受験、ちゃんとなんとかなりますよーに。
とお参りしてる最中に大あくびして、隣の望月君に呆れた顔された。
「……清水、おまえ……」
「な、によう」
望月君の言いたいこと、わかってる、けど。ここは譲れないから思わず、やるか!? ってファイティングポーズ取ろうと思ったんだけど、慣れない草履に足首、ごきってなってコケそうになって、慌てた望月君と、植田クンと立野さんに支えられた。
「正月から元気だな、清水さん」
はっはー、若者はいいねえ、とかあったかそうなもこもこのジャケット着た植田クンが、あたしの頭ぐりぐりやろうとして、でも髪、お正月の晴れ着の振袖姿に合わせてきれいにしてくれた立野さんの力作、崩してもいけなくて、肩、ぽんぽんって叩かれた。
あたしとおんなじ振袖姿の立野さんは、大丈夫? って手を貸してくれながら、
「草履、履きなれてないし、足元は砂利だし、気をつけないと駄目だよ?」
「はあい」
返事したら、よし、って笑って、元旦の初詣のものすごい人ごみにふらついたあたしの腕、に、腕からめて、腕組みしてくれて、
「じゃあ、人ごみ脱出しよう」
もうすごい、あたしと立野さん仲良しみたいに、仲良く、混雑してる神宮の境内ぱたぱた歩き出した。
「え、ちょ、なんすか、その組み合わせはっ」
置き去りにされかけて望月君が慌てて着いてくる。植田クンはなんかにやにや笑いながら、余裕の足取りで着いてくる。人ごみをなんとか抜けて、それでも賑やかに屋台並んでる参道の隅でみんなして植田クンおごりのたこ焼き食べながら、植田クンににやにやしてた理由、聞いてみた、ら。
「キレイなカッコしたかわいー女の子同士がいちゃいちゃしてるのはいーね。すごくいいね」
とか、今年最初のオヤジ発言した。
「なに言ってるの」
立野さんが笑う。嬉しそうに。
……えぇ!? ここ照れるトコですか!? ってすごい突っ込み入れたかったけど、
「なんで? キレイだろ」
「清水さんはね、かわいーよね」
「立野もかわいいじゃん」
「はいはい、着物がね」
植田クンのストレートトークに明らかに照れてる立野さんに、
「まああれだ、着飾らなくても立野はキレイだけどな。裸でも」
「……はいはい」
うわ、立野さん、セクハラトーク軽くあしらってるし。なんかすごいな、これはこれで聞いてるほうは微妙だけど、ふたりにはラブトークなんだろうなあ、ねえ、すごいよねえ……って。
「あれ、望月君?」
意見を求めようと思って振り向いたら望月君いなくって、あれ? って思ったら、なんかふてくされた顔して座り込んで、たこ焼き抱えて食べてた。
「……望月君?」
「なんだよ」
うわ、機嫌悪いのかな。顔、笑ってないし。
なに? なんか怒ってんの? って振袖の長い袖、気にしながらちょこんて横に座り込んで覗き込んだ。
ほんとは、怒ってるんじゃない、のは、わかってた。望月君がなに言いたそうにしてるのかも、わかってる、けど。とりあえず、あえてそのことには触れなくて望月君見てたら、
「あーん」
たこ焼き、つまようじに刺したの、いっこ、あたしの口元に差し出す。……あーん、って……。
「清水、はい、あーん」
え、あの……すごい、植田クンとか立野さんとか見てる、んですけど……。まあ、いいか、と思ってたこ焼き、食べたら、なんかそれで望月君、ちょっと気が済んだみたいな顔した。……植田クンと立野さんは顔、見合わせて笑ってる、けど……。
望月君はたこ焼き、最後のひとつもあたしにくれて、よし、って立ち上がった。
「んじゃ、ししょー、帰りもいっちょお願いします」
「おー」
まかせとけ、って植田クンが返事するの見て、
「なにが?」
って聞いたら、望月君、なんでもない顔して、
「ししょー、今日はオレお抱え運転手サンだもん」
「はあ!?」
そういや、そもそもなんであたしたち立野さんたちと一緒に初詣とかしてんの? って、そこんとこから疑問だったんだけど、
「はいはい、お参りすんだし、清水、ちゃっちゃと帰るぞー」
「って、車で一時間かけて連れてきてもらってトンボ帰りって。あたしたち電車で帰るから、立野さんたち、もっとゆっくり……」
「いやだ。車で帰る」
「なに、子供みたいなこと言ってんのー」
こんにゃろ、ってわめいたところで、
「一緒に帰ろう?」
だめ? やだ? って立野さんにかわいく言われて、
「そーそー、一緒に帰ろ?」
立野さんの真似した植田クンに不気味に言われた。
「一緒に帰ってくれないと、また望月にやらしーエロ技仕込んじゃうぞ」
語尾にハート付きそうな、本人かわいく言ったつもりで、ほっぺ、人差し指で、つん、とかされて、あたしもういろんな意味で植田クンから飛び退いた。
「ぎゃああ、帰る。帰ります。一緒でいーです。おねがいしますっ」
「よしよし」
植田クンが一番満足そうに笑った。
「じゃー帰るか」
なんかもう兄弟みたいに、がしがし望月君の頭撫でる。がしがし乱暴にされて笑いながら、望月君、あたし見て、少し安心したみたいな顔した。
それから笑うんだと思ったけど、笑わなくっ、て……。
「寝てていいよ?」
暖房の効いた車の中で、街中でちょっと渋滞にハマって、窓の外、ぼーっと見てるうちに眠たくなって頭の中ぐらぐらしてきて、実際、ぐらって船こいだところで、立野さんにそう言われた。
着物にシートベルトするのはきついから、運転席には植田クンで、助手席には望月君で、後ろの座席にあたしと立野さんで。
「うは、すみませんー、運転してもらっといて寝ちゃダメですよね」
「じゃなくって、寝てていいよ、って」
植田クンと望月君はなんか、仲良さそうにあれこれ喋ってる。あたしは、立野さんと、
「寝ませんー。ほんと、すみません、正月からお世話になってます」
眠たい目、こすってたら、
「受験勉強、大変そうだね」
って言われた。もうずっと眠たいのの、それが理由で。
「あー、まあ、受験生ですからー。正念場ですからー」
しょうがない、っていうか。ほんとは、初詣とかする余裕もあんまりなかったんだけど。
「でも望月君に強引に誘われちゃって」
誘われたら、誘われたのうれしくってふらふら出かけちゃったりして。
「わたしたちも誘われたんだよ」
立野さん、内緒話みたいに顔寄せて、あたしの肩にもたれるみたいにした。……じゃなくて、なんか、気付いたらあたしの頭、立野さんの肩にもたれてて。
「望月くんにね、ししょーたち、初詣行きませんかー。そんでオレたち車で連れてってくださいー。って言われてね」
「……なんで、そう車にこだわるんですかねえ」
「初詣の電車って、混むから」
「だからって……」
「清水さん、辛そうだから、だって」
「え?」
「うん、大変なのわかるけど、あんまり健康そうな顔色してないよ? だから、ゆっくり寝てっていいよ」
「……ぇえー」
寝ませんー、って思ってたんだけど、立野さんにもたれて、うとうとしてるうちにすっかり寝ちゃってた。
でもって、目が覚めたら、望月君の家に到着してた。
「……あれ?」
なんで望月くんの家?
