9月 1日 〜 防災の日 担当:清水さん 〜
体育館の脇の自販機で出会ったんで、夏休み終わっちゃっても暑いもんは暑いよねえ、って一通りの世間話した後、 「最近、奈津さんとはどーよ?」 と聞くと、高橋少年はこの暑さの中も爽やかに、 「夏休みの間は、部活終わった後ちょうど時間がいいから、奈津はいいって言うのちょっと無理矢理駅まで送ってた」 「おお、無理矢理」 「けっこう毎日」 「いい感じ?」 「おれは」 「奈津さんは?」 「……さあ?」 照れてるのかそーじゃないのか、ちょっとうかがえない感じに言う。 住宅展示場にお勤めの奈津さんと高橋クン。ふたりが付き合ってるって言う話は聞いてないから、付き合ってるわけじゃない、んだろうけど。 奈津さんもけっこう高橋少年らぶ、だとあたしは思ってたんだけど、違うのかな? え、違うくてどうでもいい男の子のテニスの腕前とか気にするかなあ? この間、けっこう高橋少年のこと気にしてたよねえ? 「奈津はさ、おれ、制服だし、なんか、そーゆうとこがね」 「気にしてるっぽい?」 奈津さんと高橋少年、年の差いくつだっけ? あたし、指折り数えてると、高橋少年、微妙な顔して、今はむっつ、って言った。 「てか、気にしてる。あれはかなり」 「制服、やめてあげれば?」 私服で並んでれば、まあ、そこまで年、離れてるようには見えないと思うんだけど。奈津さんかわいいし。 「やだね」 「なんで?」 「おれ、まだ三年も学生服着用なんだから、慣れてもらわないと」 高橋少年、かなり真剣。 「あー、でも学校始まっちゃったし、部活ない日しか送ってけない……これからどんどん日、短くなるのになあ」 会社から駅まで徒歩の奈津さん心配して、その間あたしの存在忘れる。いいねえ、少年よ。愛だねえ。 あたしが吹き出すの我慢してたら、高橋少年、 「でも今んとこ、おれが一番傍だからいいか」 とか、奈津さんが他に彼氏作る気なさそうなの嬉しそうに言うから、あたしどうにも、うひゃ、って吹き出した。 「……なんでそこで笑うの」 「え、いや、あの」 かわいいなあ、って言うのだけは、踏み止まった。さすがに。 高橋少年、短パンにTシャツ姿で、今日は始業式終わって今からどう見ても部活っていういでたち。脇にラケット抱えてて。身長はあたしと同じくらい。奈津さんよりちょっと、高いかなあ。弟と同じ年だから、初めてテニスの試合見てるときは格好いいとか思ったけど、喋ったりすると、なんか、ねえ、かわいいよねえ。高橋クン、てより、高橋少年、だよねえ。 「がんばれ」 「奈津のこと?」 「奈津さんのことも、テニスも。奈津さん、実はけっこうテニスやってる高橋君、好きっぽいから」 「そうなの?」 「あ、好きっていうか、興味あるっぽい」 「おれ、そんな話、聞いたことないけど……」 とか、そこんとこ不満そうに不満そうに言おうとして、でも奈津さんが高橋少年に興味あるってとこがどうにも嬉しそうで、不満そうにするの、それ明らかに大失敗って感じで顔、嬉しそうで、なんだか結局、大失敗なのが恥ずかしそうに、 「……センパイ、なに飲むつもりだったの?」 自販機指差しながら聞かれたから、 「オレンジ」 って言ったら、 「どーぞ」 おごってくれた。70円。 「やった、らっきー、ありがとう」 パックジュース買ってもらって思い切り喜んだら、高橋少年、箸が転がってもおかしいみたいに笑った。 「この間さ、奈津にりんごのやつあげたら、パックのなんて久しぶりって、センパイみたいにふつーに喜んでた」 「ふつーって?」 「ありがとう、って。今どきそんなのでそんなに嬉しそうにお礼とか言われると、なんだ、これでいいんだ、って思うよね。