめん、でも……コトコ』
 でも。
 からだにねじ込まれた熱さは、兄さんだった。
 宮澤さんじゃなくて、兄さん、だった。
 ……ねえ、兄さん。一生許さない。
 決して交わることのないからだがひとつになった。
『いや……いやだ。ね……タケちゃん……?』
『嫌がっても、ごめん、やめられない』
 中学の卒業式の日、三年間着た制服を兄さんが無理矢理……っ。
『い……あ、いやあ!』
 大きく足をひらかれて。
 腕を押さえつけられて。
 感じるのは痛みばかりだった。
 からだも、心も、痛みばかり。
 だけど今は。
 今は……。
 壊れないセカイに、しがみつく。
 ここはふたりだけで、誰も入ってこられないから、壊れない。
 ねえ、壊れないでしょ?
 今までも壊れなかった。
 壊れなくて、出られなくて、閉じ込められたままだった。
 そのセカイで、兄さんしか見てなかった。
 兄さん、だけ。
 ねえ、私をこんなふうにした兄さんを、許さない。
「……私も、兄さんしか好きじゃない」
 私の中に残ったままだった兄さんの指、私から離れていくのを見ながら。ふらつく足で立ち上がって、ジーパン、脱いだ。自分で脱いだ。
 服……邪魔……。
 兄さんの服も、邪魔。
 立ち上がった私、座ったままの兄さん、上から眺めて、キス、した。落とした唇、兄さんに奪われる。逃げようとしたら、下唇、優しく噛まれて、そのまま捕まる。
「ん……」
 正常とか異常とか、道徳がどうとか、もういい。
 このセカイでは、どうでもいい。
 ねえ、いいよね?
「私だって、触りたかった」
 兄さんの、裸になった胸元に唇、寄せた。
「兄さんに、触りたかった」
 そうしながら、どうして私、泣いてるのか、わからないまま。
「触りたくて……触れなくて、だから兄さんの声、思い出して、してた」
 自分で、してた。
「いつも?」
「ん……いつも」
「おまえを濡らすのは、僕?」
「ん……」
「そう」
 嬉しそうに、無邪気に笑った兄さん、かわいかった。
 かわいくて、涙、溢れた。
「おまえは、泣くんだね」
 兄さんは、笑うのに。
「だ、って……っ」
 嗚咽、喉に詰まった。
 伸ばした腕で、兄さんの首元、抱きついた。
「コトコ……」
 ちょっと待った、って兄さんの声、そのまま、床に押し倒した。
 私、兄さんを上から見る。
「僕がされるの?」
「いや?」
「……じゃない、けど」
 したい、かな。って呟いたの、
「……ダメ」
 私、兄さんを跨いで、肌を、なぞった。
「させてあげない。……あのときめちゃめちゃにされた分、今度は私が、するの」
 兄さんが私にしたように、私が、兄さんのベルト、はずす。
「兄さんが、好きなの」
「僕も好きだよ」
「……もっと言って」
「好きだよ」
「もっと」
「好きだよ」
 囁く声、聞きながら、兄さんのベルト、外した場所から兄さんを触った。
「……っ」
 私の感触に、兄さんが感じる。
「……ダメ。もっと好きって言って」
「……コトコ……」
「好き?」
「好きだよ」
「どれくらい?」
 聞いたら、兄さん、私の手の感触、感じたくて伏せてた眼差し、上げた。
 目が合って、微笑む。
 微笑んだのは、兄さん。
「……おいで」
 兄さんの手、私の腰、支えた。支えながら自分を押し当てる。
「……ぁ」
「おいで、もう我慢できない」
「や……っ」
 腰、兄さんの上、落ちてくの、抵抗したら、
「僕をじらしたいの?」
「違……っ。だ……って」
「だって?」
「これは、夢……じゃない?」
 ずっと見てた夢じゃない?
「……現実だよ」
 夢みたいな現実。
 ありえるわけのない行為。
「コトコ」
 兄さんは私を支えたまま、上半身を起こした。そうして私を抱き締めたのは、
「僕も恐いよ」
 私が、震えてたから。
「おまえがまだ僕を許してなくて、だからこうして今、腕の中にいて、……幸福で目が眩む」
 おまえはなにが恐い? と聞かれて、
「僕が、恐い?」
 私、兄さんの腕、掴んだ。
 兄さんが……恐い。
 恐くない。
 この幸福は、どっち?
