〜 アカリ 3 〜



「ありゃ……?」
 ……あれ? うそ?
 補習終わって、ただいまですー、って真己くんちに帰っておばさんとお昼ご飯食べて、もうなんだか自分の部屋みたいになってきた真己くんの部屋で、じゃー今日の宿題でもやーろう、っと思って、あれ? って思った。
 あたしなんでまだ真己くんの部屋にいるの? とかじゃなくて。だって、まだ喧嘩続行中だから、真己くんはあたしの家に帰る、はず。そこんとこの打合せ、喧嘩中だから、そんなものしてなんだけど。
 ……喧嘩中、っていうか、ねえ。
 ねえ、これ、喧嘩?
 真己くん結局、学校でぜんぜん、あたし、見なかった。喋らなかった。
 そーゆうの初めてで、だって、同じクラスで、席もすぐ傍なのに。
 だからあたし、しょぼんって帰ってきて、そしたらおばさん、あらまあ、って冷やし中華作ってくれた。真己くんは午後から部活があるから帰ってこない。そのまま学校にいる。あ、真己くん、お昼、どうしたのかな? ママがお弁当作ったのかな? それともおばさんが持たせてるのかな?
 ……じゃなくて。お昼ごはんの話はどーでもよくて。
 夏休みの宿題やるのに、分かんない問題出てきて、そうだ昨日、真己くんがくれた夏休みの宿題完璧ノートを参考にしよう、と思ったところ、そのノートが、ない。
「あれ?」
 え、なんで? 
 あれ真己くんの宿題だし、ってあせって探したけど、ない。がーん。
 あたし、朝のこと思い出す。
 朝は遅刻ぎりぎりであわあわしてて、その辺に置いといたノート、とにかく袋に突っ込んで……。
「え、学校?」
 突っ込んだノートとか、学校で机に入れて、真己くんノートは見慣れないヤツだったからそのまま置いてきちゃった、かも。
「……まー、明日でいっか」
 とも思ったけど。
 そう思って、宿題してたらなんか落ち着かなくって。真己くんの部屋、きょろきょろ見回した。
 真己くんの部屋。でも、真己くん、いない。
 あたし、真己くんの部屋にいるのに、ここの部屋でお勉強するとき、分からない事はなんでも真己くんが教えてくれて、分からない事なんかなかったのに、今は、分かんない問題ばっか、で。
 問題、本当に分かんないの多くて、泣けてきた。もーやだー、ぜんぜん分かんないー。
 普段なら解けそうな問題も、なんでか、ぜんぜんさっぱり解けない。
 あたし、がばって立ち上がって、部屋、飛び出した。階段下りたとこでぶつかりそうになったおばさんに、
「あら、珠美ちゃん。また制服着てどうしたの?」
「あの、学校、忘れ物……」
 なんか、頭悪そうにやっとそんだけ言った。学校行くから、制服着なくちゃで。スカートぱたぱたさせながら学校まで走った。校門入って、げた箱、閉まってなくってよかった、って思いながら上履きはいて。三年生の教室三階で、走ってきたついでに一気に駆け上……りたかったんだけど、朝と同じでぜーぜー言ってて、ぐほー、疲れたー、もーだめだー、って年寄りみたいに手摺にもたれながら階段上がる。
 真己くんノートは、やっぱり、机の中にあった。
 あたし、一安心でとりあえず、椅子に座った。
 教室、誰もいない。教室って言うか、校舎、誰もいないみたいだった。椅子、がた、ってした音が教室から廊下まで響く。真己くんノート安心して眺めてたら、額、つーって汗が流れてきて、窓、開けた。
 むわーって湿気の多いっぽい風が入ってくる。ひー、むわーってするー。でも風、ないよりはぜんぜんよくって、なんとなくほっとして窓から体、乗り出した。風がもっとたくさん当たる気がした。
 運動場で部活やってる人たち、見えた。あたし、もー無意識にサッカー部の真己くん探してる。ねー、だってねー、これもねー、アイ、かなあー。とか、自分で思って顔、赤くして、
「今のなしー」
 って、窓の下、座り込んだ。
 風、当たんなくって暑い。暑くて、なんか、余計に顔に血、集まってくるみたいでノートで顔、隠した。早く帰って宿題やろー、真己くんの部屋、涼しいしー。って、思うんだけど、なんか、座ったままで。
 ……真己くんの部屋、涼しいけど。
 ノートあれば、宿題ばっちりできる、けど。
 でも、真己くん、いない。
 真己くんの部屋に真己くん、いなくて。夜になったら真己くん、あたしの部屋にいて。でも、あたしの部屋でも、あたし、あたしの部屋にいないし。
 昨日の、明るいあたしの部屋、思い出す。思い出して、セーラーのリボンのとこ、ぎゅって掴んだ。
 明かり……。
 あたしの部屋の、明かり。
 その中に、真己くんがいた。当たり前みたいにいた。
 そこ、あたしの場所だよ。でも、真己くんの場所でもある。
 って。
 そういうこと、真己くんも思った?
