〜 2 〜



 放課後を告げるチャイムが鳴ったのと同時にざかざかと学校を飛び出した木曜日。そう、ざかざかと、早足で。だって。
「つーいーてーくーるーなーあー」
 ざかざか歩いてた足、わざわざ止めてきびす返したら、太一、狙ってたみたいにあかんべした。
 駅に向かってたの、駐車場にされてる空き地突っ切るところで、足元の石、着いてこないでよぉ、って蹴ってみたら、ひょいって避けられた。うむー。
「美野、キイ兄んとこ行くんじゃん。おばさんに聞いた。オレも行く行く」
 太一、探検発見のわくわくした顔する。
 んもー。おかーさん、太一には言っちゃダメって言っといたのにー。なんで言うかなー。太一がジャマなのに、太一が着いてきてどーすんのさー。
「ダメ、ひとりでいくの」
 つーん、て横向きながら言ったら、ちょうど、たまたま通りがかったひと、あたしたち見ておかしそうにくすくす笑ってった。なんか、じゃれてる猫見ちゃった、みたいな、たわいない兄弟喧嘩、見ちゃった、みたいな感じ? この通り抜け道に使う人少ないんだけどなあ。こういうとこだけタイミングよく見られちゃうんだよ。
 ふと、キイ兄が、あたしと太一、兄弟だって言ったの思い出した。
 んじゃあ、太一が弟じゃん。ヤだよ、こんな手のかかりそうなおにーちゃんさあ。……誕生日は太一のほうが半年も早いんだけど。
「はいはい、おねーちゃんは多忙なんだから、着いてこないのよ」
 太一、ペキン語でもきいたみたいな顔した。なんてゆーか、あたしの言葉、何語? みたいな顔。
 こりゃぜんぜん通じてないわ。とか思ってたら、
「おねーちゃん?」
 珍妙な顔した太一、一歩、大きく近付いてきた。
「あ、やっぱ、意義あり?」
 ほんのちょっと譲ってみたら、太一、
「おねーちゅわぁーん。ボクも連れてってよー」
 いやーん。なんかヘンんな脅迫っぽくって恐いー。おねーちゅわぁーん呼ばわりが気持ち悪ーい。
「やっぱ、太一がおにーちゃんでいいです。だから今日だけはカンベンしてよ。ホント。マジメに」
 腕時計、見た。
「なにそんな、時間気にしてんの?」
「だって、今日、もう木曜日なんだもん」
「はあ?」
 太一、だから何? って感じで。
 だからさ、キイ兄は土曜日は会社休みで休んでるとこに押しかけちゃ悪いし、てゆーか押しかけたくないし、んじゃあ、今週最終日の明日にはシナリオの見直しがしたいわけで、だったら今日中に仕上げちゃわないといけないってことで。
 でも明日はキイ兄、家庭教師の日だから、キイ兄が来るまでにはあたしも家に帰ってなきゃいけないし。だからどーしても今日中にひと段落、にはしておきたいわけで。んにゃー、色々考えてるとなんか、気持ち、あせるー。
「……。じゃ、そーゆうことで」
 あせったってしょーがない。話、頭の中には出来てて、あとラスト、書くだけなんだから。なんにしても書かなくちゃ終わらないわけで。
 太一にばいばいって手、振って。返してたきびす、も一回返したところを、
「こらこらこら」
 太一に、首根っこ、掴まれた。
「さてはなんかオレに隠し事だな」
 なんだよー、あんたジャマ、ってはっきり言われたいわけー?