植田クン、ていねいに朝は、うわ、ほんとは知ってたけどめちゃめちゃ親切な人だよね、って勢いであたしの家までお迎えに来てくれたのに、
「はい、到着。お疲れー。じゃあまたね清水サン」
ほい、さっさと降りた降りた、って追い出されるみたいに望月君と車から降ろされた。
いや、あの、あたし、さっさと家に帰りたいんですけど……って思ったけど、あんまりずうずうしく、家まで乗せてってよ、とも言えなくて、足元、草履でバランスとり辛くて望月君の手を借りて車から降りた。
助手席に移った立野さんと植田クンに、ありがとうございましたー、って望月君と手を振って見送って、あたし、家まで帰るのにちょうどいいバスあるかな? あ、お正月って時刻特別だったりするのかな? とか思いながら携帯の時計見ようと思ったら、その携帯、望月君に取り上げられた。え、ちょっと。
手を引っ張られて、望月君は望月君にはごくあたりまえに「ただいまー」って玄関入っていく。
ええ、ちょっとおお。
お邪魔するつもりないからっ、って抵抗したら、
「なんで? 寄ってけばいーじゃん」
「だって、お正月から迷惑でしょ? 元旦だよ、元旦。一月一日っ」
「お年玉くれるかもよ」
「いーらーなーいー」
なんで彼氏の親御さんからお年玉もらわないといけないのっ。
「だって、親が清水の晴れ着見たいって言ってたし」
だって、って、そのだってって、今の会話のどこに掛かる「だって」なんですか!?
「あたし帰るってば。こんなことしてる時間あったら」
ふと、立ち止まった望月君に、
「勉強……」
……しなくっちゃ、と言いかけたときに、望月君のおばさんが元気に玄関から登場した、から。おばさんの満面の笑顔に、なんかがっかり、帰るの諦めた。
「あああ明けましておめでとーございます。今年もよろしくお願いします。お正月からすみません、お邪魔しちゃって」
「はい、おめでとうございます」
おばさん、上から下まであたしのこと眺めて、
「あらかわいい。やっぱりね、女の子が一番よね。おねーちゃんもかわいかったけど、お嫁行っちゃったらお正月も三日くらいにならないと帰ってこないし、友久(ともひさ)男の子だし。ねえ、ほら、女の子かわいいわねえ」
望月君の家、よく遊びには来る、から、おばさんもすっかり慣れてて、
「ほんと、よく来てくれて。あ、日菜(ひな)ちゃん、お腹すいてない? お雑煮食べる?」
望月君より積極的に背中押されて、おじゃましますー、って望月君の家に上がりこんだ。そのまま居間まで通される勢いだったのを、
「清水、オレの部屋行って」
望月君の一言で、
「……うん」
飲み物なにが欲しいか聞かれたから、コーヒー注文して、望月君の部屋、入り込んだ。冬休み中のせいか、いつもよりは散らかってる……けど、汚いほどでもない。床に座るの、着物の帯がしんどくて、勉強机の椅子に座った。
「よっこいしょ……と」
初詣の人ごみのせいか、着物のせいか、中途半端に居眠りしたせいか、なんだか疲れて溜め息ついた。
お正月から疲れてるってヤだな……。
もっと疲れちゃわないうちに早く帰って勉強……。
「あ」
人の机の引き出し勝手に開けて、目当ての参考書を探して見つけて開いた。さっきからずっと気になってた英語の例文があって、意味、なんだったっけ? と思いながらページをめくる。でも、その例文、見つけたところで、
「勉強禁止」
お盆、ウェイターみたいに片手に持った望月君に参考書を取り上げられた。
「あああああっ。今、答え読む前だったのにぃ」
参考書の代わりにくれたの、マグカップ、だった。コーヒーじゃなくて、牛乳……あったかい。
コーヒーじゃない文句言おうと思ったけど、牛乳はなんか甘いいいにおいがして、試しに飲んでみたら甘くておいしかった。から、文句は引っ込めた。
「甘いの、なにが入ってんの?」
「なんだっけ、蜂蜜とか」
望月君はコーヒーを飲みながら、
「小さい頃、風邪ひいたりして夜、寝付けないときによく作ってくれた」
「うわ、そんなの飲んだら眠くなりそう」
「寝とけば?」
「だって……そんな暇……」
「いいから、今日は寝とけ」
「やだ、だめ」
もう牛乳いらないコーヒーちょうだい、って手を伸ばしたけど、ひょいって身軽に避けられた。
「清水は牛乳でよし」
「よくないっ」
さらにコーヒーを狙ったけど、望月君、カップ頭の上に避けて、さらに背伸びまでされちゃうと、もうぜんぜん届かなかった。
「やだもう、望月君、今日なんか意地悪ー」
「はいはい」
「はいはい、じゃなくて、ずっと、なんか怒ってるでしょ」
「怒ってねー」
「怒ってねーことない、怒ってる。だって」
「なんだよ」
「だって望月君、今日……っ、ぜんぜんっ」
「……なんだよ」
なんだよ、って顔であたしを見下ろす、その顔が。
「……ぜんぜん、笑ってくれないじゃん」
あたし、ふくれて、コーヒー奪うの諦めて椅子に座り込んだ。
ふくれたの、あたしも怒ってるつもりだったんだけど、
「望月君、朝、も、立野さんのこと、キレーですねーってお世辞……じゃなくて本とのことだけど、言って、植田クンに立野さんに触るなって怒られてて、そーゆーの楽しそうに笑ってたのに、あたしには、おはようとおめでとうって言っただけだった」
……別に、そんなこといつものことだから、気にしてないつもり、だったのに。なんか、急に気になった。気になったら、それ文句言わないとイライラした、けど。
「あたし、別にきれーじゃないから、そういうのはいいけど、でも、なんかっ」
言ったらすっきりすると思ったのに、言ったら余計にイライラした。
イライラするのは怒ってるからだと、思ったのに。
机に置いた牛乳のにおいが甘くって。イライラしたのが胃の辺りからのどを通って、鼻の辺りで熱くなった。
「……清水?」
ちょっと優しい顔で覗き込まれたら、なんかもう、わけわかんないんだけど、鼻の奥の熱いのツンとして、泣けてきた。やばい、泣く。と思ったら、泣いてた。
「清水……」
「……あたし、帰る」
なんで泣いてるのかわかんない。やだもう、なにこれ。
こんな、面倒なことしてる場合じゃないのに。早く帰って、
「勉強……」