年とか、身長とかじゃなくて」 あたし、はい? なに? ってちょっと高橋少年の言いたいことわかんない顔すると、 「おれがしてあげたかったことして、それで喜んでもらえたってことは、おれはおれのままでいいってことでしょ? 中身は」 年とか、身長とかじゃなくて。 「それは、そーゆうもんなんじゃないの?」 「そーなんだけど、そういう気分にしてくれる奈津とかセンパイとか、女の人って、すごいよね」 どうにも奈津さんに99パーセントくらい「すごい」がかかってる感じで、あたしはオマケで、おお、なんだ、のろけかよ、とか思った。けど。おごってもらったの差し引いても、けっこう、やられた、って感じだった。笑顔が。えいこの爽やかスポーツ少年め。 「……キミはなんですか、年上キラーですか」 「は?」 「いえ、べつに」 あたし、オレンジジューススカートのポケットに突っ込んで、じゃあね、って手を振って、あ、って思い出して振り返った。 「高橋君、高橋君、今日、何の日か知ってる?」 「防災、の日?」 「そう、部活中、気を付けてね」 「なにに?」 「そりゃもちろん、地震に」 というような高橋少年との出会いを、買ってもらったジュースにストロー差しながら報告したら、望月君、あからさまにイヤそーな顔した。 「清水、最近ずいぶん、その高橋とやらと仲良しじゃん」 「ねー」 「いや、『ねー』じゃなくて。オレのこの複雑な心中を察してくれないと」 「やきもち?」 「悪ぃか」 きっぱりはっきり否定されなくて、 「あはははは」 「おまえ、清水、なにがおかしいか」 ここ、放送室。実はこっそりふたりきりで。 望月君、ちょっとだけ時間気にして……る振りしてるみたいに壁の時計見て。でも結局あたし見て。 あたし、オレンジジュースを望月君に渡してあげた。 「あたし、口悪いし、元気だし、吹奏楽でトランペットとか吹いてて肺活量すごそうだし、色気ないしで、ゼンゼン問題ないんじゃないの? やきもちなんて無駄ムダ」 いつか言われたことをそのままそっくり色んな意味、込めて返したら、 「そりゃまあそうだけど」 即答だよ! 「……あはははーだ、このやろう」 げんこつで望月君のあたまぐりぐりしたら、 「他の男が清水をどー見ようとどーでもいいけど」 「そーゆうもんですか」 「清水、違うの?」 「えー、なんか、あたしだけの、って感じだから、他の女の子が望月君のいいとこに気付いたりするのはヤな感じ」 「独占だな」 「だね」 「オレは清水がほかの男、見てるのがヤな感じ。他の男が清水見るのは、手さえ出さなきゃ、オレのもんだざまあみろ、って勝手だけど」 「それも独占だねえ」 「だねぇ」 思わず顔見合わせて、って、ずっとふたりだけだから、今までも見合わせてたんだけど。 「さて、ムードが盛り上がってきたとこで、ちゅーでもしとくか」 「……しない」 「なんでだよ」 「学校ではしませんー」 「ええ、なんだよ、じゃーオレは師匠から賜った技の数々を披露する機会がないじゃんか」 「賜わんな!」 師匠、って、植田クン。えーと、奈津さんと同じ会社の事務員さんで立野さんの彼氏さんでエロオヤジ大爆発の人。……オヤジ、じゃないけど。よく見ると実はけっこうかっこいいし女の子には優しかったりはするけど。なんかねー、立野さんと一緒にいると、こう、仕草や言葉のはしばしが微妙な感じにセクハラっぽくてね……。立野さん大好きオーラも大爆発だから、別に、ふたりがいいならいいんだけど。なぜか望月君はその植田クンが大好きでね……。 ……技。ってさあ……。 「学校バージョン、とかが色々あるんだけど、試してみたくない?」 