「なんにもないよ、必死なだけだよ、これでも」
「これってどれ?」
「えー、最近だんだん日が短くなってきてるしー、キイ兄ってば、帰るからメールちゃんとしてくるからそれまでにあたし、キイ兄の家出なきゃだしー。その際は髪の毛一本も残さないように、ちょっともうシンケンに必死だしー」
「なんでシンケン?」
 真剣なんだか、親権なんだか神剣なんだか、変換、うまく出来ないみたいな聞き方するから、
「なんだかとにかく、襲われちゃうからっ!」
 って言ってみたら、
「……は?」
 太一、間抜けな顔した。よし、ダメージポイント高っ! て、思ったのに、なんだか太一、妙に納得したみたいに、やっぱり、とか呟きながら、
「うわぁ、キイ兄、チャレンジャだなあ、おい」
 あたしのこと、上から下まで見下ろして、辺りに人、いないの確かめるみたいにキョロキョロすると、駐車してある車の陰まであたしのこと首根っこで引っ張ってって、カコン、て足、引っ掛けてあたしのことコケさした。
「んじゃまあ、オレはキイ兄の味方、てことで」
「ええ?」
 どこの誰の車か知らないけれど、ボンネットのとこ、あたしもたれるみたいにコケて、ガコッて、おいおい変な音したよ。車、へこんでない? ねえ?
 キズ、確かめよーとひねった首のとこ、太一、顔、埋めてきた。
 耳から、あごのラインのところ。
「え、なに?? ちょっと、ねえ!?」
 なんだなんだ? 思ってるうちに手、掴まれるわ、足、開いたところに太一、自分の足ねじ込んできて、背中、ボンネットに押し付けられて、
「痛い! 痛いってば!」
 首筋、噛まれたんだと思った。ドラキュラみたいに。そんで、ガリッて音がして、
「やだ、痛い!」
 耳、噛まれた。耳たぶ、舐めて、だんだん耳の上のほう、軟骨みたいなとこ、噛むんだよ。痛いんだよ。
「た、たたたたた太一!?」
 なななななななにが起こってんのか想像も付かない! なんてことは言わないけど! これは……ちょっとちょっと……ッ!
「あんた、かわいー彼女いるじゃんかぁ」
「それはそれ」
「なにがだあ!」
 とか喚いてるうちに、制服の、スカートにきっちり入れてたブラウスの裾、ごそごそたくし上げて、お腹、直に触った。
「こら……こらこら!」
「しっ、もーちょっと」
 って、なにがもーちょっとかあ!
 もがいて暴れたら、あたしの膝割り込んでる太一の片足、ぐって動いて、太ももの内側、膝で蹴るみたいにしたから、あたし、とりあえず、そうやってもがくのやめた。
 スカートまくれ上がって、ついでに下着、引き摺り下ろされそうな勢いだったから。
「やだ、ねえ……っ」
 押しのけようとしても、あたしの片手の力なんて、蚊でも止まってるみたいだし。
 背中、押し付けてておかげで外れないブラのホック諦めて、ブラの上から乱暴に胸、掴んだと思ったらまた、
「痛いってば!」
 わき腹、なんでそんなとこ噛むかなあ!
「やだぁ、ヘンタイィ……」
「はいはい」
 とか、なに宥め口調なんだか、もう、ぜんぜんわかんないし。
 とりあえずそこまでやって気が済んだのか、太一、上げた顔であたし見て、きょとんとした。
「あれ、泣いてんの?」
 そこで不思議そーな顔するなあ!
「よよよよくも乙女の柔肌に……ああああ!」
 太一、何事もなかったよーにあたしから離れて、あたし、何気なく自分のお腹見たら、わき腹……。
「アザになってるうう!」
 太一、ぎょっとした。でもその「ぎょ」っていうのは、あたしにアザなんか作りやがったの後悔してるわけの「ぎょ」じゃなくて、
「おまえ、それ、アザじゃなくてさあ」
「んじゃ、なによ」
「キスマークじゃん」
「………」
 ……あたし、言葉もなかったんだけど、一応、反射神経が勝手に判断して、太一を蹴飛ばしてた。革靴のかかとで、みぞおちを。ついでに、振り上げたカバンのカドでトドメ差して。
 ブラウス、スカートに突っ込みながら駅まで走った。
 心臓、ばくばくした。
 こんなときにキイ兄に『襲いたくなるから』なんて冗談言われたら、ちょっと聞き流せない、いっぱいいっぱいな感じ。
 だって、実際に襲われてみるとけっこう抵抗できなくて。太一、途中でやめたけど、んじゃあ、途中でやめる気なかったら、けっこう簡単に最後までヤられちゃったかもしれなかったりして。
 まあね、太一のはさ、文鳥に噛まれちゃった感じなんだよ。小さい頃に飼ってた。噛まれると、痛いんだよ。でもまあ、そんときは「んぎゃあ」って思うんだけど、次の日には甘えた鳴き声かわいくて、エサ、上機嫌であげっちゃったりする。……太一も、しょーがないから、明日になったら一緒にオハギでも食べてるかもしれない。
 でもさあ、じゃあさあ、キイ兄は?