 そこ、おれの場所だよ。って。そう思う場所に、あたし、いた?
 そしたら、それは、あたしも真己くんも、同じ、ってことになる?
 もう「違う」とか、言わない?
 ……言わないといいなあ、って思った。
 だって、違ってないし。
 でも、分かんない。そんなの、分かんない。
 真己くんいないと、色々、分かんないことだらけじゃん。……だから、さあ。
「……傍にいてよぉ」
 そんで、ちゃんと教えてよぉ。
 真己くん。
「……真己くん真己くん真己くん!」
 誰もいないからいいや、とか思って、言ってみた。ノート、握り締めて。制服のリボン、握り締めて。なんか、どっか掴んでぎゅってしてないと、気持ち、いっぱいいっぱいで。
 だから、
「呼んだ?」
 って、真己くんの声、
「……は?」
 あたし、目、見開いた。目に映ったの、顔、隠すのに使ってたノート、で。あああ、ノートだ、って思って慌ててノートどけたら、真己くんが、立ってた。
 教室の入口のとこ、制服姿で。
 あたし思わず窓、チラって見て、
「え、あれ、部活……は?」
「……なんか調子悪くて、やる気がないなら帰れ、って追い出された。そんで帰ろうとしたら、珠美、校舎入ってったから」
「あー……そう、ですか」
 あたし、変な返事しながら、リボン、またぎゅって掴んだ。……いっぱい、いっぱい、で……。
 真己くん、教室の入口、あと少しで教室の中なのに、入ってこない。あたしのこと、真っ直ぐ見ない。教室の隅の方、見る。
 その目、やだ。
「……真己くん」
 真己くん、目線、動かない。返事、しない。
「真己、くん」
 真己くん、さらに目線、もっと横にした。
「真己くん!」
「……なんだよ」
「なんで変な方、見てんの!?」
「だっておまえ」
「なにさ」
 って聞いたら、真己くん、なんかがっくりした。
「珠美、ぱんつ丸見えなんだもん」
 は?
