〜 ヒョウメン 4 〜
一番初めは、君を見つけただけで満足だったのに。
その次には君と話をするだけで満足だったのに。
その次には手を繋ぐだけで。
その次にはキスをしただけで。
それで満足だったのに。
君を抱き締めたのは、君と出会ってからどのくらい後のことだったっけ。
初めて僕を受け入れようとしてくれた君は、でも、ずいぶん痛がって泣いたから、最後まではしなかった。でも、あのときは、その気持ちだけで満足だったのに。
そんなことが何度か続いた。二度、三度……君がごめんなさいと言って泣いた。
どうして泣くの?
謝るのは僕のほう。痛い思いをさせたいわけじゃない。
でも僕にも初めてで、痛い思いをさせない方法がわからない。
他の人? 友人たちはみんな一度で?
そんなこと、どうでもいいよ。僕たちには僕たちの進む速度がある。そう言ったら君は「僕たち」という言葉にずいぶん恥ずかしそうな顔をした。そんな君を、抱き締めるだけで満足だったのに。
何度目か、僕は君を、抱いた。
君は震えるからだで僕を受け止めた。
君に入り込んで知った君の味よりも、痛みの合い間に、僕を感じて漏らした吐息に眩暈がした。
そんな声を出させてるのは、僕? それは僕を感じる声?
僕にされて、いいの?
……いい?
そう?
そんなふうに、日常ではありえない会話を、それでも、どこか日常のふたりだけの場所を探して、ふたりだけでする。
「……先輩、も、おかしくなっちゃう?」
「うん」
「そ、っか」
そうだよ。だから。
「なだめて」
キスをしながら、スカートの裾をまくって、あまり太くない太ももをたどった。
君は僕のしたいことに気付いて、キスに集中しようとする。じゃないと、
「んっ! ……っん、ふ……っんんっ」
僕の、指が君にたどり着く。下着の上から柔らかい場所をなぞっただけで、君は過剰に反応する。その反応だけで濡れるようになって、君は、痛い、と言わなくなった。
ふくらみの谷間に指を引っかける。じわりと熱さが増してくる。僕を受け入れる準備をする。
キスは、したまま。目を閉じたまま。見えてない僕の指を意識で追うのを避けるように、キスに集中しようとする。でも、君はキスに集中しきれない。
僕の手が、指が、なにをしようとしてるか、わかる?
……わかる、よね。
ごそごそとスカートの中で下着をずらして、君の素肌に触った。
「っぁ……ん、ん……」
僕の、指の感触を。
感じて、隙間もないほど重ねたくちびるのどこかから声を漏らす。手は、僕がまだ着たままのシャツにしがみつく。
僕はざわざわとした感触をかき分けて、ぬるりとした場所に、ぬるりとした感触に引き込まれるように指を入れた。
「んんっ……!」
呼吸が、苦しそうにするのでキスをやめて君を見下ろした。君は泣きそうな顔で僕を見る。
君の中の指の動きをいったん止めて、髪をなでた。その額にくちびるを落とす。君はなぜか、ほっと息をつく。
「そんな安心した顔されると……」
なに? と君が眉を上げる。
あんまり無防備に、そんなに安心した顔をされると、
「意表をついて、ひどいこと、したくなる」
僕の笑顔に、君はますます泣きそうな顔で見た。泣きそう……でも、その顔は僕を責めるわけじゃない。すがるように……。
僕が、欲しい?