 なんか、そんなこと考えたら、顔、真っ赤になった気がして券売機に並びながら俯いた。
 キイ兄、甘いの苦手だからモナカもオハギも食べないよ、とか、そーゆうんじゃなくて。
「………………うむぅー」
 順番の回ってきた券売機の前で、あたし、キイ兄のとこの近所の駅までの切符代、あと10円入れよとしたとこで、うなった。
「キ……」
 キイ兄、って、もう無意識に呟こうとしてて、でも、「キ」て言った途端、なんだかかんだか、体中の力抜けたみたいにがっくりきた。
 うわあ……。
 思い出しちゃったよ。
 キイ兄が、「キイ兄」って呼ばれるようになった理由。
 今、ホントに、まったく、突然に。
 ホントのホントに今まで思い出さなかったくせに、てゆーか、思い出せなかったくせに。
 なーんで、こういうときに思い出しちゃうかなあ。
『みー』
 あたし、まだ、10才くらいだった……んじゃないかなあ。お盆に、親戚一同集まってたときに、キイ兄があたしのこと呼んだんだよ。
 でさあ……。
 なんて思い出してたら、電車がホームに入ってくるアナウンスが入った。
 気分はともかく、シナリオ書かなくちゃ、ってとにかく思って、慌てて券売機に最後の10円玉押し込んで、ペ、って出てきた乗車券引っ掴んで駆け出した。
 走りながら、さっき痛かった首筋撫でながら、今日もとにかくキイ兄が帰ってくる前に帰ろう、って思った。
 キイ兄に逢ったらヤバい気がしたんだよ。
 ……いやまあ、色々と……。とにかく色々と!

     ◇

 ジャジャジャジャーン。
 って、ベートーベンの「運命」の出だしで目が覚めた。はいはい、メールね。友達にはけっこう不評のメールの着信音、鳴るたびになんか心臓に悪いし、自分でも変えよう変えようと思いながらそのままで。
 ポケットに入れてた携帯見たら、メール、太一からで、
『避妊はしとけ』
 とかあった。
「なんじゃこりゃあっ」
 しかも、誰と誰の話なの!? わけわかんないわりには衝撃的で、すっかり目が覚めて、はっとする。
 周りを見回して、愕然とする。
 ここ、どこだっけ?
 ……いや、どこだっけ、じゃなくて、この一週間ですっかり見慣れたキイ兄の家で。
 ……あれ?
 あれ、じゃなくて、窓の外すっかり暗いし、そんで、なんでキイ兄の家?
 って、だから、なんで、じゃなくて、考えるまでもなく、
「なんで寝てるかなあっ」
 やっと書きあがったシナリオ、慌ててカバンの中に押し込んだ。
 そうだ、シナリオできて、安心して寝ちゃって……てゆーか、なんでわざわざキイ兄の家で安心!?
 またポケットに押し込もうとした携帯の時間みて、真剣に慌てた。キイ兄、帰ってくる時間じゃん!