 あたし、制服なのに、家、いるときみたいに短パンはいてる気分で、体育座りの足、がぱーって開いてて。
「ぎゃー」
 慌てて、正座崩したみたいに座りなおした。
「そーならそーと、最初に言ってよー」
 真己くんはがっくりしたまま、床、見てる。それからふいに教室の正面にかかってる時計、見て、またがっくりした。
「……珠美とさ、おれがおれの意思で喋んないの、最高記録、22時間、だって」
 旅行とかで何日も顔会わせないことはあるけど、喋らない、と思って喋らないのが……。
「……長すぎー」
 あたし、泣きそうで言った。今からまた22時間、とか言われたら、ほんと、泣くです。
 それくらい、一緒に、いた。
「なー」
 長いよなー、って、しぶしぶ真己くんも同意する。それで、大きく息、吐き出して、あたし、正面から見た。
「ほんとに、それくらい、そう思うくらい、珠美しか好きじゃないんだけど」
「あたしもー」
 あたし、ちゃんと、言ったのに、
「あ、そ」
 真己くん、あたしの返事なんてどうでもいいみたいな、返事、した。
 あたしが「あたしも」って言わなくても、「あたしは違う」って言っても、なんて言っても、真己くんは「あ、そ」って言って、教室に、入ってくる。ずかずか入ってきて。あたしの目の前で立ち止まったかと思ったら、あたしに合わせて座り込んだ。
「珠美」
「……はい?」
「……珠美」
「はい?」
 真己くん、優しい顔してたから、あたしいつもの調子で、なあに? って小首傾げたら、真己くんも真似して同じ方に傾げながら、顔、笑ったまま、すごい力で手首、掴みあげられた。そしたら真己くん、笑うの、もうやめてて、
「高校、女子校以外ならどこでもいいから、そこ、受けて」
「どこでも、って」
「絶対、必ず受かるとこ、受けて」
 手首に、真己くんの感触。
「おれもそこ受けるから」
「あの、でも、それはさあ」
「なんだよ、おれの勝手じゃん」
 真己くん、開き直ったみたいに、
「おれが珠美好きで、だから珠美と同じ学校行きたいの、なにが悪いの。ママ、ママ言ってる珠美も、たまには反抗して、珠美は珠美の好きなやつの行く学校でも、行けば? おれも行くし」
「あたし、好きな人とかいな……」
「いるんじゃん。いるだろ? おれ、ごまかせると思ってんの」
 それはさあっ。
「ごまかせるよっ!」
 真己くんの手、ぶんぶん振っても離れなくて、
「だって真己くん、ごまかされてるし、思いっきりっ」
 真己くん、ちょっとびっくりしたみたいに、え? ってあたし見た。
「……おれ、ごまかされてる?」
「うん」
「どこが?」
「だから、あのね、あたし」
「好きなやつ、いないの?」
「……いる、いるけど」
「ほらみろ」
「……じゃなくてー」
 なにさー、もしかして真己くんが一番あたし、分かってないんじゃないのー? とか、思った、ちょっと、真剣に……。
「だから、あのねー」
「なに」
 なに、じゃなくてー。
「真己くん、だってば」
 あたし、思いっきり、言った。
「真己くんしか、好きじゃないです」
 真己くん、長ーい沈黙の後、
「は?」
 とか、言った。
 いやーん、あたしの告白がー。
「なんで『は?』とか言うの。だって、あのさ、他、誰もいないよー? あたし、真己くんしかいなかったんだよ、それ、小さい頃から、ずっとだよ?」
「それ、おれも、だけど」
「だから、あたしもだってばー」
「……なんで?」
「え、なんで、とか言われても」
「だって珠美、キス、嫌がったじゃん」
「違っ、嫌がったの、そーじゃなくて、いきなりだったから、じゃなくてっ。だから、それ、真己くんが気持ち悪いことするから……っ」
「……だから、気持ち悪がって嫌がったんじゃんか」
「キ……ス、が気持ち悪かったわけじゃ……」
 真己くん、掴んだままのあたしの手、じっと見て。その目、少し考えるみたいに眉、寄せて。そのうちに、考えまとまったみたいに、がく、って肩、落とした。
「だからキスだってば……」
 とか呟いて、
「あのさ、珠美。もう一回、していい?」
 なにを? って聞き返すより早く、手首、引き寄せられて。
 キス、されてた。
 昨日、真己くんと始めてしたキス、また、する。
 うわあ、あのっ。
 頭の中、ちょっとパニック。だって、ここで冷静だったらさすがにあたし、女の子やめるし……っ。
 とか思ってる間に、真己くん顔、傾けて、なんか、あのっ。
「っぅひゃあっ!」
 真己くんに唇、舐められて、あたし、顔、逃げた。
「舐めたーっっ」
 あたし叫ぶの無視して、真己くんあたしの唇、追ってくる。
「や、イヤだってばぁ!」
 全力で逃げたかった、んだけど、後ろ、そういえば教室の窓のある壁、で。後頭部、真己くん避けた拍子に思いっきり、ごん、て打って、
「いったーいっ」
 頭、抱えたら、真己くん、あたしが自分の頭さするの手に自分の手、重ねて一緒にさすってくれながら、覗き込んできた。
 あたし嫌がったから、また真己くん、怒ってるんだと思った。でもさ、それはさ、真己くんもわざわざ嫌がってることするから悪いんだよー、ってちょっと反抗的な目であたし、睨んだんだけど。
 真己くん、笑ってた。
 いつもみたいに、ただおもしろくって、あたしが、おもしろくって、笑ってた。
 あはは、って声でも笑って、またあたしの手首引き寄せて、頭、引き寄せて、真己くんの胸にぎゅっとした。
「珠美、このままおれのものになっとこーよ」
「……真己くんの?」
 意味、ちょっとわかんなくって聞いたら、
「昨日の続き」
 って言われて。
 ……は? 昨日の続きって? って、真っ先に浮かんだの宿題、だったんだけど、そのまま、なんか、あの、床に押し倒された、から。
「え、えええええ!? ここで!?」
 って、ちっがーう! 問題、場所じゃなくてさあ!
