そうやって抱きついてたら、
「みー……」
キイ兄、ちょっと、辛そうな感じで、でもわざと怒ってるみたいに言った。
「離せよ」
って言うから、
「キイ兄だよ」
って、言ってみた。
なにが? って顔するキイ兄に、携帯の画面、見せた。太一からのメール。
「は?」
そんな、なに言ってんのおまえ、みたいな顔するから、
「だからっ!」
うわあ、あたし、またきっと顔、赤いよ。ええい、もう!
「避妊! しなくちゃいけないの、キイ兄だからね、ってことじゃん!」
「はあ……」
なんかもー、キイ兄、さっぱり要領を得ない顔で、
「おれが?」
「そう!」
「……太一相手に?」
「ちっがーう!!」
今、なんかすごいこと想像ししゃったよ、ほんとに!
「たたたたた太一はさあ、違うんだよ、だからそーじゃなくて」
あたし、思わず、首筋触った。
「あのね、違うんだけど、でもなんかきっと思惑通りなんだよ。そんで、帰ったら『やっぱりだったろ』とか言うんだよ」
「やっぱり、って?」
ああ、もう、なんか、真面目にトボけてんだか、わざとトボけてんだか、知らないし、どーでもいいけど。だってキイ兄、頭いい人だし!
「だから、キイ兄、その気になったじゃん」
キス、したじゃん。
お腹、触ったじゃん。
そーゆうこと、勢いでしちゃう人ならダメダメだけど。そういう人じゃないよね?
「……その気に、なったよね?」
今度はちゃんと、勢いとか、ついうっかりとかじゃなくて、キスした。唇、押し付けただけ、なんだけど。そ、それ以上はどーしたらいいのかわかんなかったんだけど。
「なんで?」
キイ兄、なんだか摩訶不思議な感じで、あたしにキスされちゃいながら、そう呟いた。……あ、その顔。あたしがキイ兄に、シナリオ書くのにこの部屋貸して、って、言ったときにも同じ顔、した。無理矢理に普通の顔、装ってる感じ。
無理矢理? んじゃあ、無理矢理じゃなかったら、ホントはどんな顔?
「なんでって、だから、ス……っ」
きっぱり、言おうと思って、さすがにためらった。だだだだって、いまさらどんな顔してさあ、言えばさあ、いいのかなあ、とか。なにしろ、実はずっとそうだったのに、ずっと忘れてたんだよ。そういうのってどうよ? 普通、忘れないよねえ。でもなんでだか忘れてたんだよねえ。
「あたし、さあ、実は、10才くらい? のころからさあ」
なんか顔、マトモに見れなくて、俯いて、でも、キイ兄はあたしがぎゅってしてるままで、あたしの腕の中にいて。
そんで、手に届くキイ兄がいて、だから、気が付いた。
「あの頃はさ、お正月とかお盆とかが終わっちゃうと、絶対、バイバイしないとダメだったからさ。そういうのヤで」
だから、忘れてた。
「だって、スキなの忘れとかないと、あたし、なんかおかしくなっちゃうんじゃないかってくらい、スキだったんだよ」
それって「あのときの」キイ兄のせいだよ。
ホントにホントに、キイ兄のせい、だよ。
「みーが、10才くらいの、とき?」
確認するみたいに言ったキイ兄、
「……うん」
あたしの返事に、
「……なんだ」
そっか、って。いつも心の底からあたしのこと呆れてたのと同じくらい心の底からって感じで、安心したみたい、だった。
「みー、太一のじゃないんだ」
「ぜんぜんちちちちがうよ。太一、彼女いるもん」
だから、
「キイ兄だけなんだよ」
ぎゅって、しがみついた。
「ほんとにほんとにほんとに、キイ兄だけなんだよ」
すごくすごくすごく……。
「好き……」
だってね、
「あのね」
こんなにスキになった理由ちゃんとあって、話そうと思ったんだけど。
てゆーか、この際話させろ。って感じだったんだけど。
キイ兄、切羽詰まったみたいに、
「後で」
「後……?」
「もー、限界」
キイ兄が、あたしのことぎゅってした。
あー、なんで、こういうこと、嬉しいとか、思うんだろ。
くらくらするくらい嬉しいって、思っちゃうんだろ。
「キイ兄……?」
「んー?」
ぎゅって抱きついてるだけじゃ、親子だってできるよね? 別に、太一とだってできるかよね?