 ひとりコントやってるみたいにワタワタと慌てて、借りてたスリッパ、ちゃんとバリアフリーなのにわざわざなんにもないとこでコケそうになりながら玄関まで行った。おじゃましましたあ! って、まさに、ドアノブに手をかけようとした瞬間、ドアの向こうで物音した。
 うわあ、キイ兄帰ってきちゃったよ。どどどどどどーしよう。
 まるでお化けにでも出会ったみたいに(出会ったことないけど、出会ったらこんな感じ、って感じに)玄関とこの壁に、逃げ場ないみたいに背中押し付けた。
 そしたら、玄関、外から、鍵、外す音がして。
 ガコッて、あたし、持ってたままだった携帯落として、拾い上げてる間、なくて、なんかもー、夜中台所で見つけられちゃったごきぶりにでもなった気分で慌ててキイ兄の部屋、逃げ込んだ。見つかったら怒られちゃうから、そんな子供みたいな理由で逃げ込んだ部屋、そういえば、入るの初めてだった。
 マンションで、広くて、いつもはあたし、モデルルームみたいにキッチンに飾りみたいに置いてあって、普段はぜんぜん使ってない感じのテーブルでシナリオ書いてた。広い1LDKの、キッチンの奥の部屋、初めて入っちゃったよ。
 玄関、開いて、閉まる音、した。そのあとにキイ兄の足音、続かない。玄関先に落としたあたしの携帯でも見つけて、いぶかしんでる感じ。
 そのまま、いぶかしんだままの声で、
「みー?」
 あたし、返事、なんでかしないんだけど、しなくったって、靴、置いたままだし、まだいるのばればれじゃんかよ、って感じで。
「みー?」
 みーみー、小猫が鳴いてるみたいに呼ぶから、
「みー……」
 しかも、最初、「こら、まだ帰ってないのか」っておにーちゃんが妹のこと怒ってるみたいだった声、だんだん、……なんていうか、だんだん、低くなって、それがものすごく怒ってるわけじゃなくて、なんか、辛そうに、呼ぶから。
「はあい」
 返事だけ、した。
 自分にしか聞こえないくらいの声で。
 コンて、もたれてた部屋のドア、叩かれた。背中に、トンて感触。
 内開きのドア、キイ兄、開けようとするの、とっさにあたし、抵抗した。両手で開かないように押さえる。鍵とかついてなくて、こりゃもう力ずくしかなくて。だけどそんなの、適うわけなくて。
「こーらー、みぃぃー」
「いやーん」
 なにがイヤなのかよくわかんなかったんだけど。
「イヤ、じゃないだろ。なんで帰ってないんだ」
 あたし、とりあえず頑張って踏ん張ってたんだけど、部屋に敷いてあったマット、フローリングの床にちゃんと止めてなくて、ズルンて滑ってバランス崩してひざ打って、キイ兄、力任せに勢いよく開いたドア、ゴンてあたしのおでこ、ぶつかった。
「痛いー」
 なんかもー、ほんと、自分でもなにやってんだかわけわかんなくって、とりあえずおでこ押さえた。痛いし、どうよ、どうすればいいのよ、って感じで。
 とにかく立て、ってキイ兄が出してくれた手からは、後ずさりして逃げてた。
「みー……」
 呆れてるキイ兄の声。
 キイ兄、出した自分の手、引っ込めるついでに、眺めた。手、眺めるの、なんか、あたし見ないようにするため、みたいで。
 あたし、しゃがんだまま、キイ兄の両足に、ぎゅって抱きついた。別になんとかっていうプロレスの技かけたわけじゃないけど、キイ兄、びっくりしてしりもちつく。目線、同じになったのに。
 キイ兄、あたし、見ないから。
 あたし、両手、床について四つんばいになって、キイ兄に顔寄せた。それで、そのまま、
 ゴガッ、
 って、頭突きお見舞いして、キイ兄が手にしたままだったあたしの携帯、引っ手繰った。
 我ながらなにしてんのか、なんだかもうよく分かんないんだけど、キイ兄は当然もっとよくわかんない顔で。ボケてて。