 答えられなくて。
 答えたくても、頭、上手く回らなくて。
 まだ入ってこない、でも押し付けられたままの兄さんが、欲しくて。
 欲しくて、欲しくて、溢れてきた蜜に、腰、揺らしたの、兄さん、
「ああ、たまらないね」
 そんな、言葉通りの表情で、私、見ながら。
「僕はおまえに痛みしか教えなかった」
 無理矢理抱いた。からだにも、心にも、痛みばかり教えられた。
「おまえに悦びを教えた男に、嫉妬するよ」
「兄さ……」
「気が、狂いそうだよ」
 私を、支えていた手を……。
「ああっ……!」
 手で、腰を引き寄せられて、溢れるほど濡れていた私は、一気に兄さんを飲み込んだ。
「あ、あぁ……はぁ……」
 からだが、躊躇う暇もなく兄さんでいっぱいになった。
 座り込む兄さんに、私、跨いで座り込んで、しがみつく。
「コトコ、……コトコ」
 押し広げられたソコ、全部が兄さんで、指なんかよりもっと奥で、もっと、太くて……気持ち……が……。
「んっっ……んんっ……!」
 兄さんに入り込まれただけで、気が、狂いそうなのに。
「コトコ、動いて」
「あ……や、ん」
 ……そんなことしたら。
「やぁ……っ」
 おかしくなっちゃう。
 私、頭、振る。
 やだ、いや、動けない。
 兄さん、おかしそうに、
「いやなの? 僕はこんなにいいのに」
 少しも、自分で動く気、ない顔で。
「もっとよくして」
「……ん、兄……っ」
「なに? コトコがしてくれるんだろう?」
 兄さん、唇、子供にするみたいに私の額に、押し付けた。
「して……」
「……っぁ……っ」
 私、それだけで。
 兄さんが、ほんの少し、動いただけで……。
 兄さんの腕、掴んでた手に力、込める。
「だ……めぇ……」
「なにがダメ?」
「ん……、い、……ちゃう」
 爪、食い込むくらい、力、入れてないと。
 からだ、熱くて。
 兄さんが、中で、熱くて。
「兄さ……じっと、して、て……」
「おまえ、入れただけでイっちゃうの?」
 囁くみたいに笑って、
「まだダメだよ」
「や……。いって、いい……?」
 イかせて。
 もう一回、イかせて……。
 めまい、してくる……のに。
「おまえばっかり、だめだよ。ずるいよ。僕もイかせて」
 兄さんの手の平、私の胸、包んだ。肌、確かめるように撫でる。
「や……ん」
「感じる?」
「ん……っ」
「ああ、感じてるね」
 兄さんが私に触るたびに私が感じて、そのたびに兄さんを、私が締め付ける。
「僕も感じてる。でも、もっと感じさせて」
 コトコ、と耳元で呼んで。
「動いて。……頼むから」
 私、息、細く、吸い込んだ。
「……あぁ…………」
 くらくら、する。
 気が、狂う前に、遠くなりそう。
 酸素、足りない。
 空気より、兄さんが、いっぱいで。
 たまらない。
 でも、
 いっちゃダメって、言うから。
 兄さんが、言うから。
 ……イけない……。
 私、兄さんの頭抱えて、キス、した。
「…………んっ……っ。いじ、悪ぅ」
 兄さん、自分からは舌も絡めてくれない。
「や……出、して」
「なにを?」
「……舌……」
 兄さん、笑いながら、はいどうぞって出した舌に、私、吸い付いた。そのまま、キス、しながら、腰、浮かせた。
 兄さんの頭、さらに抱えて、ぶら下がるみたいに。
 ずる、って、そのまま、兄さんが少しずつ抜けていくの、音で聞きながら、
「あ、あ…………んんっ」
 力、入らない膝で私、自分、支える。そうしていると、兄さん、キスの合間に、
「コトコ……」
 もう、いいよ、って。私の肩、押した。
「あっ! ……いやあ、だめっ……!」
 膝の力、兄さんに負けて、かくん、って、その勢いで私、兄さんの上に落ちた。一気に……全部……。
「あ、ん!」
 息、止まるかと思った。勢いで吐き出した息、吸い込むのと一緒に、兄さんがキス、してきた。
「おまえにめちゃめちゃにされるの待ってたら、みんなが帰ってきちゃうよ」
 それまでのキスと全然違った。乱暴に口の中、吸われた。
 みんな、という言葉に、私、我に返る。でも、兄さん、その言葉で私が我に返るの、わかってたみたいに、わざと、言ったみたいに。
「だめだよ。逃がさない」
 逃がさない。
「一生、永遠に、逃がさない」
 今まで動かなかったの、もう、我慢できないみたいに。
 唇も、ソコも、深く繋がりあったまま、兄さんは私を突き上げた。


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