そう、勉強。お勉強。わかんない例文もちゃんと頭に入れないと……。
椅子から立ち上がろうとしたら、両肩、望月君に押さえられた。
「ダメ。帰んな。帰んなくってよし」
「よし、じゃないし」
「勉強も今日はナシ」
笑うわけでも、怒ったわけでも、そういう表情のない顔で言われて、
「ナシ、とかいわない、でよっ!」
そりゃ、
「望月君は! 余裕、だろうけど。だって、だからっ」
だから、
「あたし、余計に……」
「……あせってんの?」
言われて、すとん、って思って。
「あ、そっか……」
あたし、
「あせってるんだ……」
だからイライラする。泣きたく、なるくらい。
望月君は、清水、ってあたし呼んで、両手つかんで、あたしの前に座り込んだ。畳の上に、ぺたんって。手は、つかんだまま。
「清水だって、志望校、余裕じゃん」
望月君、も、余裕。ぜんぜん余裕。東京の大学、だから。春になったら、東京にいる。東京行き、もう決定なこと、先生も友達もあたしも疑うことないくらい、余裕。
「……だって、望月君、春になったら東京、なんだもん」
「お、やっと、淋しい、とか言う気になった?」
今まで、思ったことも言ったこともないけど。
「……ううん」
今も、そう思ったりは、してない、けど。
あらそう、ってがっかり気味の望月君に、
「あたしも、余裕だって思ってた、けど」
「だよなあ。勉強勉強言い出したの最近だもんなあ」
「だって、なんか、いざ受験が近付いてきたら急に」
望月君は何も言わなかったけど、手、握られて、
「……大丈夫、だとは思ってる、んだけど。もし……落ちちゃったらどーしよーって、思って。思ったら、急に、恐くなった」
「落ちるのが?」
うん、て頷いたけど、なんか違う気がして、小首を傾げた。傾げて、また同じこと言ってた。
「だって……望月君、東京行っちゃうんだもん」
引っかかってるの、そこ、で。
でもだから淋しいとかじゃなくて。
……なんだろ。
「落ちたら落ちたで、また来年、って清水、清水のおばさんと一緒にのんきに言ってたじゃん」
「それは、そう、なんだけど」
来年でも、入りたいとこに入れるならそれでいいって、思う、けど。
「……一緒が、いいなと思って」
「清水も東京来る?」
「それは、行かない。そうじゃなくって」
「でも、一緒?」
ちょっとだけ、望月君がおかしそうな顔をした。笑うのかな、と思ったけど、まだ笑わない。
「どんな、一緒?」
聞かれて、つかまれてた手、つかみ返した。
「……これからも、ずっと、一緒にいるのに、なんとなく、あたしコケちゃうの、一緒じゃないなって、思って。多分、すごく些細なことなんだけど、望月君はちゃんと前に進んでくのに、、それにちょっとでも遅れるのヤで、ぜったい、意地でも、おんなじ隣にいたくって、そういう一緒がいいなって、思って」
「……おんなじ、隣」
「振り返られたりするのやだ。待ってもらうのもいや。望月君、向こうでちゃんとやってるのわかってるから、ぜんぜん心配とかする気ないし。しないし」
「え、しないの?」
「しないよ。今だってクラス違うけどしてないじゃん」
って言ったら、望月君、負けたみたいに笑った。
笑って、それで安心したみたいに、
「なんで清水、オレ遠く行くのにぜんぜん平気そーなんだろとか思ったけど、そうか、一緒なんだ」
おかしくて仕方ないみたいに、
「そっか、東京も、クラス違うのも、一緒かあ」
そりゃすげぇなあ、って笑う。
でも、望月君がやっと笑ったことに感動するより先に、
「ええー、なんで笑うの。あたし泣いてるのにっ。勉強、あせってるのにっ」
「だって、オレ淋しかったもん」
「は?」
「いや、みんなして諸手上げて見送りしてくれる気満々なのはいーけど、東京って、どんくらい遠くに送り出されるんだよオレ、とか思って。しかも清水ですら、淋しがりもしないし」
「別に、淋しくないもん」
「だよなあ。そりゃ、会いたいときに会えなくなるし、心配とか、不安とか、どっちかっていうとオレはすごくあるけど。ちゃんと飯食ってるかとか、病気してないかとか、もしやどっかの男が清水にちょっかいかけてねーだろーなーとか思うのは、近くても遠くても一緒だよなあ」
「あたし、そんな心配されてんの?」
「されてますとも」
「じゃあ、ほら、やっぱり帰って勉強して、学校受かるっていう、一番最初の心配から解消しないと」
「それはしてない」
「えぇ?」
「受かる。そこの心配はしてない。けど、そんな根詰めてかえってコンディション悪くしててバカだなあ、とは思ってる」
「……ばか……」
「そう、バカ」
……なにおうっ。
「ばかにばかって言われたーーーー」
望月君、はは、って笑って、
「正月からオレに心配されちゃうくらいばかじゃん」
心配……。
「それ、朝からずっと……?」
「正確には冬休み入ってからずっとだけど。今朝がピーク。こいつ、絶対、さっさと家に帰してやんねー、ってくらいには」
「だから、望月君の家?」
「帰ったら、また無理しそーだから。今日は、もーちょっと休んでけ」
まあこれでも飲んで、って牛乳差し出された。……牛乳、の、マグカップ、受け取ろうとしたんだけど。ちょっとためらったら、なんだよ、って望月君、下から覗き込んできて。
その顔、もう、なんかいつもの望月君、だったから。
……だから……。
いい、かなあ? って思って。
抱きついてみた。
望月君、うわって慌てて、机の上にマグカップ置く音がして、それで空いた手、どうすんのかな、ってほんとはちょっと期待して、行方、見守ってたんだけど。マグカップ持ってないのに、かたまったみたいに、机の上にかけたまま、で。そのままで、耳元でなんか言った。
なんか、って。
「かわいいなあ」
って。
……………………ぎゃあぁ。
思わず望月君突き放そうとした、んだけど、できなくって、望月君が指先、着物の襟元に引っ掛けた。え、ちょっと、なにやって……。
「こりゃ、頑強だな」
なんか、しみじみ言ってる、と思ってたら。
「着物って、清水自分で着れるの?」
「え? は? 着れない」
「そーなの?」
「あたし、浴衣も着れないのに、振袖なんか着れるわけ……」
「でも、脱いだほうが良くない?」
「ぅえ?」
…………ええ!?