 でも、
 立ち上がったあたしをボーっと見てたキイ兄、なんか突然がばって立ち上がって、勢いが恐かったから一歩下がったら、キイ兄、さらに一歩近付いてきて、あたしの頭、その辺の花瓶でも持つみたいにガシって両手で挟みこんだ。無理矢理、顔、横向かせようとする。
「痛い痛いっ」
 擬音、グギギギ、って感じで、キイ兄、あたしの耳からあごの辺り見た。
 あたし、さっき太一にされたこと思い出して、痛いの思い出して、
「ヤだ……!」
 痛いのはもーイヤ。って意味だったんだけど。
 キイ兄、さっき太一が痛くしたとこ、恐々って感じで指でなぞって、それからそこに、頭、押し付けてきた。
「……誰とすんの?」
 押し付けたままだから、くぐもった声良く聞き取れなくて、あたし、聞き返す。
「なに?」
「それとも、もうした?」
「なにを?」
 キイ兄、あたしから離れないまま、あたしの携帯取り上げて、折りたたみの画面、開いて見せた。
 まだ、太一からのメール画面になったまんま、だった。
『避妊はしとけ』
 うわああああああっ。
「こ、こここここれは、べつにさあああああ」
 ちくしょー、太一ー、あとで覚えとけー!!
「だれ?」
 顔上げたキイ兄、キイ兄の身長からじっと見下ろしてくるから、つい、あたし、目、そらしちゃって。キイ兄、それが気に入らなかったみたいに、
「跡、はっきり付いてるんだけど」
 キイ兄、あたしの首筋んとこ、人差し指でぐりぐりやった。
 でもあたし、なにをぐりぐりやられてるのか初め、わかんなくって、ちょっとしてからはっと思い当たったこと正直に口にしてたりした。
「あああ、キスマーク?」
 太一、わき腹と同じことしてるならそれもアリだよなあって、思っただけだったんだけど。だから、疑問形で、うっかりキイ兄に聞いたりしちゃったんだけど。だって、自分じゃ見えなくて、そんな跡あったなんて知らなかったし。
 キイ兄、おまえ心当たりあるんだ、って顔して……なんか、ふしだらな自分の娘見るみたいに怒ってるみたいに見えたから、あたし、フォローのつもりで、
「たたた太一だってば。こんなふざけるの太一しかいないじゃん」
「太一?」
「そーそー」
 ついでだったんで、わき腹の跡も見せてみた。
「なんかね、さっき急に襲われちゃって」
 わたし的には「遊んでて」と同意語のつもりだったんだけど。
 キイ兄、わき腹の跡に、触った。
 手、なんか冷たくて。顔、蒼ざめてるし。
 風邪の症状? とか思って、
「キイ兄?」
 大丈夫? って、近づけた顔、また、じっと見てくる。
 風邪だったらうつるよなあ、とか思いながら、キス、してた。
「うわあっ」
 叫んだのあたしで。
 自分からしたくせに、自分で叫んでて。
「ごごごごご……」
 ごめんなさいっ! つい勢いでした! って謝ろうとしたのさえぎって、今度はキイ兄が、あたしに、キスして来た。しかも、あたしがしたみたいなかわいいのとぜんぜん違って、
「……んんっ」
 苦しい苦しい! 息できない!
 ついで、って感じで、冷たいっぽい手、お腹、なでなでするし!
 ヤダ、って言いたいのに、口ふさがれてて言えなくて、足、またマットに滑って派手に転んで、転ぶの支えようとしてくれたキイ兄も、一緒に床に転がった。
 もー、少女漫画王道って感じでふたりで床に横になってる姿、そこでキイ兄、やっと我に返ったみたいにはっとして、あたしから離れようとしたから、あたし、キイ兄の腕、掴んだ。ぎゅって掴んで、動物園のサル山のサルの親子がしてるみたいに、離しちゃヤダって、キイ兄の肩の辺、抱きついた。


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