「……って、たいむ、たいむー!!」 望月君、あたしにつーめー寄ーるーなー! 放送室、完全防音。放送用マイクのある台の端っちょで広げようと思ってたお弁当そのままで。 「ぎゃー、いやー、あたしこんなことしに来たんじゃないってばー。お弁当食べにきただけだもーん」 叫んだら、望月君、おお、って思い出したみたいにはっとして、時計見た。 11時57分。 「お、やべぇ」 オレンジジュースひと口飲み込んで、放送の機材、なんかかちゃかちゃセットして、ポケットから携帯電話取り出して準備オッケー、て感じで。 「清水」 「はい?」 「しばし待機」 犬にするみたいに、待て、の仕草して。 11時58分。 関東大震災の起こった時間。 ピンポン。 て放送の入る合図軽快に鳴らして、望月君、おもむろに携帯鳴らした。ジリジリジリジリジリジリ! ってなんか……目覚しみたいな音、少し鳴らして、ちょっと切って、 『ただ今、地震が発生しています。校舎に残っている生徒は安全な場所に身を隠し、校舎の外にいる生徒は速やかに安全な場所に避難してください』 で、またジリジリジリジリジリジリ鳴らす。 ……毎年思うけど、このジリジリジリいってんのは非常ベル、だよねえ? ジリジリジリ音止めて、ピンポンてまた軽快に鳴って放送終了。望月君、 「よし、オレ達も避難だ」 「え?」 あ、放送室から? と思って出ようとしたら、 「違う違う」 手、引かれて、そうえいばさっきからなんでこんなとこにこんなもんがあるのか不思議だった机の下に押し込められた。普通の、教室にある机。わざわざ狭い放送室の中にちゃんとふたつあって、 「やっぱ机の下だろ」 「……そーだね」 おもしろくないこともないからいいか、と思って机の下、ちょこんてもぐり込んだ。望月君、携帯をポケットにしまう。 「ずーっと不思議なんだけど、なんで本物の非常ベル鳴らさないの?」 去年も一昨年もヘンだと思ったんだけど。 「ああ、この時間て、残ってる生徒少ないだろ」 「まあ、ねえ」 9月1日なんて始業式あるだけで、部活がない生徒はさっさと帰っちゃうし。 「学校じゃなくて生徒会が独断でやってることだから、学校側で非常ベル鳴らしてもいい許可が下りなくってさあ。色々手続きも面倒らしいし。だから放送部の用意できる範囲で、ってことで。非常ベルの音も用意は出来るけど、あんまり本物と紛らわしーのはご近所迷惑になるから却下」 そこまで望月君言ったとこで、あたしと望月君、あたしたちが一年生だった頃のこと思い出して、机の下で一緒に笑った。 「なんか、ガンガン金物叩いてるみたいな音、あったよねえ」 「あれ、ナベとオタマ。先輩がすんの見てたけど、オレらもー、笑い堪えるの必死必死」 「えー、そんなんなのぉ? マジメにやんないとダメじゃん」 「やー、やってるほうはけっこうマジメなんだけど。こう、とにかく大きな音で緊迫感出す、っていか。多分そんな感じで」 「緊迫感……そりゃ、初めはびっくりして、何事かって思うけど」 「だろ? とりあえずそれで目的達成、ってことで」 「でもすぐに、なんか大笑いなんだけど」 「だよなあ。んでもけっこう、みんなマジメに避難すんだよな。清水も、そういや、いっつもちゃんと運動所に避難してたなあ」 「けっこうみんなちゃんとやってるよ。笑えるところは笑っちゃうけど、一応」 今頃は高橋少年だって、高校で避難訓練なんてあんの? とか思いつつ部活の先輩達と避難訓練してるはずだった。……て、あれ? 「あたし避難してるの見てたの?」 「吹奏楽部、みんな楽器持ったまま避難するから目立ってたし。オレ達も放送終了後避難させられたし。