「ななななななんで脱ぐ、のっ!?」
「なんでって」
望月君、あたしの襟元ぽんと叩いて、ベッド、指差した。
って、えええ!? なんでベッド!?
あたし、ぎょっとしたのに、望月君はひょーひょーと、そりゃもうわざとらしいくらい、ひょーひょーとして、
「夕方になったら起こしてやるから、それまで寝てれば……」
にやって笑って、
「……って思ったんだけど、なに、なんかえっちなこと想像した?」
「してないーっ」
即答したらよけーに笑われたーっ。
「やー、もー、望月君ばかーーーっ」
いつものノリで、がばって望月君蹴っ飛ばそうと足上げたんだけど、そういや着物だったから足上がらなくって、足袋の先、こん、って望月君の膝のヘンかすった。かすった、だけなのに、望月君大げさに痛そうにしながら、お腹抱えて笑った。
「清水、人形みたいでそのまま飾っときたいくらいだけど、帯とか苦しそーだから、脱げるなら楽にすればって思っただけ、親切で」
親切で、って強調して付け足したの、ぜったいおもしろがってる感じで。
てゆーか、ぜったい、
「下心、望月君だってあったくせにー」
「それはある」
言い切ったよ。でもって、
「清水、だって、あったくせに」
あげあしっ、取るしっ。見抜かれててるしっ。
「やー、もう帰るー」
椅子からあたし、勢いよく立ち上がったら、
「待った待った」
「帰って寝るっ」
「おふくろ、清水と夕飯食べる気満々だったけど」
「え、そうなの? いいの? ……えー、でも正直言うと、帯きつくって、食べれない気がする、んだけど」
お出かけ中は気合入ってるから、多少きつくても気にならなかったけど、望月君の部屋とか、わりと慣れた場所でこういう格好してるのは、くつろげなくてけっこう面倒くさくって余計に疲れる、気がする。
「一回帰って、着替えてきていい?」
「ここで着替えれば? オレの服貸すし」
「あー、うん、でも」
ええと……。
「実は、なんか、どーやって脱いだらいいかよくわかんないし、脱いでも畳めないし……」
白状したら、望月君きょとんとして、かと思ったら、手をつかまれて部屋から連れ出されて、居間のドア勢いよく開けた。望月君のおばさんと、さっき顔見て挨拶だけしたおじさんが、何事かって顔してるの望月君は気にしないで、
「おやじおやじ、ほい、目の保養」
おじさんの前で、なんかっ、ぐるっと一回転させられた……。
「あああああの、望月君?」
「よし、目の保養終了」
あたしのこと居間に押し込んで、
「オレ着替え持ってくるから、清水、着替えさせてやって」
望月君はおばさんに言い置くと、おじさんを連れ去った
って。……うえええ!?
おばさんは少し残念そうに、
「もう脱いじゃうの? もったいない……。日菜ちゃんのお母さんたちは、日菜ちゃんの晴れ姿、ちゃんと見た? そう? じゃあ、苦しそうだからぱーっと脱いじゃう?」
ひー。
「いや、あの、す、すみませんっ。いいいいいです、このままで、はい、ぜんぜんっ」
なぜかいつのまにかおばさんとふたりきりで、ちょっとこの状況についていけなくて慌ててあわあわ言ってたら、
「あ」
ってドア開いて、顔出した望月君が、
「どーせ脱ぐなら、オレ、あれやっていい、あれ。お殿様ゴッコ。帯、ぐるぐる……」
ごん、ってすごい音がして望月君が倒れて、なななに? っておばさんと一緒にドアの外見たら、望月君、おじさんに蹴飛ばされて倒れてた。望月君おじさんに反論で、
「なんだよ、男のロマンだろ」
おじさん呆れ顔で、倒れたままの望月君、ずるずる廊下引っ張って退場させた。
……望月家って……。
って、呆然としてるうちに、着替え、済んでた。おばさん、きれいに着物畳んでくれて、帯とかその他もろもろ山ほどついてた付属品一式、紙袋にまとめてくれて、はい、って渡されて、
「すみません、ごめんなさい。すごい、お手数かけました」
よく考えなくてもお正月から……。うわあ、おたくの息子さんのカノジョ、こんなのでごめんなさいー、って心の中で何回も謝ったの、おばさんお見通しって感じで笑ってた、けど……。
「日菜ちゃん、日菜ちゃん」
「はい?」
「その服、あげる」
……服。って。
「ええ、でもっ」
「どうせ、うちのおねーちゃん、もうそんなかわいいの着ないから」
着替え、望月君が持ってきてくれたのジーンズとシャツだったんだけど、それ見たおばさん渋い顔して部屋出てったと思ったら、持ってきてくれた服、これだった。多分、望月君のお姉さんの。
首元大きく開いたTシャツと、ええと、キャミソールみたいな膝丈のワンピース。すごい、ひらひらしてて。
……あ、あたしもこんなかわいいの着ませんー。
あの、望月君のジーンズ、この下にはいちゃだめですかね? って聞いたら、ダメって言われた。すっきりきっぱり。
「そのままのほうが、きっと友久も大満足よ?」
よ? って言われても……。
着替え終わったかー? って来た望月君が、あたしの普段ではありえないかわいいカッコ見て、
「おふくろ……ぐっじょぶ」
「ほらね」
おばさん、満足気な顔した。
……えー、望月家って、さあ…………。
◇
着替えて身軽になって、受験のことで頭いっぱいだったのもちょっと気が楽になって、夕飯ご馳走になるならお手伝いします、って申し出たら、望月君と、おばさんにまで、寝てなさいって言われた。
「ほんと、おまえ、顔色悪ぃから」
だったら帰って寝る、って言うのも却下された。
「オレは清水の体力回復に協力するから、清水もオレに協力しろ」
「……なにを?」
「瀕死の彼女の手を握るカレシ、という構図」
……ばかだ。
「あたし瀕死じゃないし」
「いいから寝れ」
だったら、こんなかわいいカッコじゃなくって、パジャマ貸して欲しかった。とか思いながらベッド、もそもそ入り込んだ。……なんか、ヘンなの。
ていうか、こんなの絶対寝れないし、と思ったけど。
望月君、なんか病人の看病するのがおもしろい感じでいそいそと毛布掛けてくれて、布団掛けてくれて、手、繋いで。それで安心したみたいに、自分はベッドにもたれて、本、読み出した。
あ、自分だけ勉強してる……。
「あのさ、望月君」
「おう」
さっき参考書閉じられちゃった英語の訳、聞いたら、すらすらって教えてくれた。それでちょっとすっきりして、望月君はその単語とか熟語の使用方法とか教えてくれたけど、聞いてるうちに……なんか、さっきも車の中で寝たし、普通に睡眠時間とってるよりも寝てる気がする、とか、思いながら寝てた。
……寝てた……んだけど。
「……ひーなーちゃん」
んあ?