 なんて言いたことなんて、真己くん、分かってるみたいに、あたしの慌てぶりに吹き出した。
「とか言っても、昨日母さんにアレ没収されちゃったし、今日は途中まで、だけど」
「……アレ?」
 なんじゃそりゃ、ってあたしが言ったの、
「そう、アレ」
 真己くん、意味ありげに繰り返しただけだった。
 だからアレってなにさ、とか思ってたら、真己くん、押し倒したあたしの足、撫でた! 膝、より上、もっと上!
 あたし、びっくりしてなんか蹴飛ばした……の、真己くんノート、だった。ばさ、って音がして、真己くんが振り返る。真己くん、真己くんにはただのノートだったから、すぐに、どうでもいいやって顔で無視して、でも、あれ? ってまた振り返った。ノートからなんかはみ出してた。うまく挟まってたの、今、飛び出した、って感じで。真己くん、らっきー、とかなんとか、呟いた。
 真己くんが手にしたの、それ、昨日、おばさんがばら撒いた、箱に、入ってたやつ……あ、一個、挟まってたのか。って、挟まってたのはどーでもいいけど、だからそれなにさ?
「え、なにー? なんでらっきー?」
 あたし、きょとんとするの、
「……珠美」
「はい?」
「さっき、途中まで、って言ったのなしね」
「なし?」
「そー、なし」
 真己くん、ノートに挟まってたの、あたしに見せてくれる。
「……なに……」
「コンドーム」
 分かる? って聞かれて。
 あたし、三秒思考回路停止したの、真己くん、あたしが分かってない、って勘違いして。もう一回言う。
「コン……」
「わーわー、分かった、分かったから何回も言うなー」
 ああああ、おばさん、わかってて没収したんだ、そりゃそうか、って思ったら、か、顔、赤い、ってゆーか、熱い、ってゆーか………………。
「って、えええ!? てことは!?」
 どもるあたしに、真己くん、まさに、今あたしが考えたことそのまんまのことするよ、って、当たり前の顔、した。
 ……当たり前の顔、っていうか、真面目な顔、で。
 そう、真己くん真面目、なんだけど。どうもこう、セーラーの裾から入ってくる手、とか、
「……っぅん……」
 ほっぺにキスしたり、耳の辺にキスしたりするの、慣れてて。
 それって、そりゃ、そうだ、よねえ。だって、
「ま……真己くんっ!」
 体ごとあたしに被さってくる真己くん、あたし、押し退けた。だって。だってさあっ。
「ストップ、ストップ!!」
「なんだよ」
「なんだよ、じゃなくてっ。真己くん、彼女、いるから!」
 真己くん、あたし、見下ろす。
 ……うわ、なんか、その顔、さあ……。
 真己くんの顔も、赤い。てゆーか、あの、なんか色っぽい、ってゆーか……。
「いない」
「は?」
「もーいない」
「……って、ええ!?」
「だって、おれずっと珠美のことしか考えてないんだもん。ほかはいらないから、いらないって言っといた」
「……いらない、って。うわ、酷くない??」
「なにが?」
「なにが、って、だって……」
「付き合ってって言うから付き合ってただけだし」
「……だけ、って……」
「なんだよ、付き合ってる人いないなら付き合ってって言われて、だからそーしただけだよ。おれから付き合ってとか言ったことないよ、言っとくけど」
「……あたしに言っとかれても……」