いや、てゆーか、そんなんじゃなくてさ」 「なに?」 「オレ、清水チェック入れてたもん。去年もその前も。真っ先にトランペット探したって」 「…………ふーん」 あ、顔、笑っちゃうよ。こういうのって、なんか、ねえ。こういう話するのって、不思議だよねえ。あの頃は今の関係なんて想像もしてなかったのにねえ。 あたしちょっと照れてるの、望月君笑った。なんかこう、思い知ったか、って。うわ、そんな顔で笑われちゃうと、あの、えーと。 「清水、かなり照れてる?」 「……ぜんぜん」 うそデスごめんなさい、照れてます。っていうのバレバレで。バレバレなの恥ずかしくって、 「そ、そういえば今年は、後輩とか、いないの?」 望月君、あたし、やっとそこに気が付いたか、って顔した。 「え、その顔はなに?」 「今年は三年の権限フル活用で清水とふたりっきり」 ぐるっと放送室、望月君見回す。機械が多いからクーラーきいてて。完全防音、はさっき言った。それから、放送中に邪魔が入らないように鍵、かかるし。望月君、やらしっぽい顔するし。 「学校でふたりっきりって、めったになれなくってどきどき」 「……いや、あの、まあ、そーだけど」 ドキドキ、とか言われてもっ。 「あ、清水、さっきの待機、解除ね」 「………ええ!? それはつまり!?」 机の下、なんとかからだ収まってるカッコウだった望月君、机の下から這い出す。って、なんとか収まってるのあたしも一緒で、ものすごく逃げ場なくて、 「待った、待った! ものすごく待った!」 ぎゃー、今度こそ襲われるー、と持ったら、また。 ピンポン。 放送開始して。 『地震により家庭科室から火災が発生。全校生徒は慌てず騒がず、できるだけ速やかに運動場に避難してください』 ピンポン。 放送終了。 本当ならここで非常ベル鳴るんだけどね、って望月君、あたしの手、引っ張って机の下から引きずり出して、あたし、不安定な体勢なのにそこに無理矢理キス、したー! ぎゃー。 「いやー、ほら、避難しないと、火事だし、煙にまかれて死ぬし、これ!」 「清水と一緒ならいーけど」 「あたしはいやー」 「……おまえ、冷たさ健在だなあ」 「望月君は強引さ健在じゃん!」 「改善する気ないもん」 「やだー、ってば」 白のセーラーの裾から入ってくる手、追い出して。背中にあった机、がたって揺れた。望月君、セーラーのリボン、引っ掴んだ。 「場所がイヤ? オレがイヤ?」 ……怒った? みたいな声が、放送の声と一緒だった。セリフ、棒読み、みたいな。とりあえず今ある感情、押さえてる、みたいな。 あたし、手、なんかどっか掴みたくて、望月君の半袖のシャツの袖口、掴んだ。 「……場所、だってば」 「オレは?」 「……ヤ、なわけないじゃん」 ちょっと安心したみたいに、望月君、あたしを抱き締めた。そんで、キス、して、キス、して、キス、して。 「……望月く……」 「ここはやっぱ、やっとこ。いい?」 って聞きながら、もうやってるし……。 望月君のキス、セーラーの襟元に落ちる。 「やっばい、オレ、大真面目にどきどき」 それは、あたしだってそーです、ってば……もう。 「なんで、かなあ」 あたし、こっそり呟いたのに、望月君、あたしの言いたこと分かったるみたいに、 「それは清水がオレを好きだから」 「じゃー、望月君のドキドキもあたし好きだから?」 「当然」 望月君、からだ、ぎゅってあわせてくる。あー、えーと、やりたいって、望月君主張してくる、のから、あたしとりあえず逃げるのにからだ退いたら、おしり、机にぶつかって、でもさらに望月君からだ寄せてくるから、けっきょくあたし、机に座り込んだ。 ……もしかして、この体勢は……。 とか思ってたら、座り込んだあたしの足、割って、望月君自分のからだねじ込んできた。 「……あの、もしかして、これは植田クン伝授の、技……?」 「そのいち」 いち、……いち、ってあの! ちなみにいくつまであるんですか!? って聞く間もなくて。 セーラーの裾から入ったっ手、ブラの上から、胸、触るから。うわ……っ。 あたし、望月君にしがみついた。 「……んー……っ」 慣れ、ない、んだってば、こーゆうの。 望月君の手が、胸、触ったり、脇、撫でたり。 望月君、胸、直接触りたいのにブラ、っていうかワイヤー邪魔そうにして、結局またブラの上から、ぐりって先、つまんだ。 「や……ちょ、あの……!」 とか思う間もなく、今日は早業で、 「……う、わっ……」 胸、よりはずいぶん簡単にスカートの中に手、入ってきて! あたし、とにかく望月君にしがみついた。だって、下着ずらされて、指……っ。 「……んっ、や、ん……っ」 「清水……」 指、入れるわけじゃなくて、触るから。あの、なんか、 「……や、やだ、だめっ」 だめ、とか言ってもぜんぜん逃げられなくて。てゆーか、力、入らないっ。 「うわ、やだ、望月君!」 「……やだって言っても、濡れてきてるくせに」 それは、だって。 「うわぁ!」 ちょっと、たいむー! って叫びたいの叫ぶ前に腰、がくって動いた。望月君、にやって笑う。 「感じてる、いいんだ?」 「っていうか……!」 やだもー、へんなとこつままないでー! いやー、そこはだめー、と思ってたら、 あたし、濡れてきたのいいことに、いきなり、指、突っ込まれた! 「え!? ちょ、まって……」 「だめ」 「って、……や! やだ! や……んっ」 「すっげ、ヌルヌル……」 そーゆうこと口にするなーあああ。 とか思うんだけど、言われて、なんか、ほんと、感じてたりするし、あたし。 望月君の指、出入する。たまに、ぐ、って中、ヘンに擦ったりするから、 「っあ、……ん、やだ、やだってば、望月、君!」 だって、いっつも指なんか入れないのに。そんなことより先に望月君が、入ってくるのに。 「望月君、望月君………」 「もっと、呼んで」 「や、ん! ちょっと、ほんとに……っ」 「ほんとに、なに?」 「あ……ゆ、び、が」 「指?」 「ん……」 「指がなに?」 「だ、っから……!」 「だから?」 「……やだ」 「なんで?」 なんではあんただー、なんで絶え間なく限りなく根気よく疑問形で問いかけてくれるかなあ! あたし、しがみついてたの、なんとか手、離して。望月君の首から、胸元の、まだほんの少しも乱れてないシャツ、掴んだ。相変わらずしがみつくみたいに。でも、違う、ここじゃない。 「…………ん、望月君……」 あたしの手、望月君のベルトまで降りる。も、少し下、思い切って触ったら、望月君、うわ、って悲鳴上げた。 「ばか、へんなとこ触んな!」 もともとへんなとこ触ってんのはおまえだあ! あたし、ムキになって望月君のチャック下ろしたら、 「待った、待った!」 あたしには待ったなしのいきなりだったくせに、望月君、自分だけ待ったしやがった! そんであたしから飛び退いて、指、抜けた。 「やーだー、もー」 あたし、息、大きく吐き出して、足、閉じた。 「ばかー」 ってあたしが恨めしそうに見たの、望月君、息、飲んだ。 「うっわ、おまえ」 「なにさっ」 「……なにさ、って、その顔……」 望月君、もー、どうにも我慢できないって顔で。ばかー、とか言ってるあたしに欲情した顔で。 「顔がなんだ、ばか!」 「……オレ、ばか?」 「それは前からだけど!」 