呼ばれて、ぼやっと目を覚まして、目を、開けたはずなんだけど真っ暗で。
……夢?
かな? と思って、じゃあもっと寝よう、って思ったんだけど。
「日菜」
ぜったい、確かに呼ばれて、飛び起きようとした肩押されて、ベッドに押し付けられた。
「え……、なっ?」
なに? なんですか!?
「望月く……?」
望月君の声だったから、てゆーか、ここ望月君の部屋だし、他の人の声とかありえないから望月君を呼んだのに、
「……しっ」
口、押さえられた。多分、手で。……真っ暗で見えないけど。
なにー? なんだよー? って口ふさがれたままむごむご言ってたら、
「ヤバい声を出すと、おやじとおふくろが飛んでくる」
ヤバいって言われても、望月君なにしたいんだかわかんなくって。
ぅえーと、なんだろ、とりあえず大声とか出さなきゃいいのかな? って思って、わかった了解、ってその旨伝えようと思って手探りで、望月君の触ったどっか、ぽんぽんって叩いた。口から望月君の手、外れて、
「なに? なにするの?」
「イタズラ」
「…………は?」
一瞬、脳みそが思考停止した隙に、背筋、ぞっとするくらい、静かに優しく、む。
「え、な……に!?」
胸、触られた。ぎっ。
「……ぎゃ…………」
ぎゃああああああ、って。怪獣みたいに叫びたかったのに、
「ふっ……、っん…………っ」
口、塞がれた。手、じゃなくて今度は多分、口、で。
見えない、んだけど、とにかく口で。
って、なんで見えないの!?
手探りで、目隠しされてるのわかった。……め、目隠しぃ!?
なんか、細い布、取ろうと思ったんだけど、どうされてるのか簡単に多分、片手で、あたしの両手、頭の上でつかまれた。
なんで片手って分かるのかって、そりゃ、だって、望月君のもう片手、あたしの胸ずっと触ってるし。キスもされっぱなしだし。
きっと、むちゃむちゃに暴れたら望月君やめるしかないんだろうな、とは思ったけど。暴れ、たら、おばさんとおじさん来る……し。それ、この状況で来られてもすごく困る、とか思うより先に、えええええと、その、別に、イヤ、じゃなかったりした、し。
「んっ……」
なんか、キスの角度ヘンな気がして、首傾げたら、望月君、の、舌、ずるって待ってたみたいに入ってきた。う、わ。
目隠しされてるからそんな必要ないけど、ぎゅって目、つむった。そしたら、あたしのその反応、気が付いたみたいに、一気に、胸、触ってた手が、スカートとその下のTシャツ、首のヘンまでたくし上げた。ごそごそ、からだの下に入れた手が、背中でブラジャーのホック外して、直に胸を撫でた。
ふ、って望月君が笑った気がしたから、なに? って仕草したら。
キスの合間に。
「もう、ここ、立ってる」
乳首、弾かれて、からだのけぞった。
「っぅ……、や、望月く……っ」
「しーっ、静かに」
って、言われてもっ。
なにこれ、なにプレイっ!?
このやろ、植田、今度は望月君になに仕込んだっ!!
とりあえず文句で気をそらそうとしても、望月君、からだ中、触る、からっ。
「んん…………っ!」
「静かに」
って、ばか、ムリっ。
「だ、めっ。もちづ…………、むり、やめ、よーよ」
「それ、オレもムリ」
なんでさっ。
「無防備に寝こけてた姿かわいーし、繋いでた手、離さないし、すぐ、その気になってくれるし、ほんとかわいくて無理」
望月君、耳元で、目隠し取るなよ、って言って。
つかんでたあたしの両手、離したと思ったら両手で、胸元から腰まで撫で下ろした。
「……なっ」
そのまま下着下ろされて、
両足に手、かけられて開かれて、
うそ、ちょっと……っ。
ひざ、の辺に、髪、が触ったみたいな感触したと思ったら、
「え……、や、うそ……。や……っっ! ん!!」
悲鳴、あげそうになって、目隠し取っちゃえって思ってた両手で口、塞いだ。
「……ん、……ふっ、んっっ。んんっっ!」
今までキスしてた舌で、望月君舐める、から。
や、だっ……だめ、やっ、ぁん!
舐める音、聞こえる。
いつもならもう望月君が入り込んでくる場所、に、舌、とか唇の感触して……っ。
逃げたいのにすごい力で逃げられなくて、悲鳴我慢するのに髪の毛くしゃくしゃになるくらい首振った。
「あ、……ぅんっっ。……っっ! もちづき……っ」
もう、それヤダ、って名前呼んだら、ふっと望月君の気配がそこから離れた、かと思ったら、なんか、別の……。
「え……、や、なに?」
なんか、入り込んだ感触にからだ固まった。なに? なにが……?