「だって珠美が……珠美、いっつも珠美がおれになれたらいいのに、とか言ってて、その珠美が『あの子なら、あたしが男だったららっきー』とか言うから、だったら、おれもらっきーなのかな、とか思うだろ。おれになりたい珠美が、おれのこと好きな態度、素振りも見せなくって、じゃあおれが珠美好きなの変なのかよ、とか、思うだろ」
 真己くん、なんか必死、だった。
 あたし、実は、真己くんの言いたいことよく分からなくって、ぽかん、としてた。だって、真己くんいつも難しいこと考えてるし。だから、
「……いいよ、実はおれバカなんだよ」
 真己くん、心から自覚してます、ってセリフ、
「でもおれ、珠美しか好きじゃないんだよ」
 心から、自覚してます、って、セリフ……。
「珠美と、一緒じゃん?」
 セリフ、すぐ傍から、落ちてきた。
 口、移しで。
 すぐ傍のままで、
「珠美、ベロ、出して」
「え」
 とりあえず、話の流れ思いっきり無視してあたし、げ、って嫌な顔したの、真己くん笑いながら、
「キス、だけど?」
「うそだー」
「ほんとほんと。もう一回だけ。そんでも嫌だったらもうしない」
「ほんとー?」
「ほんと。おれ珠美に嘘教えたことないじゃん」
 ……そう、だけど。
 そう、だから、あたし、べろ出したら、真己くん吸い付いてきた。
「んんっ……!」
 真己くんの口の中の感触して、
「や……っ」
 あたし、引っ込めたの、真己くんが追ってきた。
 真己くんの感触、ぞっとして。真己くん、口の中から追い出したいのに、真己くん噛み付くみたいにしてくるから、あたし、口、って言うか、歯、噛み締めたかったのに、そんなことしたら真己くん噛んじゃうからできなくて、いやーん、やだー、たーいーむー、って言えなくて、言えないから伝わらなくて。って、抵抗、してる、けど! 足とか手とか押さえつけられててっ。うわ、そーゆうとこ抜かりないよ、とか感心してる場合じゃなくてっ。とか、とか! あたし、どーでもいいことわざわざ考えようとしてるの、だって、だってぇ!
 あたし、逃げてるのに、真己くんあたしに無理矢理、絡めてくるから。なんか……。
「……ん、……っ!」
 なんか、ぞくって来て、胸、のけぞった。うわ、うそ、なにこれはさあっ。
「んっ……、ぷは」
 ぷは、って、真己くん離れて、息、吸い込んだ。う、わ。なんか、涙、たまってきたしっ。
「気持ち悪かった?」
 真己くん、わりかし平然としてるのに、あたし返事できなくて、
「気持ちよかった?」
 って聞かれて、ぶわって、顔、赤くなった。赤くなったの恥ずかしくって、
「ま……」
 真己くんの×××! って続き色々言いたかったんだけど、言えなくて。でも真己くん、あたしの言いたいことなんて分かってて、しかも言いたことのし返しみたいに、っていうか明らかに仕返しに
「おれ、どうせ、えろえろ大魔王だもーん」
 って言った。もーん、とか、かわい子ぶってもさあっ。
 って、え、なんであたしの言いたいこと分かったの!? ど、読心術?
「って、昨日の夜、珠美叫んでんの聞こえてんだよ」
 ふいに真己くん、昨日の夜を思い出すみたいな顔した。だから、あたしも思い出す。
「……あたしの部屋ってさあ、明るいね」
「イヤんなるくらいな」
「そんなにいや、だった?」
「珠美、どう思った?」
「真己くんを、好きだなあって思った」
 明かり、明るくて。眩しくて、どきどきするの、そんなふうに思った。



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