「……今も?」 「だぁって」 「だって?」 望月君、どうどう落ち着け、って仕草しながら、 「清水おまえ、極悪にオレを誘ってるだろ」 「え……」 「オレ、めちゃめちゃ誘われてるんだけど」 指先、ちょっと震えながら、あたしのほっぺ、触る。 触られて、あたし、びく、って肩、すくめた。 「え、こんなんにも感じるの?」 あたし、ちょっと泣きそーに望月君睨んだ。 そうだけど! だから、感じるとか言うなあ! わざわざ口にすんなあ! 「だって、だから、それは望月君が!」 「オレが?」 あたし、びくってするのかまわずにあたしの顔、触って。キス、する。望月君、あたしの唇、舐める。 「オレが、なに?」 「望月君、いつもみたいにすればいいじゃん。指、やだ」 「……なんで?」 あたしが、ちょっと、やばい、我慢できないの、望月君も一緒で我慢できないみたいに、喘ぐ、みたいに。 「なんで指、だめ?」 「だって、なんか、一方的に弄ばれてるぽくってやだ」 「弄……ぶ?」 「なんか、いつもの望月君と違うし! 植田クン技、却下!」 望月君、うわ、って顔赤くした。それで、慌てて言い訳、とかする。 「いや、とりあえずオレにも考えが……」 「なにさ」 「だっておまえ、なんか初めっから、いっつもオレだけやってるっぽくない?」 て、そーんーなー悩みを植田クンに相談しーてーるーのーかー!? 「やー、だから、オレは気持ちいいんだけど、清水、どーかなとか、思ったり」 「……それ、親切なの?」 「一応、心から」 ……あたしも、顔、赤くなる。ここは、ありがとう、って言うべきですか、どーなんですか!? 「清水、気持ちいい? 一緒にいたら心、満たされるから大丈夫、とかじゃなくて、気持ちだけじゃなくて、からだも、さあ」 ……あー、こういうことマジメに考える人なんだなあ。そうだよね、そー、なんだよね。 「……もー」 「オレ、バカ?」 なんだかしょぼんとする望月君の襟元引っ張って、あたしが、キスした。 「でも、好き、かも」 「かもってなんだ、かもって」 「あはは、好きです」 「断定?」 「決定」 「……オレも好き」 好き、だから、キスして、その先も、する。 好き、だよ。 だからさあ。 「あの、さあ、望月君。あたしも、えーと」 あー、そのー、ねえ。 「……気持ち、いいよ?」 ぎゃー、あたしの口がー、なにか言ってるー。 「だって、だから、さあ」 実は、ほら、ちゃんといつも、あたしイくまで望月君、してくれるし………。とか、さすがに口にできなくて心の中で思うくらいは思った。そんなあたし見て、望月君、あはははーって、無理矢理、笑うしかないみたいに笑った。 「清水のはにかんだ姿、かわいいなあ」 かわいくてなんで笑うかな。 「そんな、無理矢理かわいいとか言わなくてもいいです!」 「ばか、おまえ、無理矢理なわけあるか」 「って言いながら、まだ笑うし!」 「……だって、さあ」 「なによ」 望月君、机に腰掛けたままのあたし、抱き締めた。肩のところ。でも、すぐに、頭だけ、抱え込むみたいに。 「笑って気でもそらしとかないと、限界なんだってば」 あはははー、って、あたしも笑った。 「あたしも、かも」 「んじゃ、あらためて」 望月君、さっそくあたしの下着、下ろしながら。下着しか脱がせれないのに、ちょっとがっかりな吐息した。 「やっぱ、学校はだめだな。裸にできないしな」 「……ねー」 ほらみろ、って、とりあえず、同意して。や、いや、裸でできれば学校でもいいとか、ぜんぜんそーゆう意味じゃないけど! 「もう、植田クン技なしだよ?」 「……しないから、清水、あのさあ」 「なに?」 