「……指」
突然、声が耳元で。奥、の場所で指が動いて、
「やっ、やだ、それいやっ。望月君っ」
お願い、じゃなくて懇願、してるのに。それ、イヤだって前も言ったのにっ。
「望月君……」
「……日菜」
「え……?」
「日菜」
いっつも、呼ばない名前で呼ばれる理由わかんなくて、
「望月君?」
って呼んでも、かえってくるの、指の動きと、
「日菜」
そう呼ぶ声、ばっかで。
からだの、奥のほうで指、折られて、頭の奥ひっくり返ったみたいに喘いだ。
「や……だ。とも…………友久……?」
ひなひな呼ぶから、そう呼び返したら、やっと指、抜いてくれて、からだの力抜けた。
……やーだー。
もー……これ、ほんと、なにプレイなの……。
「は、清水、すげ……」
また呼び方戻ってるし、
「今年も来年も、一生よろしく」
なに、まさか新年の挨拶!? って思ってたら抱きしめられて、
「ま、ずい。オレ、入れてもないのにイきそー……」
って言うから。
じゃあ。
……じゃあ、さあ。
ぜったい、こんなのまずいと思ったんだけど。
声、出したら聞こえちゃうくらい近くに望月君のおじさんとおばさんいるし、ここでやめといたほうが賢いと、思うだんけど。
ごそ、って、膝、開いた。
「望月く……」
抱きしめられてるのの背中のシャツ、つかんで。うわ、望月君、自分だけまだちゃんと服着てるし、って思いながら、シャツ、手繰り上げた。
目隠し、したままだし、なんかよく見えないんだけど、感覚で望月君のシャツ脱がせる。望月君は黙ったまま、ばんざいしてシャツ、脱いだ。
脱いだ、から。
腕、から、手を、引っ張った。のに。
望月君、キス、とかキス、とか、キスとかするだけで。
「……んっ、ふ……」
イヤ、じゃないけど。ええええと。……あの、さあっ。
あたし、望月君の手、引っ張る。
だって、あの、欲しいの、キスよりもっと……。って思ってるのなんて、ほんとは知ってるみたいに、望月君、あたしのわき腹なぞった。
なぞ、られてっ。
「やっ。……んんっ」
……は、うわ。自分でもびっくりするくらい、からだ弾んで、つかんでた望月君につめ、立てた。
ちょ、あの、これ、もしかして。
う、わ。嘘、でしょ……っ?
じ……らされてんの!?
見えない、けど、望月君見たら。
望月君、耳元で、吐息だけで笑った。
「ひ、とで、遊ぶなぁ……ばかぁ」
「遊んでないじゃん」
「やー、うそー」
って、あたしの声、覇気ない、し。望月君、
「堪能してるんじゃん」
とか、言うしっ。
も、やだあ、って目隠し取ろうとしたのも阻まれて。
「…………っ、は……っ」
お腹、とか触られるたびに、期待、するのに、望月君ぜんぜん……っ、だから、じゃあ、って思って、手探りで見つけた望月君のジーンズのベルトに手、かけたら
、なんか、ひょいって避けて。
そういえば、望月君だってあたしには、なんでか触らせないくせに、自分だけ、また、指……。
「いっ、やぁっ」
思わず声、あげた口、慌てた望月君の手にふさがれた。でも、指……指だよねぇ!? なんか、もう、水音、立つくらい。
その中で動いてんの、指、なのかなんなのか、何本とかなに指とか、わかんないくらい濡れた場所で動かされて、
「……んんっ!」
涙、出てきた。
頭の中ぐらぐらして、からだもう横になってるのに、もっと倒れそうな感じがして望月君にしがみついた。
「清水……イった?」
聞かれて、大きく首、横に振った。イってない、ばかああ! そしたら望月君、
「あれ?」
って、言った。なにそれちょっと、あれ? じゃないしっ!
なんでそんなあんただけのんきなの!?
すごい、どっかからだと別のところでは言ってやりたいこと山ほどあったんだけど、ちょ、もう、ほんとに、辛くって、声出なくって、涙ばっかり出てきて、どうにかしてよ、って望月君の胸、叩いた。
力、入んないんだけど、何度も叩いたら、やっと。
目隠し、はずされた。
目、開けたら、望月君がびっくりした顔であたし見てた、から、あたしもびっくりした。
まばたきするの忘れてたら、溢れてた涙、流れて、びっくりして固まってた望月君、またびっくりしてそれでスイッチ入ったみたいに、慌てて涙、拭いてくれた。すごい、どうしていいかわかんないみたいに、手のひらとか、手の甲とかで涙、拭き取って、あたしの涙で濡れた自分の手を見て、呆然とした。
なんか、望月君かたまってるから、あたし、大きく呼吸して、望月君の髪、引っ張った。引っ張って、寄せた耳元で、
「……て」
「え?」
はっとして聞き返されて、もう一回、言った。
「して……。来て」
……後であたし、我に返ったとき、自分でなに言ったか思い出さなきゃよかったのに思い出して、いやああああっ、って悲鳴上げたけど。ええと、今は、いっぱいいっぱいだった、から。
望月君、一気に顔を赤くして、負けたみたいにあたしのからだ、またいだ
「……清水」
呼ばれて、なに? って傾げた首筋に、
「オレ、欲しい?」
「ん……」
「……オレが、欲しい?」
聞かれて、望月君にだけ、聞こえるように、答えて抱きついた。
「……オレも」
望月君はそのまま少しからだを起こすと、手探りで濡れた場所、探し当てて、
「あ……っ」
触られて声、上げたら、
「……悪い、我慢して」
その場所に、自分を押し付けて、少し、入ったのにあたしが悲鳴上げるより先に、シーツ、噛まされた。
「っう……んんっ!」
喘ぐ声がくぐもるの、確認するみたいに、ゆっくり、押し込んでくる。
「…………は……っ」
ときどき聞こえる望月君の声とかに、もっと変になりそうだった。
また……まだ、じさられてんのかと思ったくらい、望月君ゆっくりで。それでも最後までたどり着いて、一度、二度、揺らされて、
「……んっ、ふっっ!」
喘ぐ声、確認したと思ったら、持ち上げた腰に、一気に体重かけてきた。
「んんっ! ん、んー……っッ」
さんざん触られて、もう何回もイったみたいに麻痺してたその場所をさらに刺激されて、気持ちいい、とか、もう、なんて表したらいいのかわかん、なくてっ。
くぐもった喘ぎ声、それでも、どっかで冷静には、我慢しなくちゃってわかってて、でも、
「ふ……ぁ、んっ、ん……っ」
我慢、しきれなくて、つかんでた望月君の腕につめ、食い込ませた感触わかった、けどっ。望月君、そんなのかまわないみたいに、でもほんとはちょっとその仕返しみたいに、大きく動いた。
無理なのに、もっと押し込まれて、押されて、背中大きくシーツの上、滑ったの、引き寄せられて揺らされて。
押し上げられた波で、一回……二回、立て続けにイった、のは覚えてる……。
それ以上されるのこわくって、夢中になってる望月君、呼んだら。
望月君、呼ばれるの待ってた、みたいに、安心した、みたいに、小さく笑った。
その笑ったのに、あたしもなんだか安心して笑った、ら。
抱き上げられたからだひっくり返されて、口元に、望月君の指、かけられて。
え、なに?