だ、だだだからさ、
「して、よ」
不意に、キイ兄が、あたしぎゅっとするの力、緩めた。ええ、なんで? ダメなの? やだ。
あたし、もーこれ以上できないくらい、さらにぎゅっとした。
「……して、よぉ」
なーんーでーあーたーしーがー必死にーこーんーなーこーとー言ってるーのー。
とか思うんだけど。
「ああああああの、後でちゃんと髪の毛とか、拾うから」
一応、気を使ってみたあたしを、キイ兄、おもしろそうに笑った。
その笑いって、子供扱いの笑い!? そんなにあたしとするのいや!? ってあせったら、あせったのが丸わかりで、さらにおかしいみたいに笑って、キイ兄、
「別に、彼女いないし」
おいで、って、あたし、ベットに誘った。その誘い方とか、なんかスマートで。それって、「今」は彼女がいないってだけで、まあ、つまり、
「慣れてるし……」
思わずぺろって言ったの、キイ兄、別にそんな自分をごまかすわけでもなく、
「永遠にお預けだと思ってた身になってくれ」
「お預け?」
「とりあえず、7年」
キイ兄は指折り数える。7年? それって、
「みーが10才くらい、のときから、7年」
よく我慢したろ? って、自慢げに。
……自慢? え、そーじゃなくて、
「それって、あの、あたしと……」
同じときからって、こと?
「そう」
「さっちゃんとかしーちゃんとか、みどりちゃんのこととかじゃなくて?」
ほかのイトコの子のこと言ってるわけじゃなくて。
『あのとき』から。
「あたしの、こと、を?」
「そう」
うわあ!
「ロリコン!?」
「……言うと思った」
ベットに自分だけ腰掛けたキイ兄、があっくりしながら、ぽつんて立ってたあたしのこと引き寄せた。手、繋いで。それから、ウエストに、両手回して。お腹に、顔、押し付ける。
「やっと、みーが、おれのものになる」
そ……そういう言い方ってさあ……。コッ恥ずかしいのにどきどきするの、なんでだろ。
あたし、キイ兄の髪、撫でた。
「あああああのね……いいいい痛く、しないでね」
「気持ちよく?」
えーろーおーやーじー。
あたし、顔、真っ赤にして、
「こ、この間さ、痛かったんだよ。だからっ」
ガバってキイ兄、顔上げた。
「この間?」
まさかそれも太一が? って、どうにも太一を節操なし男にしたい感じだったから、
「あのね、乳がんの検査受けたときにね、子宮ガンも見てもらってね」
「……その若さでなんでガン検査……」
「えー、だって」
あたし、超売れっ子のシンガーソングライターの名前出した。女の子で、あたしよりひとつふたつ年上なだけで。
「子宮筋腫の手術したじゃん。そんでけっこー検査受けてる子、多いんだよ」
「それで、検診の結果は?」
「あ、健康体そのもの……じゃなくて、えっと、健康じゃなかったわけじゃなくて、だから、さあ。……痛かったんだもん」
「乳ガンのレントゲン検査と?」
「……先生に、子宮の中、直接見られたとき……」
「直接……?」
「そう、赤ちゃん産むときみたいなカッコウさせられて、入口んとこ、こう、ピ、って広げられたんだよ。ピ、って。なんか、えーと、多分、クリップみたいなので。……見てないからわかんないんだけど」
キイ兄、なんて突っ込んでいいかわかんない顔する。
「そのときね、とにかく、こー、経験したことない感じに痛くって、えーと、だから……」
ああああ、しまった。ハジライ? まだ拾ってなかった。