君の中の指を、一本、増やす。君の声が、からだがすぐに反応する。
「……ふぅ……ん、んっ」
意識、しているのかいないのか、ぬるりとした奥で君は僕の指に絡みつく。抵抗するように内部で指を折れば、抵抗、するように、君は指を締め付ける。
「センパ……ん、んぁんっ」
君の中にあるのが指ではなくて僕自身だったらと、想像しただけでもたない気がした。
指、だけで。
君をもてあそんでいたい。そうして、僕を感じてる声を聞いていたい。
「あ……っ、や、んぁっ!」
すっかり僕に身を任せて、指だけで軽く達した君に、
「……アヤ……」
君に、僕が入り込む。脱力している君は、僕を抵抗なく受け入れる。
ごそ、と僕が動くと、君がなにかを求めるように手を伸ばしたから、その手を掴んで。
「……っ」
これは、僕の声。
「っあ、……ん……っ」
君の、声。
僕を、飲み込む君の声。
でも、もっと。
君が、欲しくて。
「アヤ……」
さらに、君に埋めた。
「んぁ……っ、あ、あ……っ。セン、パイ……」
僕の手を強く掴み返してくる君が欲しい。君の中に入り込んで、その声を聞いて、揺らしたい。吐き出してしまいたい。
もうこれ以上入りきらない場所まで君を確認すると、僕はひどく自分本位に君を揺らした。じわりと滲んだ汗を撫でて、
「アヤ……アヤ、辛い?」
「ん……大丈夫、です」
君が、なにか言いたそうに僕を見るから、
「……なに?」
「も、っと……」
「ん……?」
「もっと……っあ、っ……しても、へーき、ですよ……? ……ていうか」
センパイ、と呼んで、
でも恥ずかしそうにふいと目をそらす。その視線を追いかけた。
追いかけて、近付く。
額がぶつかりそうな距離に。くちびるが、重なりそうな距離に。
なに? ともう一度聞くと、君は重ならないくちびるがつまらなさそうに、僕の髪を引き寄せて、耳元にくちびるを押し付けてきた。
「センパ……好きって、言って」
「……好きだよ」
「もっと」
「好きだよ」
「……もっと」
「好……」
言いかけて、言えなくなったのは、ざわ、と君が動いたから。もう、我慢できないみたいに、からだを揺らして……。
「アヤ……気持ち、いい?」
「ん……」
でも、そんなの、
「センパイ、だって……」
僕だって、
「僕のことも、好きって言って……?」
君は、僕のくちびるのすぐ傍にいるままで、
「大、好き」
君の言葉を聞き終えると、君のからだをベッドに押し付けて、その腰を掴んで激しく揺らした。その衝撃に、君は大きく首を振った。
「っぁ、ぁあ、や……やぁん、センパ……っっ」
イヤ、と言われても。
「……っぅ、ふ……あ、あ、んんっ……」
ばかみたいに、それしか知らないみたいに同じように振っていた腰を、ふと違う角度で揺らした。
「ゃあっ、セン、パ……や、そこ、だめっ」
ダメ、と言われて、
「ここが……いい?」
「んんっ。……だめ、そこは、いやぁっ……」
君の手が、強く僕の腕を掴んだ。いつも短く綺麗にしている爪が食い込む感触に、
「そんなに、イヤ?」
爪が食い込む感触よりも、君を感じる。
君の中に押し込めたままのもので、ぐり、と君をなぞると、君は悲鳴を上げるのも忘れたようにからだを波打たせた。
「……まだ、イヤ?」
まだ、イったわけじゃないけれど君はなみだ目で僕に反応しない。
「アヤ……?」
呼ぶと、ゆるゆると僕を見た君の瞳から涙が零れた。あ……そんな、恨めしそうな顔をされても……。
君の涙にくちびるを寄せて吸った。そんなふうに僕が動くだけで、君は濡れた声を漏らす。
僕はまた動き始める。君の中で。君も、僕を急かすから。
「……っふ」
漏れた僕の声を君の指がなぞった。その指に、
「……アヤが感じてる分、僕もいいよ」
その意味が。
ごそ、と君が、繋がった場所を揺らして。
意味が、通じてることを知る。
一度君から離れて、君を背中から抱き締めた。多分、初めからだったら恥ずかしがってそんな格好をしないはずの君も、早く、と急かすようにベッドにうつ伏せた。うつ伏せた君の背中をなぞりながら、抱き締めるのに回した手で君の両胸を包んだ。
「ん……センパイ……」
君の、濡れたその場所に入り込む。
「……っ、あ、あ……」
君の声は、君の背中に響くばかりで、気持ち良さそうに、僕を飲み込む。その様を眺めて、息を飲む。
我慢、できなくて。一気に君に押し込んだ。
「あ……きゃ……っ」
押し込んだ勢いに、君が腰を上げた。僕を受け入れやすくする。僕は受け入れやすくされて、
「……っふ、うぅん、あ、あん……センパイ……タクローセンパイ……っ」
君を抱え込んだ。そうして、君を両腕に抱いたまま、下半身だけ必死になって揺らした。
「センパ……ッ。やあんっ、だめ、だめっ」
強く腰を押し付けると、目には見えない、ただ感じるだけの場所のその当たり具合に君は背中を弾ませる。君は、君を抱き締める僕の手を握り締めて、
「んっ、ふっっっ……っ」
最後の悲鳴を奥歯で噛み締めた。声を、我慢する分だけ僕を締め付けてくる。びくびくと背筋が痙攣する。その振動に、絶えられずに、僕も君へ吐き出した。薄いゴムを通しても伝わったらしい僕の熱に、君がからだを振るわせる。その首筋に、くちびるを押し付けた。
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