背中の望月君に振り向くより先に、腰、持ち上げられて、背中に覆いかぶさった望月君が、入ってきた。望月君はまだいっぱいいっぱいで、ぎゅうぎゅうに、入って、くるから、あたしシーツ掴んだ。
「ぅあ……っ、ぁ、ぁあっ」
声、どうにかしようとしてあたしの口の中入ってくる望月君の指、噛み切っちゃいそうで、両手で追い出して、顔、シーツに押し付けた。
いっぱい、いっぱいに望月君を感じながら、やっと、ちょっと、望月君、おかしいことに頭の隅で気が付いた。
部屋で、したことは何度かあるけど、そんな、誰かいるときにしたことなんてなかった、し。
「あ……ん、ん……っん!」
からだ中揺らされて、口から追い出した指、背中から胸、何度も往復してなぞって。胸の先、たどりついては強くつままれるのに悲鳴かみ殺した。
「もちづ……っ」
名前、呼ぼうとすると深く突き上げられて、喘ぐ声、飲み込むの必死で、名前呼べなくなって。それでも、呼んだら。
「清水……」
背中、から抱きしめられて、なんか……。
え……?
耳元で、くすぐったいくらい。
……って、あの、やってることは、ぜんぜん、かわいくない、んだけど。生々しいんだけど。すごい、すごい格好、してると思うんだけど。
耳、元で、望月君。
あたしの名前ばっかり、呼ぶ、から。
呼ぶ、合間に……。
好き、とか、好きとか好きとか、大好き、とか。
ずっと、言う、から。
その声とか言葉に、
「…………ぁ」
からだ、より、もっと、なんだろ、どっか、奥のほうが我慢できなくなって痙攣、したの、が。
……って、言うのはすごい甘かったり夢みたいだったり、キレイ、な感じに聞こえるけど。
実際はもう、ダイレクトに望月君のこと、奥で、締め付けてて。
なんであたし、こんなに好かれてるんだろう、って、泣く、のより、繋がってる望月君感じてて。
子供みたいに好きとか好きとか好きとか暗示みたいに好きって言われてそれ以上の言葉なんて言われたら恥ずかしくって笑っちゃうと思ったのに愛してるって言われて爆弾みたいに落とされて。
どっちかっていうと、ココロよりからだの方が正直に、抱きしめてくる望月君の腕、抱きしめて、またイった。大きく喘いでもう限界のからだに、望月君もなにかを吐き出した。
白くてどろどろしてて。
好きでも好きでも大好きでも、そのどろどろは、薄いゴム一枚、向こうのどろどろ。
はあはあ息してる、あたし、とか、望月君、とか。
「清水……悪ぃ」
ベッド、ふたりで寝転ぶのには狭いところにふたり並んで、ふたりで布団かぶって、
「おまえ、かわいーんだもん」
ってひとのコト褒めたの免罪符みたいに、
「かわいー顔で泣くし、タガ、はずれちゃった」
……ちゃった、とかかわいぶってごまかすなあっ。
って、言いたかった、んだけど。言わないでただ、そばにある望月君の顔見てたら、望月君、
「清水?」
なんか、多分、ぼけっとしてるあたし見て、
「辛くしすぎた? それとも」
神妙な顔したまま、
「ヨかった? まだ余韻に浸ってる最中?」
とか、言うから。
「……ばか」
って、言ったら。笑って、はーい、って返事した。
「ばか、……ばーかっ」
「はいはい」
ばかなのわかってるみたいに、返事、するから。
あたし、ばかばか言うのと同じ口調で、望月君が言ったみたいに、好きとか大好きとか好きとか大好きとか言った、らっ。
望月君、あははって笑った。
うわ、笑われちゃったよ。望月君の言葉には感動してイっちやうくらいだったのに、望月君違うんだ、そーなんだ。って思ってふくれたら、ふくれたほっぺつままれた。
「痛いっ」
「当然。おしおきだもん」
「な、んのー?」
「そんなん言われたら、遠くに行きたくなくなっちゃうから、言うの禁止。ほんと禁止。もっとひどいコトしたくなる」
え、もっと、って……、
「清水がオレのことぜったい忘れないくらい」
……なんか、すごい、こと笑顔で言って、あたしの髪、撫でる、けど。
は? あの、ちょっと。
「忘れないし」
「他の男にナンかされて清水怪力で逃げらんなくても、目、つむったらオレのこと思い出す?」
怪力だとぅ!? って……じゃなくて。今のポイントそこじゃなくって。目。
目……って。ああ!
それで目隠し……って、ちょっと、あの目隠し、よく見たら、体育祭で使ったタスキ……まだ持ってたの?
「誰にも、なん、にもされませんっ」
「んじゃ、淋しくなったら、ひとりプレイで我慢しろ?」
望月君、タスキくれる。ぎゃあー。
「そんなオカシなことしないっ」
「えー?」
とか不満気に言われて付き合いきれなくて、ベッドから飛び出した、ら。
「清水、えっちぃカッコ」
そういえばあたしすごい格好してて、
「やーだ、もうっ」
望月君の頭まで布団かぶせて、ブラジャーはめなおしてTシャツとスカートきちんとして……あれ? ……ええ!?