と思ってあせったんだけど、キイ兄、あたし抱いてた手、スカートの中に入れてきた。
「どんなふうに?」
「え?」
キイ兄の手に気を取られてて、返事、適当だった。
「どんなふうに痛かった?」
「えーと……」
思い出そうと、したんだけど。
「みーは、おれのこととか忘れてたくせに、痛いことは覚えてるんだなあ」
するって、下着の中、手、滑り込んできて、いきなりソコ、触ったから。しかも、わざとみたいに、優しくなくて、少しだけ突っ込んだ指、乱暴に動かすから、
「やっ……やだ……」
「だって、痛くしといたら忘れないんだろ」
「いーじーわーるー」
ぐりぐりって、むりやりかき分けるみたいにするから、てゆーか、そうしないと中、入っていかないみたいで、
「やだ、ねえ、キイ……兄……っ」
キイ兄から逃げるの、とりあえず、めいっぱい爪先立ちするくらいしかなくって、バランス悪くって。
「キイ兄……っ」
いやーん、ちかーん、ヘンタイー、ばかー。
でもつい指の動き追っちゃうあたしもなんかヤダー。
「……ね、ってば、キイ兄……てばぁ……っ」
痛いとかは、ないけど、多分キイ兄、本気で痛くするつもりなんてないんだろうけど。あたし、まだほとんどちゃんと制服着てるし、この格好はイヤぁ。
「やだ、……ってばぁ」
って言ってるのに、キイ兄、指だけ執拗に動かすんだよ。そんでもって、
「こういうみーを見られるとは思ってなかったなあ」
「どどどんな……?」
「……みーが、そうやって嫌がって首振ってる姿」
「いやーん、もー、ほんと、ヘンタイーーーーー」
指、それ以上入ってこないように、あたし、キイ兄の肩に置いた手で自分支えて、なんとか、キイ兄に顔だけ近づけて唇押し付けた。そんで、ええい、って、キイ兄そのまま押し倒す。
指、入ってきませんようにって祈ってたんだけど、も少し、入ってきて、
「んっ! やぁ……」
ななななななんか、ぞくってきた。ななななに、これ。
あたし、倒れこんだキイ兄にしがみついた。ぎゅうって、ほんとにどうしようもないくらいぎゅううううってしがみついた。キイ兄、どうでもいいみたいに指抜いて、あたしの背中抱いた。
あたし、キイ兄にしがみついてるその手の、指先、真面目にちょっと震えた。
うわ、うそ、どーしよ。奥歯、噛み締めてないとカチカチいっちゃう。からだ中に力、ぜんぜん入らない感じ。しがみついてないと、気、失っちゃいそうな感じ。
これって、なんか……。
「なに、もうイっちゃうんだ?」
ドクンって、胃が、跳ね上がったみたいな感じ、した。
「みー?」
イクの? って、キイ兄の声、耳のすぐそばで。それがすごく気持ちよくて。鳥肌、たった。
「いいいいいイったことないから、わかんない……」
「わかんないんだ?」
キイ兄、太一がしたのと反対側の首筋舐めてきた。
うわあ。
「だ、だ、だ、だって、初めて、だもん」
と言ってみた。キイ兄、
「そりゃぁ……」
そうだろう、とか、そうなのか? とか、なんか口の中でごちゃごちゃ言ってて、そのうちに、
「……どーも」
とか言った。
なんか急に姿勢改めて、あたし、ベットの上に座らせて、
「じゃ……」
とか言いながら、あたしの制服のブラウスのボタン、手、かけた。小さい子供の服、脱がせるみたいに。ボタン、ひとつずつ外してく。
妙にゆっくり、ゆっくりで。
うわ、なんか、もしかして、じらされてんの!?