「師匠の名前でも、最中に他の男の名前出されるとムカつくんだけど」 「……そうなの?」 「んー」 「ごめん」 「許さん」 望月君、あたしの足首持って引っ張って、乱暴に自分に引き寄せた。 わー、ぎゃー、犯ーらーれーるー! って思ったのはほんの一瞬で。 「……清水」 って呼ばれて、なによりもまず、って感じでキス、した。 ゆっくり、たくさんキスして。 でも限界の望月君、切羽詰ったみたいにあたしに入ってくる。 「……ん、く……」 この瞬間、好き、かも。 初めの頃はなんだか痛いばっかだったけど。なんか、今は、すごく望月君、感じる瞬間みたいな気がする。 「清水……」 押し込まれる感覚に、眩暈、する。 「あっ……っあ、望月く……」 「声、もっと出しても平気だから」 そんなこと、言われても……。 「や……」 「やだ?」 「ん……」 「……そーやって我慢してんのもかわいい」 「………ん、もー」 あたし、声だけ抵抗、するの。 「清水」 って、声だけ、なだめられながら。 望月君、あたしに奥まで入るのに、あたしの腰、抱えた。机がぎしって悲鳴上げる。 「んんっ!」 あたしの場所、机、ふたつ分だけで。逃げ場、なくて。って、逃げたいわけじゃないけど、なんか……っ。 「やっ……ん! あ、ああ……っ」 望月君、動く、から。そーゆう、そこからの気持ちいいの、ずっと掴まってたい気もするし、逃げたい気もする。 「いやあ、ん、望月君……!」 机の上じゃ、掴むものなくて、望月君だけ、掴む。 「……っ、清水……」 「……気持ち、いい、よ?」 「そう……?」 「ん……もっと、して」 望月君が笑ったの、わかった。ちょっと、さすがに、あたしもいっぱいいっぱいだから、ツッコミとかあたしにも望月君にも入れてる暇なくて。後から思い出すと「もっと」とか、ぎゃあ、すごいこと言ってるけど。無意識! そう、それ! 無意識だから、本音だったりするけど、いいじゃん、知ってるの望月君だけだし……ねえ……。 ◇ 後日。 避難訓練報告書が校内新聞の隅っこに載ってた。 生徒会のコメントには、 『避難訓練にはみんな協力的でした。ありがとうございます。もし万一なにかがあったときも、訓練を生かして安全に気を付け速やかに避難をしてください』 とあった。 でもって最後に、 負傷者 0名 (今年は階段でコケた生徒がいませんでした、優秀) 気分の悪くなったもの 0名 行方不明者 七名 (去年よりは少ないですね) 死亡者 一名 三年 放送部 望月(原因 煙に巻き込まれ逃げ遅れた) と、あった。 行方不明って言うのは、そのとき部活や居残りをしてたはずなんだけど全員集合の運動場で数が合わなかった人たち、らしい。七人のうちの一人はあたし、かも。部活、思いっきりサボってたし。 でもって死亡者は、そのとき絶対に校内にいたはずなのに避難してこなかった人。 ……そーだよね、校内放送しといて、避難してこないって、そりゃ死んでるよね……。 望月君はその後しばらくゾンビとか呼ばれてた。……やっぱね、ばかだよね。って、あたしもだけどね……。
おわり
※別窓で開いています。読み終わりましたら閉じてくださいませ。
……9月1日をまさか書くとは……。 清水さんたちってばイロモノばっか(笑)気のせいでしょうか、いえ、気のせいでは……。 放送室とかはわたしのイメージです。放送部の方こんなん違うわ、と思ったらばこっそり教えてください。 避難訓練も、あんまり覚えてないー。非常ベル、鳴ったっけ? なにしろちょっぴりかなり遠い昔の話でして。
しかし清水さん書くのは、なんだか、たのしいですね。
なんだか背景が……もうどうしたらいいやら(笑)