思わずスカートの裾、押さえて辺りきょろきょろ見回した。だって、ええええと。ほら、あれだっ。
「あ」
って、許可してないのに布団から顔出した望月君、清水、ってあたしのこと呼んで、でもそんな場合じゃなかったら無視したら、なんか、やーらしく笑った。から、なんかイヤな予感して、
「なに? なに笑ってんの!?」
「清水の探し物、パンツ?」
布団、の中から、ぺろって出したのあたしの……っ!!
ぎゃあ!
あたし、自分のパンツ引っ手繰りながら叫んだ。
「ヘンタイー。バカー!」
◇
『よく眠れた? すっかり顔色よくなって』
って、望月君のおばさんににこやかに言われてすごく返事に困りながら食事を頂いたりした。
……ごめんなさいー。あんまり寝てませんー。でも、ええと、ちょっと、なんか元気です……。
『……すみません、ほんとに寝こけちゃって』
あたし、必死に会話取り繕うのに、望月君横でお雑煮吹き出しそうな勢いで笑うから、肘でぐりぐりやったらおとなしくなった。その場は。でも。
夕食頂いて、かくし芸大会とか見て、それでやっと帰ってよしって、望月君許可が下りてバス停まで送ってもらう道すがら、
「痛い痛い」
望月君が思い出したみたいに、肘でぐりぐりやったとこの痛みを訴え出した。
「うそばっか」
って口では言ったけど、はいはいすみませんね、って痛そうにしてるとこ撫でてあげたらちょっと満足したみたいだった。それからおもむろに何かを指折り数え始めたりする。
「なに?」
「初清水数え」
「は?」
「清水と初あけましておめでとう、初詣、初着物……」
言いかけて、
「清水、寒くねーの? 足、すんごい出てるけど」
もらっちゃったワンピースに、おばさんのクツ借りて、望月君のクローゼットにあった一番あったかそうなジャケット借りて着てて、
「足……って、制服、いつもこんなじゃん」
「ああ、そっか」
見た目違うから気付かなかったみたいに、望月君なんとなく納得して、
「初ひらひらワンピースに、初バカ呼ばわりに、初ヘンタイ呼ばわりに、初ぱんつに初えっち」
「わあっ」
すごい、ふつーに言うから、思わず辺り見回した。
望月君はなにがおかしいのか、慌てたあたしがおかしいのか、笑ってる。
バス停で、そろそろバスの来る時間で、
「んじゃ、またね」
何気なく、いつもみたいに言ったあたしに、望月君はちょっと変な顔をした、から。
「……なに? ヘンな顔……」
……してるよ? って言い切るより先に、気が、付いた。
そういえば望月君、なんかおかしかったこと。
それって、もしかして。今日、っていう日が。
今日、っていう日は、昨日が今日になって年が変わって、去年が、今年になって、それだけの、ことだけど。
またね、って言えば、また、会えるけど。
あけましておめでとうって浮かれてたけど。今年は去年とはぜんぜん違う。
もうすぐ制服、着なくなる。
朝、目が覚めて支度して、学校行くだけで会えるわけ、じゃなくなる。そういう年、で。
多分、望月君、そーゆうことけっこう考えちゃうひと、なのかもだけど。
……けど。でも。
「……ヘンな顔っ」
望月君のほっぺ、両方つまんだ。
「痛い……」
「おしおきっ」
「なんのだよ」
「さびしそーな顔、禁止」
「……なんで?」
ほっぺ、つままれながら……望月君、意外にさびしんぼの顔、やめない、から、つまんでたほっぺ、なでなでした。
望月君ってさあ。そういえばさあ。
「なんでもなにも……泣きそう、だから」
「オレが?」
「望月君が」
そういえばこのひと、いつだったか立野さんに失恋したとかでぽろぽろ泣いてた、よねえ。あたしのことでも泣く、のかなあ。
でも、遠くに行っちゃうの望月君、なんだけど。
あたしは、ここに、いる、んだけど。てゆーか、明日とか、まだぜんぜん会えるんだけど。
それでも、明日とか明後日とかの話じゃないことで、淋しがれちゃう、んだ? そんな顔しちゃうんだ? ええー。なんか、さあ。
……なんかもう、どうしようかなこのひとさあ、って思って。
「はい」
望月君に、手、出した。
なんだよ って言われて。
「ちょーだい」
「なにを?」
「コンイントドケ」
そう言っただけで望月君はがばって顔上げて、すごい、期待した顔で、
「……ハンコ」
「持ってないし、今は押さないし、市役所お正月休みだし」
「じゃー、なんでいるんだよ」
「こ」
「こ?」
「……今年は、もらっとく、だけ、だけどっ」
でもさ、
「今年は、って、来年、は?」
よりによって年、明けたばっかで来年の話もどーよ、って思ったけど。
「……来年は、来年次第」
ってぇことでどうよ、ってちらっと見上げたら、
「来年、どーにかならなかったら?」
「そのときは再来年」
「それでもダメなら?」
「また次の年」
とか言ってるうちに、別に、ふたりにある時間、今年だけじゃないの望月君、気付いたみたいだったけど、
「……ちぇー」
って、一応、つまんない顔した。
ちぇー、じゃないし。
バス、来たし。
いっつも無駄に持ってる届書、早くちょーだい、って差し出した手に、望月君、勝つの諦めたみたいに笑った。
「今、持ってねー」
「は? うそばっか」
うそ、ぜったいうそなのわかったけど。
「持ってないもーん」
言い張って、
「明日、やる」
って言った。
明日……。って、それ、あたしが、またね、って言った、から、またねが明日……? 早っ。
……でも、
「んじゃ……明日、ね」
バスに乗ったら、望月君、今まで泣きそうだったのうそみたいに、またなー、って手、振ったからあたしも振った。
また、明日。
明日も会うなら、勉強、わかんないとこ今夜中に書き出して明日、聞きまくろう、とか考えた。そんで婚姻届、もらって……えーと。
なんか、ぜったい、来年のお正月、とかになったら、去年のお正月はあほなことしてたよね、バカだよね。誰がバカって望月君だよね、泣きそうだったもんね、って、あたしはあたしで泣いたの棚に上げて思いそうな気がしないこともなかった、けど。
けっきょく、ふたりともばかだよね、ってことで落ち着いちゃうんだろー、けど。
……それはそれで、まあ、いいような、気がした。
今年のお正月は、こんなお正月。
おわり