「……キイ兄……」
急かしたくて袖口、掴んだのに、キイ兄、キスだけくれて、またボタン外す。あたし、ぜんぜん余裕とかない感じなのに、さすが、キイ兄は大人だなあ、とか、思ってたんだけど。
よく見たら、キイ兄の指先も震えてた。だから、ボタン外すの、ゆっくりで。慣れてない手つきってわけじゃない。むしろ、やっぱり、慣れてるんだけど。あたしはキイ兄が初めてだけど、キイ兄はあたしが始めてってわけじゃ、ぜんぜんないみたいなんだけど。
キイ兄、震えてるから。
「キイ、兄?」
さっきまであたしのこと、弄んでたくせに、なんて思った。いきなり、あああああんなとこ指突っ込んでくるし、この先なにされるのか、初心者にはちょっと想像も付かなかったのに。
キイ兄、今までのはなんか照れ隠しだった、みたいな感じで、ちゃんと、表情も、改めて、
「おまえさあ、分かる?」
なにが? って、顔したら、
「この瞬間が」
って、言った。
え、どの瞬間? て、聞き返す暇、なかった。
キイ兄、ボタン外すの後回しにして、そのままあたし、押し倒した。目、開けられないくらい顔中、キイ兄、キスするから。
「みー……」
キイ兄が呼ぶたびに、熱い息、顔に触るから。
あたし、もうさっぱりどうしていいんだかわかんなくて、目も口もぎゅって閉じてたんだけど。そのうちに唇、舌でこじ開けられた。
「……んっ」
いくつかボタン、外れたとこからキイ兄の、手の、感触した。
「みー」
そうやってあたし呼ぶのが免罪符みたいに、背中にまわした手で、ブラ、外す。シャツとか下着とかズリ上がってくるの、気になるより先に、キイ兄、ほんの一瞬、ためらって、胸、触った。
乳がんの検診のときとか、太一がやったときとか、そりゃもう痛くって。だから痛いんだと思ってからだ強張った。
でもぜんぜん、痛いとか、なくて。キイ兄の体温、気持ちよくて。
その指先が、ぐりって、乳首押した。
「……うわあっ」
あたし、思わず飛び起きた。
びびびび、びっくりした。
「みー?」
「あー、えーと」
こ、ここは正直に言うべき?
とかガラにもなくためらってたら、
「感じた?」
「うわーわーわー」
そう、はっきり言われると、……恥ずかしいです。いや、もう、ホントに。ここまでやっといて、今更恥ずかしいとかどうよ、とか思うんだけど。顔、真っ赤、ていうより、なんか熱くって、ド、ドキドキしてきた、よりいっそう。
あたし、一緒になってからだ起こしたキイ兄に持たれた。
「……これ以上やったら死んじゃう、かも」
キイ兄はあたしのこと覗き込んで、
「これ以上じらされたら死んじゃうかも」
なんて言った。
あー……7年、だっけ。
キイ兄、残ってたあたしのシャツのボタン、外し始めた。あたし、余裕とかあったわけじゃないんだけど、なんか、手持ちぶさたで、目の前のキイ兄のネクタイに手、かけた。あたし、ちょっと人様には見せられない格好になっちゃってるんだけど、キイ兄、まだ、ネクタイの結び目も緩んでなくて。じゃー、キイ兄のシャツはあたしが、とかはりきったんだけど。
……ネクタイってどーやって解くんだろ?
「……ええ?」
これがまた分からなくってもたもたしてたら、あたしの手とキイ兄の腕と、絡んでなんかややこしいことになった。
「あれ?」
「……いいから、みーはなにもしなくて」
「はーい」
数学、教えてもらってんのとあんまり変わらない感じだった。そんで、とりあえず、されるがまま、だったんだけど。
なんか、ねえ……。
かなり恥ずかしくて、自分の血が流れてく音まで聞こえそうなくらい、ヤバいくら、ドキドキしてて。ちょっとおかしくなっちゃうんじゃないかって思ったところで、キイ兄、やっと、自分のネクタイ、指引っ掛けてするっと緩めた。
その仕草が、
「か……っ」
「か?」
カッコいい……っ!
やられた。鼻血出ちゃうんじゃないかと思った……。
「アバタモエクボ、だねえ」
とか呟いて、コレはなんか違う、と思った。
……だめだ。思考回路がおかしくなり始めてる気がする。だって、なんか……これって、すごい、幸せでしょ?
くらくらする。